菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ロッチ単独ライブ『ペロペロペロッチ』

ロッチ単独ライブ 「PELO PELO PELOTTi」 [DVD]ロッチ単独ライブ 「PELO PELO PELOTTi」 [DVD]
(2011/02/23)
コカドケンタロウ、中岡 創一 他

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ロッチが2010年11月に行った単独ライブ『ペロペロペロッチ』に、『自主規制』というタイトルのネタが収録されている。子ども向け番組に送られてきた保護者からの苦情への対策として、番組内で放送してきた「歌のコーナー」「紙芝居のコーナー」などを検証する……という旨のコントである。

実のところ、この“自主規制”をテーマにしたコントは意外と少なくない。僕が覚えているだけでも、さまぁ~ず、よゐこインスタントジョンソンなどの芸人たちが、自主規制コントを演じていた。恐らく、きちんと探してみれば、もっと数多くの芸人たちが、この自主規制コントを演じているに違いない。では、どうして、このようなスタイルのコントが多く演じられているのか。

恐らく、その背景には、芸人たち自身がクレームを受けてきた経緯があるのだろう。少しずつ世間に名が知られ、そのネタが多くの人たちの目に留まるようになり、それまではあまり大きくなかった否定的な意見がだんだんと多くなってしまう。その状況に対する不安と憤りが、このようなネタを生み出したのではないだろうか。事実、このスタイルのネタを作っている芸人には、だんだんと売れ始めてきた段階の若手・中堅どころが多い。主戦場を舞台からテレビへと移すことは芸人にとって一つの夢であるように思うが、それ故に我慢しなくてはならないことも少なくないようだ。

ところで、僕はこの“自主規制”をテーマにしたコントが、あまり好きではない。笑わない、笑えないわけではないのだが、どうも「クレームになんて負けないぞ!」「自主規制なんてクソ食らえ!」というメッセージが含まれている気がして、素直に笑えないのである。また、このような「(保護者という名の)絶対権力に対する批判」をすることで生まれる笑いは、手抜きな気もする。とはいえ、そこにプラスして、何か別の要素を盛り込むことが出来ていれば、また話が変わってくる。むしろ、その芸人ならではの個性が、ネタから垣間見られることすらある。少なくとも、先に名前を挙げた三組は、それが出来ていた様に思う。

しかし、ロッチの『自主規制』は、いわゆる自主規制コントの範疇を抜け出していない。既存の歌・童話に対して強引に自主規制を敢行するという構成は、まさにオーソドックス中のオーソドックス。ここから更に一展開設けるべきなのだが、彼らのコントにはそれがなかった。はっきり言って、ベタで退屈と言われても仕方がなかったように思う。

では、ロッチならではの特色がなかったのかというと、そうでもない。あまりにもオーソドックスな自主規制コントの様相を呈していながら、この『自主規制』は間違いなくロッチのコントなのである。そう思わせられる要因は、何処にあるのか。何度かコントを観返しているうちに、ある部分が引っ掛かることに気がついた。以下、引用する。

(幾つかの童話が候補から下ろされた後で)

コカド「じゃあ、『鶴の恩返し』どうすか?」

中岡「鶴ゥ? ……鳥系は大丈夫や!

コカド「なんなんですか、“鳥系は大丈夫”説!」

このやり取りの前に、『桃太郎』のお供を確認するくだりがあるのだが、そこで結果的にお供が全員鳥になってしまうという流れがあって、ここに至る。この場面における、中岡の「鳥系は大丈夫や!」というセリフに、僕はロッチならではのものを感じるのだ。鳥が大丈夫だという経緯から、絶対的に鳥を信用してしまう中岡の安直さ。この“安直な思考”こそ、ロッチのコントにおける、重要なキーポイントなのではないだろうか。

他のコントを見てみると、いずれも安直さが滲み出ていることに気付かされる。例えば、テレビに出演できると思い込んでいたコマ回しの先生が、そのことをスタッフにバレないようにと“安直”な嘘で誤魔化す『コマ名人 大小嶋』。文化祭の出し物を決める会議で、二つの候補の間を取って結論を出した後輩を“安直”に真似ようとする先輩の暴走が止まらない『間(あいだ)』。結婚式が取りやめになって落ち込んでいる友人を“安直”になだめつつ、空いた予定と予算で旅行に行こうと計画する男のゲスさが止め処無い『マリッジオーシャンブルー』。いずれのコントにも、安直で底が浅い考えの人たちが登場し、場を混乱させている。

以前から、ロッチのコントには何処となく落語の雰囲気を感じていたのだが、その理由が分かった。御隠居に教えてもらった有難い言葉を全て子供の名前につけてしまう『寿限無』や、いけ好かないヤツの苦手なモノが分かったからそれを部屋に放り込んでやろうという『饅頭こわい』の様な素朴な安直さを、ロッチのコントからも感じていたのである。……ということは、いずれ彼らのコントは、例えば『禁酒番屋』だとか『粗忽長屋』の様になっていくのだろうか。うーむ。

最後に今作の感想を。ロッチは今作以前に四枚のDVDをリリースしているが、その中でも今作は最高傑作といえるのではないだろうか。特に後半は、コカドのデリカシーがないキャラクターが爆発しており、色んな意味で物凄いことになっていた。特に観てもらいたいのが、『乳首川という男』。とにかく下らないのに、妙な深みもあるという奇妙なコントだ。是非、楽しんでもらいたい。


・本編(71分)

「どうでもええねん」「オープニング」「コマ名人 大小嶋」「間(あいだ)」「自主規制」「ジャンケンマン」「マリッジオーシャンブルー」「乳首川という男」「ヒーローのはずが…」

・特典映像(21分)

「知名度調査 in 幼稚園」「中岡 ホッケー講座」「コカド サーフィンデビュー完全版」

・音声特典

「ロッチによる全編副音声コメンタリー」