菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

2015年上半期のDVDレビューまとめ

【1月】

18日:『bananaman live Cutie funny』+『bananaman live Love is Gold』

19日:『2700 NEW ALBUM 「ラストツネミチ ~ヘ長調~」』

20日:『兵動大樹のおしゃべり大好き。7』+『兵動大樹のおしゃべり大好き。8』

27日:『8号線八差路(ハチハチ)』(ハライチ)

【2月】

01日:『ナイツ独演会 主は今来て今帰る。』+『二人対談』(ナイツ)

11日:『エレ片コントライブ ~コントの人7~』+『エレ片コントライブ ~コントの人8~』

27日:『タカアンドトシ20年目の単独ライブ ~2020年東京五輪の正式種目に漫才を!~』

【3月】

18日:『ハマカーン ネタベストDVD 2013「KIWAMI」』

22日:『しずるベストコント』

26日:『チーモンチョーチュウ シチサンLIVE BEST Vol.1』『チーモンチョーチュウ シチサンLIVE BEST Vol.2』

31日:『さまぁ~ずライブ9』

【4月】

01日:このお笑いDVDがスゴかった!2013

07日:『ラッスンゴレライ』(8.6秒バズーカー)

11日:『バンビーノ「#ダンソン」』

23日:『うしろシティ単独ライブ「それにしてもへんな花」』

27日:『バイきんぐ単独ライブ「Jack」』

【5月】

01日:『エレキコミック 第23回発表会「Right Right Right Right」』

11日:『シソンヌライブ [trois]』

13日:『サンドウィッチマンライブツアー2013』+『サンドウィッチマンライブツアー2014』

【6月】

08日:『かもめんたる単独ライブ「下品なクチバシ」』

21日:『U-1グランプリ CASE 05「ジョビジョバ」』

26日:『安心して下さい、穿いてますよ。』(とにかく明るい安村)

今年も半分が終わってしまったので、その間にブログで発表してきたレビューをまとめてみた。それ以前がどうだったのかを正確に確認していないので、はっきりとしたことはいえないが……正直、少ないと思う。理由は幾つか思い当たるところがあるが、恐らくはモチベーションの問題だろう。お笑いが嫌いになったわけではないのだが、どうも以前ほど前のめりになって楽しまなくなってしまったような気がする。あと、コンテンツリーグのフリーペーパーで連載を開始したことで、文章を書くときに以前よりも妙に気負ってしまっていることも大きいのかもしれない。

下半期はもうちょっと頑張ります。ハイ。

『安心して下さい、穿いてますよ。』(とにかく明るい安村)

漫画やテレビアニメーションなどの創作物において、スカートを履いている女性がアクロバットな動作を取ることにより明らかに下着が丸見えになっていてもおかしくない状態にも関わらず、「重力に逆らって衣服が局部周辺に貼りついている」などの不自然な奇跡のおかげでその聖域が晒されない状況が垣間見られることがある。有識者の間では、これを【はいてない】と呼んでいる。善行かつ正義感に満ち溢れた視聴者からのクレームを避けるための措置なのだろうが、逆に違和感を残す映像を生み出し、こうして下着が見えてしまうよりもイヤらしい邪推の様な言葉で揶揄されてしまう現状は、なにやら皮肉めいている気がしないでもない。そんな「はいてない」を身体一つで見事に表現しているピン芸人が“とにかく明るい安村”である。

とにかく明るい安村の芸は、至ってシンプルだ。海パン一枚だけを身につけた姿で舞台に上がり、『パンツを穿いてるのに全裸に見えるショー』を披露する。安村が如何にして小道具を使うことなくパンツを隠し、全裸であるかのように見せるのか、その技法を観客は楽しむわけだ。だからといって、一度しか楽しめないというわけではない。二度目からは「来るぞ来るぞ」という期待で笑いが起こるからだ。この方程式は、なんとなく手品のそれに近いように思う。宣言した通りのことが達成され、観客からの称賛の声を浴びる。ただ、安村の場合、そのトリックがとてもシンプルであるが故に、笑いとして昇華される。とてつもなく無意味なのに、何度見ても笑ってしまう。実によく出来た芸であるといえるだろう。……どうでもいいが、冷静になって考えてみると、全裸に見える見えない以前に海パン一丁の半裸(というか九割九分裸)姿にある中年男性の動向に観客が熱い視線を送りながら笑っているわけで、これはなんだか良からぬシチュエーションに思えなくもない。本当にどうでもいいけど。

