菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ゆってぃ ちっちゃい事は気にするな ~ワカチコTOUR2009~』

ゆってぃ ちっちゃい事は気にするな ~ワカチコTOUR2009~ [DVD]ゆってぃ ちっちゃい事は気にするな ~ワカチコTOUR2009~ [DVD]
(2009/06/24)
ゆってぃ

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爆笑レッドカーペット』で初めてゆってぃを見たときは、てっきり日野誠が芸人デビューを果たしたものだと勘違いをしてしまい、とっても驚いた。日野誠というのは、“自称アイドル”として活動している謎の男のことだ。理解できないかもしれないが、そういう男がいるのである。世界は広い。彼は今でも自称アイドルとして活動しているらしいのだが、果たしてそれで食っていけるのだろうか。謎だ。まあ、日野誠のことはどうでもいい。とにかく、初めてゆってぃを見たとき、その日野誠と間違えて大いに驚いたのだ。しかし後で、ゆってぃの正体が実はとーどーゆーただと知ったときは、それよりもずっと驚いた。

とーどーゆーたというのは、かつてマンブルゴッチというコンビで活動していた人力舎所属の芸人だ。コンビ解散後はグーニーズというトリオを結成していたが、それも数年の活動の後に解散している。その後、特に音沙汰がなかったので、てっきり芸人を廃業したか、或いはくすぶってしまったものだと思っていたのだが。まさか、この時期に芸人としてブレイクすることになるとは、まったく思ってもみなかった。それにしても、とんでもないイメチェンだ。聞いた話によると、正統派漫談を目指していたにもかかわらず、事務所から「アイドル路線で行け」との指令が下ったのだそうだ。指令を下す方も下す方だが、その指令を受け入れる方も受け入れる方である。

そんなゆってぃのネタは、“アイドル目指して12年”な彼が、これまでに体験してきた悲観的出来事を「ちっちゃいことは気にするな!」というキャッチフレーズとともに、次々と披露していく自虐漫談だ。そのスタイルは、ダンディ坂野の自虐トークの様でもあるし、にしおかすみこの女王様キャラ漫談の様でもある。いや、むしろその両方の要素を混合して出来上がったものが、ゆってぃの漫談だと言えるのかもしれない。しかし、ゆってぃのネタは、彼らの芸風を真似ただけの、単なるコピーではない。

ダンディ坂野やにしおかすみこの漫談は、間合いや展開を大事にしたオーソドックスな漫談芸が下地となっている。しかし、ゆってぃの自虐漫談は、ネタの基本的な流れが完成しており、その上に幾つもの自虐漫談やアドリブを組み込んでいる。例えるなら、通常の漫談が一本のスパゲティで、ゆってぃの漫談は数本に分けられたマカロニだ。変な例えだが、そういうことなのである。その為に、ゆってぃの漫談は通常の漫談に対し、非常にシンプルに出来ている。余計な解説を含まず、観客が考える間を必要としないような分かりやすいネタ。そんなネタを、幾つも幾つも詰め込んでいるのだ。それはつまり、ゆってぃの漫談は通常の漫談に比べて、各段に手数が多いことを意味している。昨年末、M-1グランプリに向けて“漫才の手数論”なる理論がお笑いフリークの間を駆け抜けていったが、ゆってぃもまたその流れを汲んだ一人だったのである。うーん、恐ろしい。別に恐ろしくはないか。

その特異なキャラクターと芸風で注目を集めているゆってぃだが、その芸歴は十四年と長い(北陽と同期に当たるそうだ)。この千載一遇のチャンスを、彼がみすみすと見逃すことはないだろう。たぶん。きっと。おそらくは……うん。ゆってぃが如何にして、これからのお笑い界で生き残っていくのか。温かい目で見守っていきたいと思う。何様だ。


・本編(35分)

『ワカチコ1』『なで肩の男』『ワカチコ2』『過去と向き合う男』『ワカチコ3』

・特典映像(2分)

「ワカチコポージング解説」