菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『U-1グランプリ CASE 05「ジョビジョバ」』

“U-1グランプリ”という大会が開催される。若手芸人がウッチャンナンチャン内村光良にどれだけ気に入られるかを競い合う大会である。彼らはステージ上で内村に対する愛をプレゼンテーションし、その熱い思いを押しつけがましくならない程度にアピールしなくてはならない。審査員には、さまぁ~ず、よゐこ、千秋、キャイ~ンなど、過去に内村と番組で共演してきた芸能人たちが参加している。審査委員長を務めるのは、内村の最悪にして最高の友人である出川哲朗だ。「チェン(内村)のことは俺が一番よく分かっている」と豪語する出川は、普段のバラエティ番組では見せないような真剣な表情で、若手たちのプレゼンを見つめる。そんな厳しい予選を勝ち抜いた先にあるファイナルステージでは、内村本人が審査する予定だ。

……すいません、冗談です。

“U-1グランプリ”とは、(モデルじゃない方の)マギーと福田雄一によるコントユニットだ。マギーと福田以外のメンバーは固定されておらず、毎回違った役者・芸人たちが集められて、二人が生み出した珠玉のコントを演じている。舞台は常にワンシチュエーション。2007年に開催された第一回公演は「取調室」、2008年に開催された第二回公演は「厨房」、2010年に開催された第三回公演は「職員室」、2012年に開催された第四回公演は「宇宙船<スペースシップ>」が、それぞれ舞台となった。出演陣には、後にブレイクした俳優も少なくなく、とりわけムロツヨシ(「職員室」)の躍進ぶりは強く記憶に残っている。

そんなU-1グランプリが、2014年にある一大プロジェクトに乗り出した。

時は90年代にまで遡る。明治大学の演劇サークル「騒動舎」に所属していた六人の男たちが、あるコントユニットを結成した。その名はジョビジョバ。メンバーは、長谷川朝晴坂田聡六角慎司木下明水石倉力。そして、マギー。ライブ中心の活動からスタートした彼らは、やがてテレビや映画などのメディアへと活動の場を広げていく。大多数ユニットとしては珍しく、メンバーが脱退するようなこともなく、着実にその評価を高めていた。ところが、2002年にまさかの活動休止。マギー、長谷川、坂田、六角は俳優として芸能活動を継続。木下は当初、タレント・俳優として活動していたが、後に引退し、現在は実家でお寺の副住職となっている。石倉は芸能マネージャー、ニート日雇い派遣などを経て、現在はセガに入社しているという。

「活動休止」を謳っていたとはいえ、メンバー六人のうち二人が芸能の世界から引退しており、実質上は「解散」という扱いになっていたジョビジョバ。それ故に、復活することなど夢のまた夢だろうと思われていた。ところが……U-1グランプリにおいて、ジョビジョバを復活させようという企画が立ち上げられたのである。そして、それは見事に実現された。本作には、12年ぶりに復活を遂げたジョビジョバによって、2014年4月25日から5月6日にかけて赤阪RED/THEATERで開催されたライブより、5月3日の公演の模様が収録されている。

 

「ジョビ!ジョバ!ジョビ!ジョバ!」

ジョビジョバのこれまでの歴史を振り返る映像が流れた後に聞こえてくるのは、六人がお互いを鼓舞し合うように響かせる気合の掛け声。舞台手前に掛かった薄手の幕には、舞台奥から照らされたライトによって浮かび上がる六人のシルエット。ジョビジョバの当時を知らない私には、その感慨深さを理解することは出来ない。だが、彼らを追いかけていた当時のファンたちにとって、この演出がとてつもないコーフンを呼び起こしていることは、容易に想像できた。やがて、幕が落ちる。かつての彼らのユニフォームだったつなぎ姿で集まった、誰一人として欠けていない、オリジナルメンバーによるジョビジョバがそこにはいた。

マギー「ジョビジョバ、早速参りましょう! コント『再結成』!」

オープニングの勢いそのままに、コントが開始される。タイトルは『再結成』。文字通り、ジョビジョバが再結成に至るまでの流れを、コントで描いたものだ。無論、その内容はフィクションなのだが、ところどころで実際の彼らの現状を反映しているところが実にニクい。そんな面々をマギーが集めていく姿は、笑えるのに、なんだかちょっと感動的でもある。この状況下で、信頼すべきパートナーとして福田雄一も登場するのだが……。冗談の様で真面目でもあり、とはいえユルいところはとことんユルく見せるオープニングは、このライブが単なる復活イベントではなく、コントライブとして傑作であることを予感させてくれた。

