菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『流れ星単独ライブDVD~飛騨二人花火~』

流れ星 単独ライブDVD 飛騨二人花火流れ星 単独ライブDVD 飛騨二人花火
(2011/01/07)
流れ星

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“史上最もシビアなバラエティ番組”を謳っていた芸人ネタバトル番組爆笑オンエアバトル」において、20戦中20勝という前人未到の記録を残した漫才師が一組だけ存在する。それは、ますだおかだではなく、ハリガネロックでもなく、タカアンドトシでもなければ、NON STYLEでもトータルテンボスでもない。その漫才師の名は、流れ星。卓越した技術を持っているわけでもなく、オーソドックスな芸風だったわけでもない彼らは、その漫才師としての才能だけで「爆笑オンエアバトル」での戦いを勝ち抜いてきた。その歴史にラッキーパンチなどという生温い言葉が入る隙はない。彼らは常に、自らが信じる笑いの力をぶつけ、確実に結果を残してきた。

流れ星の漫才は、いわゆる“漫才コント”と分類されるスタイルだ。漫才コントとは、最初はしゃべくり漫才として始まるが、途中でどちらかが「○○をやってみたい」と言い始め、それをテーマとしたコントを開始する……というスタイルの漫才を示す。アンタッチャブルサンドウィッチマントータルテンボスなどの漫才師が得意としており、一時期、若手漫才師の大半がこのスタイルで漫才を演じていた。但し、M-1グランプリにおいて、ブラックマヨネーズが地の喋りにこだわった漫才を披露して以後は、付け焼刃的にしゃべくり漫才を演じる漫才師たちが少なからず増えてはいた。それでも漫才コントは、今でも多くの漫才師たちに広く演じられているスタイルの一つだ。

漫才コントが広く演じられている理由の一つに、日常的なやりとりを再現できる点が挙げられる。日常の風景にボケとツッコミを盛り込むことで、観客に広く理解されやすい世界観を構築することが出来るからだ。それは何も、現実の日常風景に留まらない。テレビでよく見かける風景を取り入れることも多い。これは、テレビ番組の中の日常を、漫才に取り入れていると考えていいだろう。そう考えると、漫才コントの根底にあるのは、“あるあるネタ”の精神といえるのかもしれない。日常風景を再認識させるあるあるネタを薄めたシチュエーションを、漫才コントは下地に取り入れているのだ。

ところが、流れ星の漫才コントは、そういった典型的な漫才コントとは完全に逸脱している。彼らの漫才コントの殆どは、決して日常ではお目にかかることが無いだろう、あまりにも特殊な状況を下地としている。そこには彼らなりのポリシーが含まれているようだ。とある漫才において、流れ星のボケ役であるちゅうえいは次の様に訴えている。

ちゅうえい「じゃあいいよ、それじゃ『山賊』やらずに『万引きGメン』とかやるか? むちゃくちゃ芸人やってるわ! あーあ、やってる。ああ、やってる。ああ、やってる。三組くらい浮かんだわ、とりあえず。『万引きGメン』、全然広がらんわ! お前、その点『山賊』は、「ああ、こんな展開もあった」「ああ、こんな展開もあった」「わあ、ここ裏切るんや!」、(満面の笑顔で)フーッ!。『山賊』をお前、俺らだけのもんにしようぜ!」

ネタ中のことなので、何処までが本気の発言なのかは分からない。ただ、流れ星の漫才コントにおいて、「他人がやらないことをネタにする」というテーマが掲げられていることだけは、間違いなく事実だ。なお、ちゅうえいの発言にある通り、この時の漫才のネタとなっているのは『山賊』。かなり突拍子もないネタである。だが、流れ星は、この突拍子もないネタを、ただ単に奇をてらったものとしては終わらせない。きちんと彼らなりに調理して、漫才コントとして成立したネタに仕上げてしまう。ここが彼らの凄いところだ。試しに、ネタの導入部分を見てもらいたい。

ちゅうえい「やっぱりねえ、今ねえ、一番問題になっているのがねえ、山賊の人手不足ね」

瀧上「……一回も聞いたことない、俺……」

ちゅうえい「なんで?今お前、だって海賊ブームやん?」

瀧上「海賊ブーム?」

ちゅうえい「なんかもう、(ねちっこく)『ワンピース』とかさ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか」

瀧上「なんでイヤそうに言うんだお前。『ワンピース』大好きじゃねえか、お前さあ」

ちゅうえい「みんな海賊になってまう」

瀧上「いや、海賊になってまうっていうか……まあまあ、海賊ブームっていうか、海賊人気あるかもね」

ちゅうえい「でしょ?だから山賊が人手不足やから、俺ちょっと山賊になろうかな思て」

きちんと『山賊』をネタにする理由が、ここで提示されている点に注目してもらいたい。ちゅうえいが『山賊』でコントをしようと言い始めるのは、まったく出鱈目な思いつきによるものではなく、きちんと理に適った理由があるのだ。そう、流れ星の漫才は、突拍子もないように見えて、実は理に適っている。その後の漫才コントもまた、『山賊』というシチュエーションの理に適った展開を見せる。独自の発想を見せている様に見えて、観客のことを第一に考えている構成。そこには、彼らがストリートで培ってきた漫才師としての思い、感情が垣間見える。

『流れ星単独ライブDVD~飛騨二人花火~』は、そんな流れ星が結成10年目を迎えた年に行った単独ライブの様子が収録されている。収録されているネタは五本と、近年のお笑いライブとしては非常に少ない。だが、その内容は、先に取り上げた『山賊』を始めとして、ちゅうえいがAKB48の様なアイドルグループを夢想する『アイドル』、動物園を楽しんでいた筈が謎の地下組織へと送られてしまう大スペクタクル巨編『動物園』、謎の漫才ヒーローが悪を討つコント『ヒーロー』など、彼らの魅力を堪能するには十二分。一方で、幕間映像には、二人のキャラクターを堪能できる楽しい企画が盛り沢山。中でも、昨年の単独ライブ『力作』でも行われた、ちゅうえいによる「瀧上さんおもてなしショー」は非常に不条理かつグズグズな内容で、なんとも面白かった。流れ星の漫才が手直しされる前の状態は、ひょっとしたらああいう感じなのかもしれない。

我が道を突き進みながらも、客のことを第一に考えている彼らの漫才師としてのスタンスは素晴らしい。だが、彼らの漫才に対する評価は、今一つ向上していないように思う。コンビ結成10年目、漫才師として一つの成熟期を迎えつつある彼らの漫才は、もうちょっと評価されてもいい。いずれ、売れる日が来てもらいたいところなのだが……。


・本編(81分)

「オープニング」「ライブ:山賊」「ちゅうえいさん実家(ちゅうえいクイズ)」「ライブ:アイドル」「リーダー決め対決」「ライブ:動物園」「心霊現象」「ライブ:ヒーロー」「瀧上さんおもてなしショー」「ライブ:お盆」「ライブ:リーダー決め対決の罰ゲーム」「エンディング」

・特典映像(31分)

「単独ライブ反省会」「お客さんの期待になるべくこたえよう!」