菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『天竺鼠2』

天竺鼠2 [DVD]天竺鼠2 [DVD]
(2009/10/07)
天竺鼠

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恐らく、多くの人にとって、天竺鼠というコンビからイメージされるコントは、彼らが「キングオブコント2008」で披露していた結婚式のコントや、「キングオブコント2009」で披露していた食堂とコンビニのコントなのではないかと思う。でも、実際のところ、彼らが生み出しているコントの多くは、それらのコントよりも幾分か、攻撃的だ。

天竺鼠のコントの多くは、ボケ役の川原克己が繰り広げる無茶苦茶な言動に対して、ツッコミ役の瀬下豊がひたすらに翻弄されるというものだ。まあ、コントとしては、よくあるスタイルだと言える。が、彼らの場合、この川原の振り回しっぷりが尋常ではない。

ツッコミ役をボケ役が突き放すコントの多くは、ボケ役の行動になにかしらかの理由が存在するものだが、天竺鼠のコントには、そういった理由がまったく存在しないのである。どうしてそういった行動に出るのか、どうしてそういった発言をするのか、その発端となるものがまったく見られない。そんな川原の言動を、瀬下はまったく止めない。止められない。その結果、川原の暴走は相方を無視した状態のまま、コントが終焉を迎えるまで独走し続けるのである。恐ろしい話だ。

そんな彼らのコントを、シュールだとか、ナンセンスだとかいう生易しい言葉で片付けることは出来ない。それはもはや、純粋な狂気だ。それも、野性爆弾の様に、独自性の世界観を切り開いている云々の狂気ではない。日常の中に潜り込んでいるかもしれない、リアルな狂気だ。でも、その狂気には、日常にある狂気に見られる欲望が感じられない。あくまでも、純粋にまっさらな狂気しか、そこには存在していないのだ。その、まったくの混じりっ気無い狂気が生み出す空気が、観客の笑いを誘う。

天竺鼠2』は、そんな彼らの狂気を存分に詰め込んだ作品だ。キングオブコントでも披露された『結婚式』『食堂』を始めとして、彼らの代表的コント『家庭教師』『組長』『生き別れた母との感動の再会』などを映像化した作品や、コントそのままのキャラクターな川原を野に放ったロケ映像、既存のショートコントとしての体裁を一切無視した『ショートコント』などの作品を収録している。

天竺鼠のコントを敬愛している人にはたまらない一品だろうが、僕はちょっと途中で辛くなってしまった。彼らのコントは割と好きな方ではあるのだが、川原の攻撃的な狂気に満ちた笑いを150分もノンストップで見せつけられると、流石に辛いものがある。サービス精神旺盛と言えば聞こえは良いが、ちょっとやりすぎじゃないかという気もする。何事も、ほどほどが丁度良い。うん。

それにしても気になるのは、これまで攻撃的な狂気を生み出し続けてきた天竺鼠の今後。これからも攻撃的な狂気の笑いを生み続けていくのか、それとも「食堂」「コンビニ」の様にナンセンス度の強いコントへと移行していくのか。どちらに進んでも、そこそこ面白いことにはなりそうな気がするが、果たして。今後の彼らに期待したい。


・本編(150分)

『結婚式』「ショートコント」『食堂』「ナスビくん1」『家庭教師』「瀬下1」『組長』「ショートコント」「天竺鼠ロケ強化企画~川原編~」「ナスビくん2」「天竺鼠ロケ強化企画~瀬下編~」「瀬下2」『体操』「ショートコント」『生き別れた母との感動の再会』「ナスビくん3」『おもしろコント』「瀬下3」『転校生』「ショートコント」「ブロッコリーコント」「ナスビくん4」『実況』「瀬下4」

・特典映像(10分)

『漫才』「タマネギくん」「川原50音」「川原アニメ」