菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『故・鳥居みゆき告別式 ~狂宴封鎖的世界~』

故 鳥居みゆき告別式 ~狂宴封鎖的世界~ [DVD]故 鳥居みゆき告別式 ~狂宴封鎖的世界~ [DVD]
(2009/01/21)
鳥居みゆき

商品詳細を見る

昨年の春。僕は鳥居みゆきのことを「今はテレビで活躍しているが、いずれ舞台へと戻っていくことだろう」という風にブログで語った。あれから、およそ九ヶ月。以前ほどではないにしても、未だに彼女はテレビの世界に生き続けている。そして浮かんできた、まったく逆の推論。もしや前作『ハッピーマンデー』は、テレビが主戦場ではないという彼女のメッセージが込められた作品ではなく、これまでのカルト的なコント世界に対する決別の意味を込めた作品だったのではないだろうか。

その真意を確かめるべく、今回の作品を鑑賞した。タイトルは『故・鳥居みゆき告別式 ~狂宴封鎖的世界~』。なんとなく胡散臭いサブタイトルが、鳥居のカルト芸人臭を醸し出している。香典を模したパッケージは、その胡散臭さを更に誇張する。ケースを開くと、葬式会場への道筋を表した「鳥居家」のシールが、実にさりげなく挟み込まれている。もはや胡散臭さを通り越して、妖気すら漂っている。

DVDを再生すると、鳥居みゆき告別式の様子が映し出される。鳥居の死を悲しんでいる関係者たちに、弔問客の様に迎え入れられる観客たち。とてもお笑いライブとは思えない、物々しい空気に包まれている。その傍らには、2000本安打を達成したときの記念バットと、マスターズに優勝した時のトロフィーが置かれている。実に小賢しい。それらを通り過ぎると、舞台上に置かれた棺と、その上に飾られている鳥居みゆきの白黒巨大肖像パネルが目に飛び込んでくる。その舞台セットは、どこからどう見ても、完全に告別式のそれだ。式は静けさとともに始まり、滞りなく進められた。司会役の女性は淡々と式を進行し、鳥居の友人と名乗る人々が、鳥居へ最期の言葉を送り続けていく。ところが、突然の稲光とともに事態は急変する。親族も、葬儀屋も、友人たちも、坊主も、気が狂ったように「ヒットエンドラーン!」とのたまい始めたのだ。まるで、鳥居の霊に乗り移られたかのように……。以上が、今作のオープニングセレモニーである。ここからはちゃんと、鳥居みゆきによるネタライブが始まる。

鳥居みゆきは今作においても、相変わらずカルト的でカオスな笑いを提示し続けていた。捨てられた人妻は想像妊娠するし、牛乳飲んでイリコ食べてトリップしちゃうし、女子高生ルックで死刑なんかも執行しちゃう始末。その、どうしようもないほどに不健全だけどちょっとだけ上手い世界観は、かつて鳥居が『ハッピーマンデー』で見せていたものと、まったく同質だった。ただ、テレビへの露出量が増えたためか、以前よりもマイルドな笑いになってきた気もする。特に、芸能ネタが多くなっていたような。元々がこってり濃厚としていたので、今の方が口当たりが良いと言えるのかもしれない。

そういったネタと平行して、鳥居不在の告別式も続けられていく。こちらはそのシチュエーション故に、ブラックユーモア色の強い内容。いや、そもそも鳥居のネタ自体、ブラック度が色濃いのだが。鳥居の両親による挨拶は最終的に金の無心に走っているし、VTRでは葬儀社のコマーシャルが流れっちゃうし、肝心の遺体は紛失するし。普段の鳥居が見せている笑いが、他人の手によって料理されていく様子は、なんともいえない味わい深さを感じさせられた。

前作『ハッピーマンデー』と同様、今回の作品もホラー色の強い演出が多く用いられており、それがなんだか「根本的なところでは鳥居は何も変わっていないのだよ」という、鳥居からのメッセージであるかのように感じられなくもなかった。ただ、先にも書いたように、鳥居のネタにおける毒はさりげなく弱まっている。それがテレビ露出過多による一時的なものなのか、それとも鳥居が意図的に行ったシフトチェンジなのかは、分からない。ただ、鳥居の笑いの質が、微妙に変化してきていることは確かだ。2009年の鳥居みゆきからも、目が離せそうにない。

個人的には、舞台で演じられたコントよりも、幕間に流された映像の方が印象に残っている。例えば、タイトル以上でも以下でもない構成でブラックでナンセンスな一言ネタが繰り出される「死ぬまでにしたい10の事」だとか、自殺寸前の姿を撮影したという「生前VTR」だとか。だが、それらの比にならないほどに強烈だったのが「ペッコリーズキッチン」。往年のシノラーを髣髴とさせる衣装で、きゃぴきゃぴるんるん(死語)と動き回る鳥居の姿は必見。色んな意味で。


・本編(約83分)

「開場」「オープニング」『授けモノ』「代理弔辞」『背が高い』「ペッコリーズキッチン」『陽と陰』「遺言発表」『死刑執行人』「死ぬまでにしたい10の事」『センパイ』「遺体がありません」『だるま落とし』「生前VTR」『チンドン』「エンディング」

・特典映像(約4分)

「ショートフィルム「散骨」」

「Documentary of 狂宴封鎖的世界