菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『アントキの猪木の観れんのか、おいっ!!』

アントキの猪木の観れんのか、おいっ!! [DVD]アントキの猪木の観れんのか、おいっ!! [DVD]
(2009/08/21)
アントキの猪木

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どうして僕は、再び彼の作品に手を出してしまったのだろうか。今となっては、魔が差したとしか考えられない。前回、彼がリリースした作品の散々な出来を、当時の僕は確かに体感した筈なのに……。ひょっとしたら、僕は彼がリベンジを果たすことに期待していたのかもしれない。それ以外に考えられないのである。

お笑い史上“最もアントニオ猪木に似ている”と称されることもあるモノマネ芸人、アントキの猪木。彼のネタはアントニオ猪木を特定のシチュエーションに放り込み、そこで存分に猪木らしさを発揮させるというスタイルだ。例えば、『タクシー』のシチュエーションに放り込まれた猪木は、タクシー運転手を演じつつも、猪木であることを忘れない。ここ最近では、そのシチュエーションの中に猪木と所縁のあるプロレスラーを登場させる傾向も見られるが、個人的には小器用さが滲み出ていて好きではない。市井のシチュエーションに猪木が放り込まれるからこそ、僕はそれが笑えるものになっていると考えるからである。

……と、以上の説明からも分かるように、僕はアントキの猪木の芸が好きだ。当人のネタにアントニオ猪木に対するリスペクトが深く感じられないことは残念に思うが、そのネタは懇切丁寧に作られている。猪木に対する敬意はともかく、少なくとも彼が芸人として真面目に芸と向き合っているということ、また自らが猪木に似ているということを存分に理解して活用しているということは、火を見るよりも明らかだ。

それほどに猪木の芸を評価している僕ではあるが、前作『アントキの猪木のダーッしますか!?』は否定せざるを得なかった。観客とともに盛り上がってこそのプロレスモノマネ芸を、無観客状態で収録するという悪演出だけでも辟易とさせられたのだが、なによりその後に収録されたフェイク・ドキュメンタリーが良くなかった。とにかく、存在意義の無い映像なのである。面白くもなければ、特に感動もしない。誰が得をするのかも分からない。ネタだけを収録すれば良かったのに、なんらかの圧力で、仕方なしに収録したような、そういった映像だったのだ。

残念なことに、今作もまた前作の傾向を踏襲した内容になっていた。とはいえ、まったく酷い作品だったのかというと、そうでもない。少なくとも、ネタの映像には笑い声が足されるようになったのは、良い傾向である(あからさまに作った笑い声だったことは納得できないが)。ただ、幕間に収録された映像が、やはり誰が得をするのかがイマイチ分からないフェイク・ドキュメンタリーで、再び萎えてしまった。どうして、そこまでフェイク・ドキュメンタリーにこだわるのか。彼自身がこだわっているのか、それともスタッフがこだわっているのか……どうも、よく分からない。

しかしながら、何も悪いことばかりではない。駄作ばかりだと思っていたフェイク・ドキュメンタリーの中に、キラリと光る一粒の笑いがあったのである。その映像とは、「アントキの猪木 相方オーディション」。お笑い芸人としてM-1グランプリを意識している猪木が、相方オーディションを行い、M-1出場を試みるという作品だ。これがもう、明らかに内輪ノリだけで作られている感があり、実に下らなかった。しかも、下らないだけでは終わらず、最後にサプライズゲストが登場するという好演出。前作と同じスタッフが作っただろう映像にしては、ちゃんと存在意義のあるモノになっていたのである。良かった良かった。

既に「爆笑レッドカーペット」への出演も不定期になり、若手芸人としての勢いも落ち着いてきた感のあるアントキの猪木。おそらく、来年に新作がリリースされることはないだろう。もしリリースされたとしても、僕がそれに手を出すことはないだろう。たぶん。きっと。おそらく。いや、分からないけど。


・本編(62分)

『タクシー』『不動産屋』「闘魂の地平線」『薬局』『バーベキュー』「猪木ごはん」『初詣』『遊園地』「アントキの猪木 相方オーディション」『人助け』『信用金庫』

・特典映像(14分)

「特別試合 棚橋弘至VSアントキの猪木 15分1本勝負」