菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂『怒』(マシンガンズ)

笑魂シリーズ マシンガンズ 「怒(ど)」 [DVD]笑魂シリーズ マシンガンズ 「怒(ど)」 [DVD]
(2008/12/03)
マシンガンズ

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ボヤキ漫才の歴史は、意外と短い。そのスタイルの創始者と言われているのは、1960年ごろに結成されたという都家文雄・荒川歌江。文雄が一方的にボヤいているのを、歌江が一生懸命に止めようとする芸風だったという。それを引き継いだのが、ボヤキ漫才を一般に広めたとされている人生幸朗・生恵幸子のコンビ。幸朗は文雄の弟子に当たるので、直系の芸風といえるだろう。その後、ボヤキ漫才は衰退の一途を辿っている様だ(ロックと称し、世間に対する不満をぶちまけていたハリガネロックが、その系譜の中に入るかもしれないが……)。そんな中、ボヤキ漫才の新鋭として飛び出してきたコンビが、マシンガンズだ。

過去、ボヤキ漫才を得意とするコンビには、必ずツッコミとしての制止役が存在した。ボヤキ役の芸人が言っていることは過剰なことであり、決して正解ではないという曖昧さを生み出すためだったのだろう。或いは、芸人が社会の不満に対してストレートに意見を述べるのは、おこがましいという意識があったのかもしれない。あの毒ガス漫才のツービートにだって、一応の制止役はいた。

しかし、マシンガンズには制止役が存在しない。舞台に上がってきた途端に、二人で激高しながら世間に対するボヤキをぶちまけている。そのボヤキの対象となっているものも、バカな言動を繰り返す女から、携帯電話の説明書、新聞メディア各社に至るまで様々だ。それだけ多くの対象を敵に回しているにも関わらず、マシンガンズの漫才はしっかりと面白い。何故か。

その理由は、おそらくマシンガンズの漫才が“あるあるネタ”の形式を踏襲しているからではないか、と考えられる。例えば、『居酒屋』をテーマにした漫才では、彼らは居酒屋の客についてのボヤキを発散する。そのボヤキの中で、彼らは居酒屋の客が実際に行っているだろうやりとりを、客に披露する。その「実際に行っているだろうやりとり」が、あるあるネタとなるわけだ。そう考えると、マシンガンズの漫才は、いつもここからの『暴走族』に似ていると言えるのかもしれない。

ただ、マシンガンズの漫才には、たまに核心を突いたものもあるから、油断ならない。例えば『携帯電話』をテーマにした漫才の中で、彼らはこういうボヤキを繰り出している。

西掘「後ろの方に「故障かな?」って思う場合……」

滝沢「Q&Aみたいなヤツだな、ああ」

西掘「酷いんだよな!」

滝沢「なあ!」

西掘「「もしも電話が繋がらない場合、以上のことが考えられます。電源は、入っていますか?」」

西掘・滝沢「当り前だっつんだよ!!」

(略)

滝沢「その後、なんか続き書いてあんだよなあ!「それでも電話が繋がらない場合、こちらまで。フリーダイヤル0120……」」

西掘・滝沢「だから電話が繋がらねえっつんだよ!!」

先のボヤキはオーソドックスなボヤキだが、注目すべきは後のボヤキである。携帯電話が繋がらない状況なのに、どうやって連絡すれば良いのか。大抵の家には家電があるということを考慮しているのだろうが、それは電話会社の押し付けの様に思えなくもない。その、さりげなく生まれてきた油断を、マシンガンズは力いっぱい突く。特に『ニュース』ネタの時は、この核心を突くボヤキが多かったように思う。時事ネタ漫才をメインでやっていくようになれば、面白いかもしれない。

今年で結成十年目を迎えるマシンガンズ。このタイミングで漫才師として開花してしまったというのは、幸か不幸か。まだまだボヤキ漫才師としてのポテンシャルはありそうなので、幸と考えるべきなのだろう。数多くの思想が渦巻く現代社会の中で、万人を笑わせるボヤキを生み出すのは難しいだろうが、それでも挫けず、芸人としてのポテンシャルを下げることなく、現在のスタイルを貫いてもらいたいものだ。うん。


・本編(40分)

「メイキング」『女』「メイキング」『居酒屋』「メイキング」『ファン』「メイキング」『ニュース』「メイキング」『携帯電話』「メイキング」『合コン』「メイキング」

・特典映像(36分)

マシンガンズの真実 ~ソフトバージョン~」

マシンガンズの真実 ~ハードバージョン~」