菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

タイムマシーン3号単独ライブ『メトロ鉄道の夜』

タイムマシーン3号単独ライブ メトロ鉄道の夜 [DVD]タイムマシーン3号単独ライブ メトロ鉄道の夜 [DVD]
(2011/02/23)
タイムマシーン3号

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「そのふたりの姿を見て、オレは「青春だ」と思った。これこそが彼らへの好感の原因だ。もっと具体的に言えば、学生時代、学園祭のステージに立つクラスメートを応援したときと同じ気持ちを、オレは彼らに抱いている」

これは、今から五年以上も前に出版されたお笑い評論本『お笑い解体新書』に寄稿された、会社員の木の葉燃朗氏がタイムマシーン3号について綴ったテキストである。当時のタイムマシーン3号は在関東の若手漫才師として注目され始めていた。ただ、この頃はまだ結果を残しておらず、彼らの大きな功績の一つである“M-1グランプリ決勝進出”も、本書が出版された後のことだ。

当時、このテキストを読んだ僕は、なんだか痒いところに手が届いていないような印象を受けた。確かに、彼らは青春を思わせるような、華やかさと若々しさを滲ませたコンビではあった。実際、彼らは『青春18キック』というタイトルのDVDもリリースしていた。とはいえ、それを青春という曖昧な言葉でまとめてしまうのは、如何なものか。些か乱暴な気がする。

タイムマシーン3号の漫才を一言で表現するとしたら、とりあえず浮かんでくる言葉は“ポップ”だ。明るく楽しく晴れやかな二人のやりとりには、この言葉が相応しい。だが、ポップであるということは、即ち彼ら自身が見えにくい漫才であるともいえる。ブラックマヨネーズがお互いの性格をそのまま漫才に取り込んだ逸話が知られているが、全ての漫才師は自身の漫才に対して、少なからず自己を盛り込むものだ。しかし、タイムマシーン3号の漫才には、それが見えてこない。彼ら自身がどういった笑いを求めているのか、どういう表現を成したいと思っているのかが、実に曖昧なのである。これでは、彼らは単なる爆笑を生む装置だ。

思えば、タイムマシーン3号の漫才は、かなり早い段階から完成されていた。僕が彼らの漫才を初めて目撃したのは「爆笑オンエアバトル」でのことだったが、その時点で既に彼らの漫才は今と同じ程度のクオリティを保っていた。オーソドックスで、老若男女を選ばず、それでいて面白い。ある意味で完璧だった。ただ、それが為に、彼らの漫才師としての成長は停滞してしまったように思う。

タイムマシーン3号「メトロ鉄道の夜」』は、そんな彼らが2010年に行った単独ライブの様子を収録した作品だ。そこで披露されているネタは、かつて「爆笑オンエアバトル」で見せていたようなオーソドックスな笑いに満ちていた。しかし、一方で彼らは、単なるオーソドックスな笑いから脱却しようともがいているようにも見えた。ホラー色の強い『ツいてる男』(漫才ネタ「ガリガリくん」のコント版)、時折生々しい下ネタが見られる『ある視点』、ブラックユーモアの様な展開にハラハラさせられる『消しゴム in 私の頭』などが、そうだ。純粋なネタに不純物を溶かしこむ作業は、今作においては失敗していた様に思う。しかし、この試行錯誤は、決して無駄にはならないだろう。

冒頭のタイムマシーン3号評は、次の様にまとめられる。

「だが、青春はいつまでも続かない。これから彼らはどう変わり、ファンは彼らにどんな思いを抱くのか。怖くもあるが、楽しみでもある」

コンビ結成十年目を迎え、ようやく青春期を終えようとしているタイムマシーン3号。彼らがこれまで生み出してきた爆笑ネタの数々は、これから向かうだろう新たなるステージへの到達を予感させる。タイムマシーン3号だからこそ生み出せる、唯一無二の笑い。彼らなら、きっと辿り着ける筈だ。


・本編(93分)

「最終列車」「オープニング」「一都物語」「神経衰弱」「ツいてる男」「ギリギリ君が行く!」「雲の上の存在」「細山光パート1」「ある視点」「細山光パート2」「消しゴム in 私の頭」「エンディング」「メトロ鉄道の夜」

・特典映像(26分)

「ギリギリ君が行く!~未公開編~」「漫才1「パンと米」」「漫才2「不動産屋」」