菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『爆笑問題のツーショット~2010年総決算~』

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(2011/01/26)
爆笑問題

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なんとなしに、爆笑問題の日本原論』を読み返した。

爆笑問題の日本原論』は、「宝島30」という雑誌で連載されていた爆笑問題の時事ネタ漫才を集めた単行本だ。1994年4月から97年までの大きな話題が、彼らの手によってネタ化されている。その一つ一つを見てみると、「尾崎豊、衝撃死に疑問?」「大江健三郎ノーベル文学賞受賞決定」「阪神大震災」「オウム真理教事件」「O-157大流行」など、もはや歴史の教科書に掲載されていてもおかしくないような話題ばかりだ。

そして、やけに過激な話題が多い印象も残る。先に紹介した事件・出来事などもそうだが、「政治」「核」「エイズ」と、今となってはなかなか取り上げられそうにないネタばかり。最初のページを開いたところにある“ごあいさつ”を見ると、「この本は、私たち爆笑問題が、世の中という漫才師に勝てるかどうかの挑戦です」とある。芸人のネタよりもずっと非常識で異常な事件が多発していた90年代において、彼らは「バカな現実以上にバカなことを言わなければならない」という使命感を原動力に、漫才を作っていた。その熱意が、当時の爆笑問題のネタをより過激な方向へと導いていたのかもしれない。

それから14年。爆笑問題は相変わらず時事ネタを相手に奮闘しているが、そのスタンスは以前に比べて随分と穏やかになった様な気がする。少なくとも、当時の様な気迫は失われた。……などと書くと、彼らから以前の様な面白さが失われてしまったと嘆いているように思われるかもしれないが、むしろ状況は好転している。そこに「バカな現実以上にバカなことを言わなければならない」と躍起になっている漫才師はいない。そこにいるのは、ただフルスロットルに「バカ」な漫才師である。

個人的にメチャクチャ笑ったのが、“K-POP”を取り上げたくだり。

太田「他の国とかも、そのうちいうんだろうね」

田中「あ、他の国」

太田「NK-POPとかね」

田中「NK-POPって何処?」

太田「北朝鮮

田中「NOATH KOREA!なんだそれは!」

太田「“将軍時代”!」

田中「なんだそれは!」

社会ネタを取り扱っているものの、そこに緊張感はない。

この変化は恐らく、近年の爆笑問題を取り巻く状況の変化が大きく関係しているのではないか、と思われる。以前の爆笑問題は、久しぶりに現れた天才気質の漫才師として、多くの文化人に注目される存在だった。当時、漫才業界は完全に西高東低と化していたが、彼らの登場はその状況を打破する可能性を見せていたのである。その才気溢れる漫才師としての実力に、文化人たちの後押しも手伝って、他の「ボキャブラ天国」に出演していた若手芸人たちを突き放す勢いで、彼らはスターダムに伸し上がっていった。ポスト北野武、反ダウンタウンの旗手として。

しかし今、爆笑問題にそういった類いの期待を寄せる人は殆どいない。彼らが、ポスト北野武でもなければ反ダウンタウンでもない、“爆笑問題”としての確固たる地位を築いたからだ。また、ボキャブラ天国」時代に共演していた芸人たちが、実力をつけた中堅芸人として再び爆笑問題と対等にやり合う機会が増えたことも大きい。彼らがボケでもガチでも暴走しがちな太田光という男の“面倒臭さ”を対等な立場からネタにすることで、太田に対する見方を変えた人は少なくない筈だ。

また同時に、ただ“爆笑問題のツッコミ”という印象しかなかった田中裕二の変人ぶりが取り上げられるようになったことも、この状況に幾らか影響を及ぼしている。例えば、以下の様なやり取りは、以前にはありえなかったのではないだろうか。

(“森ガール”について)

田中「例えば、宮崎あおいちゃんとか、蒼井優ちゃんとか」

太田「あおい輝彦とか」

田中「あおい輝彦じゃない!確かに偶然「あおい」が重なったから、俺もちょっとは悪いけど!

(太田と観客、爆笑)

太田「お前が悪いの?

コンビ結成二十年目を過ぎ、爆笑問題の漫才は早くも円熟に近付いている。その先に何があるのだろう。


・本編(63分)

・特典映像(7分)

山中アナによるニュース解説