本作は、そんなとにかく明るい安村の『パンツを穿いてるのに全裸に見えるショー』の魅力を凝縮した作品だ。ベーシックな『パンツを穿いてるのに全裸に見えるショー』はもちろんのこと、国際的な活躍を視野に入れていることを匂わせる同パフォーマンスの英語・韓国語・タイ語バージョン、『キングオブコント2011』王者・ロバートの秋山竜次をゲストに招いたコラボレーションパフォーマンス『穿いてるけど全裸に見える体モノマネショー』、全裸に見えるポーズを取っている三人の安村の中から本当は穿いている安村を当てる『全裸クイズ』など、テレビバラエティよりもディープでセンシティブな安村を楽しむことが出来るようになっている。とりわけ、全裸に見えるポーズを取りながら繰り広げられる学園ドラマ『全裸学園』は、珠玉の作品だ。全裸に見えるポーズを取るたびに例の効果音が流れるのが、可笑しくてしょうがない。ちなみに、ヒロイン役として、セクシー女優の紗倉まなが出演しているが、彼女の全裸は収められていないので、彼女を目当てに購入を検討している思春期の男子は注意して頂きたい。

秋山とのコラボや全裸学園はなかなか見応えがあるが、正直、作品としてはあまりオススメ出来る内容ではない。ただ、安村の全裸パフォーマンスが好きで好きで仕方がないという人ならば間違いなく満足できると思う。興味本位で、レンタルしてみるのもいいのではないかと。なお、特典映像の『全裸アイドル』は、全裸パフォーマンスなどとは全く無関係な、本当に単なる安村昇剛のアイドル風プロモーションビデオなので、鑑賞される際には気を付けていただきたい。特に食事中の鑑賞は控えた方が。いや、本当に。


■本編【25分】

「4ヶ国語全裸」「穿いてるけど全裸に見える体モノマネショー」「全裸学園」「全裸クイズ」

■特典映像【5分】

「全裸アイドル」

『U-1グランプリ CASE 05「ジョビジョバ」』

“U-1グランプリ”という大会が開催される。若手芸人がウッチャンナンチャン内村光良にどれだけ気に入られるかを競い合う大会である。彼らはステージ上で内村に対する愛をプレゼンテーションし、その熱い思いを押しつけがましくならない程度にアピールしなくてはならない。審査員には、さまぁ~ず、よゐこ、千秋、キャイ~ンなど、過去に内村と番組で共演してきた芸能人たちが参加している。審査委員長を務めるのは、内村の最悪にして最高の友人である出川哲朗だ。「チェン(内村)のことは俺が一番よく分かっている」と豪語する出川は、普段のバラエティ番組では見せないような真剣な表情で、若手たちのプレゼンを見つめる。そんな厳しい予選を勝ち抜いた先にあるファイナルステージでは、内村本人が審査する予定だ。

……すいません、冗談です。

“U-1グランプリ”とは、(モデルじゃない方の)マギーと福田雄一によるコントユニットだ。マギーと福田以外のメンバーは固定されておらず、毎回違った役者・芸人たちが集められて、二人が生み出した珠玉のコントを演じている。舞台は常にワンシチュエーション。2007年に開催された第一回公演は「取調室」、2008年に開催された第二回公演は「厨房」、2010年に開催された第三回公演は「職員室」、2012年に開催された第四回公演は「宇宙船<スペースシップ>」が、それぞれ舞台となった。出演陣には、後にブレイクした俳優も少なくなく、とりわけムロツヨシ(「職員室」)の躍進ぶりは強く記憶に残っている。

そんなU-1グランプリが、2014年にある一大プロジェクトに乗り出した。

時は90年代にまで遡る。明治大学の演劇サークル「騒動舎」に所属していた六人の男たちが、あるコントユニットを結成した。その名はジョビジョバ。メンバーは、長谷川朝晴坂田聡六角慎司木下明水石倉力。そして、マギー。ライブ中心の活動からスタートした彼らは、やがてテレビや映画などのメディアへと活動の場を広げていく。大多数ユニットとしては珍しく、メンバーが脱退するようなこともなく、着実にその評価を高めていた。ところが、2002年にまさかの活動休止。マギー、長谷川、坂田、六角は俳優として芸能活動を継続。木下は当初、タレント・俳優として活動していたが、後に引退し、現在は実家でお寺の副住職となっている。石倉は芸能マネージャー、ニート日雇い派遣などを経て、現在はセガに入社しているという。

