菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『風藤松原単独ライブ「ゆるゆる」』

風藤松原 単独ライブ 「ゆるゆる」 [DVD]風藤松原 単独ライブ 「ゆるゆる」 [DVD]
(2010/01/22)
風藤松原

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風藤松原というお笑いコンビがいる。なにやら雅な名前だが、別に京都生まれのコンビというわけではない。ただ単に、二人の苗字をくっつけただけである。要するに、ますだおかだとか、品川庄司とか、おぎやはぎとかと同様。しかし幸か不幸か、特に狙ったわけでもないのに、なにやらアジのある名前になってしまった。まあ、別に不幸ではない。

風藤松原は、大阪府出身風藤康二松原義和の二人によって、2004年に結成された。しかし、二人が出会ったのは、それよりもずっと以前の1996年10月、全国のお笑い芸人志望者が集う吉本総合芸術学院、俗にいうNSC大阪でのことだった。二人はそれぞれに別々のコンビとして活動していたが、後に解散。現在のコンビ、風藤松原を結成することになる。その間、およそ八年の月日が流れているが、きっと紆余曲折があったのだろう。

そんな風藤松原が得意とするネタは、漫才だ。とはいえ、それはオーソドックスな漫才とは一味違った、独自のスタイルになっている。彼ら自身は、その独自の漫才スタイルを“バラード漫才”と呼んでいるらしい。余計なお世話なのかもしれないが、このネーミングはどうかと思う。まあ、別に良いんだけれども。

“バラード漫才”とは、二人がお互いに体験・目撃した出来事を発表し、口をそろえて「やだねー」とボヤくスタイルの漫才だ。とはいえ、これは単なるボヤキ漫才とは違う。何故ならば、彼らが「やだねー」と語り上げる出来事は全て、基本的に出鱈目だからだ。現実には体験できないだろう出来事、もしくは、目撃することが難しいだろう出来事を、彼らはさも本当に体験・目撃したかのように語っているだけなのだ。そして、ここがこの漫才の肝なのだが、二人はお互いが話す「やだねー」な出来事自体を、絶対に否定しない。それはつまり、ツッコミを要しないということだ。それらの出鱈目は、あくまでも真実として「やだねー」と批判的に受け入れられ、笑いに昇華されていく。

ただ、このスタイルの笑いが、二人にとって当たり前だというわけではない様だ。風藤松原太田プロライブ“月笑”で2008年の年間王者に輝いた御褒美として行った初めての単独ライブを収録した『風藤松原単独ライブ「ゆるゆる」』では、自由奔放にボケを繰り広げる松原と、そのボケに戸惑いながらもツッコミを入れ続ける風藤の姿が収められている。今作に収録されているネタは、“バラード漫才”こと『やだねー』を除くと、いずれもオーソドックスでベタなシチュエーションコントばかり。初めての単独ライブということで、ちょっと守りに入ったのかもしれない。

当たり前にボケとツッコミが行き交う二人のネタも、それなりには面白い。けれども、“バラード漫才”と比べると、物足りなさが感じられる。まず引っかかったのは、松原のボケるタイミングだ。芸人がボケるときというのは、何も自分がボケたいタイミングでボケているわけではない。ここでボケれば、客にボケがきちんと伝わるということを意識したタイミングで、ボケているのである。しかし、松原のボケは、これをまったく無視している。ぼんやりとしていたら聞き逃してしまうんじゃないかというほどに、サラリと自然にボケていくのだ。そんな松原のボケを、相方の風藤は上手く処理できていない。とにかく松原のボケに対応することだけで精いっぱいだ。そのことを考えると、“バラード漫才”というスタイルは、本当に二人に適したフォーマットだということが分かる。“バラード漫才”なら、松原の自由奔放なボケのタイミングを制限することが出来るし、風藤も無理にツッコミを入れる必要がなくなるからだ。

思えば、太田プロの芸人には、風藤松原でいうところの“バラード漫才”の様に、唯一無二のスタイルを見出すことで注目される芸人が少なくない気がする。コンビがともにボヤキツッコミのスタイルを取っているマシンガンズ、レッドカーペットで応援コント・演歌歌手コントで再注目され始めているインスタントジョンソン、農家の早乙女さんなどの特定キャラが登場するコントを生産し続ける火災報知器、茨城県出身者を馬鹿にしている都会人たちにモノ申す赤いプルトニウムなど、その枚挙に暇がない。そんな太田プロの若手たちとしのぎを削り合い、見事に2009年の年間王者に輝いたトップリードは、果たしてその単独ライブでどのような笑いを見せてくれるのか。楽しみである。……って、話がすり変わっている!

2009年は初めての単独ライブを行うだけではなく、M-1グランプリの準決勝にも二年連続で進出を果たした風藤松原。彼らの“バラード漫才”は、昨今のショートネタブームに適したスタイルだと思うので、この勢いで今年は大ブレイク! ……って、なったら面白いんだけどなあ。でも、小ブレイクくらいはしてもらいたいなあ。ゆるーく。


・本編(53分)

「電車」「俳優オーディション」「パンスト強盗」「ニュース」「歴史教師」「やだねー」「家電屋」「小学生」「告別式」

・特典映像(18分)

音声ネタ:「風藤康二検定」「いつ・どこで・誰が・何を」「早口言葉」「ネタ合わせ①」「ネタ合わせ②」

おまけ:「やだねー」(平成17年12月収録)