その後も、コントは続いていく。映画館で観る予定じゃない映画を観ることになってしまった子どもが父親に映画の内容をいちいち質問するのだが、気が付けば周りの人たちからも質問を受けるようになり……『僕とお父さん』。様々な競技の審判員がお互いを厳しい目で審判し合う『審判バトル』。レコーディングのためにスタジオを訪れた寺尾聡の口がまったく開いていない『ルビーの指環』。世界を征服することを目的とした組織の再始動を目論んでいる男がかつての仲間をとある場所に呼び寄せたのだが……『Re:世界は我が手に』。福田雄一がとあるアニメキャラに扮しているためにモザイクにまみれた姿で舞台上に姿を現す『るふぃ』。様々な手法でしっかりと笑いを掴み取っていく様は、流石の一言だ。

印象に残っているコントは『「写真撮って」』と『サプライズパーティー』。『「写真撮って」』は坂田聡がメインのコントだ。とあるドラマの撮影を終えた坂田が現場を離れようとすると、場所を借りてきた町工場で働いている人たちから興味を示され、様々な質問を受けることになってしまう。俳優としてはあまり活躍していない坂田のビミョーな知名度と人の良さがリアルに表現されている。副音声解説によると、このコントはシチュエーションを準備して、坂田は殆どアドリブをこなしているだけなのだとか。坂田自身の味わい深さもさることながら、出演者が最も活きる手法がしっかりと考案されていることに、今更ながら感心させられた。一方の『サプライズパーティー』は、サプライズの躍動感をスローモーションで表現するだけの設定ありきなコント。その法則に気が付かされてからの不条理な展開には、些か戦慄が走った。

やがてライブは大団円的に終了。詳しい内容には触れないが、ある出来事のために立ち上がった人たちが再び日常へと帰っていく様は、このライブにおけるジョビジョバそのものとリンクしていたように感じられた。ライブ終了後は、六人が白いシャツと黒いズボンの衣装に合わせて登場。ライブにおける出演者の気持ちや、六人で再びDVDをリリース出来ることに対する感慨深さを噛み締めながら、エンドトークを展開する。そして。

マギー「じゃあ、人の名前で」

五人「うぃっす」

マギー「とりあえず、セキネから」

五人「セキネから」

往年の名作コント『セキネ』の現代バージョンで〆る!

12年ぶりの復活ライブということもあって、鑑賞前は「分かる人にしか分からない内容になってしまっているのではないか……」と不安を感じていたのだが、いざ蓋を開けてみると、それぞれのキャラクターと現状をしっかりと反映した作りになっていて、彼らを以前から知っている人は勿論のこと、知らない人でもきっちりと楽しめるようになっていたのが嬉しかった。それでいて、決して古臭くなっておらず、これまでのU-1グランプリと同様に、徹底して普遍的でバカバカしいコントが繰り広げられていたのも良かった。ジョビジョバ再結成のために前回の公演が終了してから動いていたという福田雄一には、改めて感謝せざるを得ないだろう。

だが、ある意味において、本作最大の見どころは特典映像にあるといえるのかもしれない。特典映像には、ジョビジョバ再結成が発表されてからライブが終了するまでの流れが、ドキュメンタリータッチで収録されている。この裏でのやりとりが、とにかく面白い。メンバー久しぶりの顔合わせに始まり、チラシ撮影、リハーサル風景なども良いのだが、一番見てもらいたいのは、この再結成が始めて公に発表されたマギーのトークライブ(2013年12月21日)の様子。会場内に流れるトレイラーによって、メンバーが少しずつ明らかになるにつれて、どんどん観客のテンションが上がっていく様がとにかく可笑しい。気持ちは分かるけど、だからこそ本気の絶叫と号泣(※比喩ではない)がたまらない。

再結成という“祭り”の楽しさと現在だからこそ引き出せる完成度の高い笑いを両立させた名作、ご賞味いただきたい。


■本編【125分】

「PROLOGUE」「コント『再集結』」「OBASUN クロニクル」「僕とお父さん」「マッコルリ」「審判バトル」「「写真撮って」」「ルビーの指環」「捨て聖」「Re:世界は我が手に」「ザ・デニーロズ」「機長」「アフタヌーン説法」「サプライズパーティー」「猪木のキス&クライ」「マイティ菅原×スティーブン石倉」「るふぃ」「戦いの後」「セキネ」「ENDING」

■特典映像【30分】

メイキング「再集結」