「活動休止」を謳っていたとはいえ、メンバー六人のうち二人が芸能の世界から引退しており、実質上は「解散」という扱いになっていたジョビジョバ。それ故に、復活することなど夢のまた夢だろうと思われていた。ところが……U-1グランプリにおいて、ジョビジョバを復活させようという企画が立ち上げられたのである。そして、それは見事に実現された。本作には、12年ぶりに復活を遂げたジョビジョバによって、2014年4月25日から5月6日にかけて赤阪RED/THEATERで開催されたライブより、5月3日の公演の模様が収録されている。

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『かもめんたる単独ライブ「下品なクチバシ」』

例えば、私たちは私たちが生まれてくるために、父親と母親が性行為を重ねたという事実を日頃は意識しないようにしている。不快であるからだ。この世に生を受けてから自我が芽生えるまでの間に、私たちは彼らが保護者であると認識する。彼らは私たちに食事を与え、教育を施し、一人前の人間に育て上げる義務が与えられている。その絶対的な関係には、私的な欲望が存在しない。両者を繋ぎ止めているのは、陳腐な言い回しになってしまうが、愛でしかないのだ。だからこそ、その根本に性に対する欲望があり、淫らで猥褻な重なりが生じていたことが分かると、それが当然の出来事であったと認識していたとしても、少なからず不快感が生じてしまう。

かもめんたるのコントにも、同様の不快感が生じている。

かつて「女の下ネタは笑えない」という通説が存在した。男が性器を露出したり猥雑なことを口にしたりしても笑いに昇華できるが、女が同様のことをしても笑いにはならない。後に、この意見は森三中友近の台頭によって完全に否定されることになるのだが(最近では、相席スタートの山崎ケイが興味深い活躍を見せている)、では、どうしてそれまで女性の下ネタは笑えなかったのか。思うに、それが男性の下ネタの模倣でしかなかったためではないだろうか。男性の下ネタはあくまでも男性が笑わせるための下ネタであって、その手法をそのまま女性が取り入れようとしても、それは単なる愚劣な猿真似にしかならない。その中途半端さの隙間から漏れ出した性的な生々しさが、笑いをかき消してしまったのではないだろうか。

……回りくどい話になってきたが、とどのつまりは「ある種の生々しさは笑いになりにくい」ということを言いたいわけである。本来、笑いとは日常の雑念から心を解脱させるものであり、故に、否が応でも日常の雑念を想起させる生々しさは笑いに繋がりにくい。しかし、かもめんたるはあえて、その生々しさに直面する。観る者が不快感を覚え、不安になり、時に苛立ちさえ呼び起こしかねないほどのグロテスクを、あえて誇張する。何故か。恐らく、彼らは創作が、コントがグロテスクな現実を超えると信じているのだ。

かもめんたるが2014年2月28日から3月2日にかけて新宿シアターサンモールで開催した第15回単独ライブ『下品なクチバシ』は、とある愛の物語を綴った舞台である。

「下品なクチバシ……」

「えっ? どうしたの、あなた」

「今、ふと頭に浮かんできたんだよ」

そんな、ある一組の夫婦の会話で幕を開ける本作。落ち着いた口調で他愛のない話を展開する夫と、彼にそっと寄り添う妻のやりとりは、まるで理想的な夫婦のようだ。だが、妻がある事実について触れた途端、夫は態度を一変させる。先程まで、いかにもしっかりとした大人であるように振る舞っていた彼は、ろくでなしのダメ人間としか思えない発言を繰り広げる。そのあまりのギャップに、観客は笑い声をあげる。だが、その人間の小ささが露呈されていくにつれて、少しずつ笑い声が小さくなっていく。『とある夫婦の夜』は、そんなどうしようもない夫の姿を描いたコントだ。

その後は、まったく関連性のないコントが展開される。悩みを抱えている後輩の相談に乗るために居酒屋に誘った先輩に奥さんからの電話がかかってきて……『相談』、家電量販店で電気シェーバーを購入した客が再び店を訪れて当時対応してくれた店員に「あの電気シェーバーを無くしました」と告白する『始まりは電気シェーバー』、優秀なお手伝いロボット・アルフレッドが抱いていた密かな野望とは『バージンロボット』など、どのコントも彼らならではの不気味な視点と発想が光っている。喫茶店を訪れた才能溢れる若者にウェイターが翻弄される『I 脳 YOU』は、いくつかのネタ番組で演じられているので、観たことがある人も少なくないのではないだろうか。

しかし、最後のコント『ちょっと長い結びのコント』が始まると、それらの関連性のないように見えたコントの数々が、この最後のコントに繋がっていることが分かる。とはいえ、それは「あのコントに登場したキャラクターが再び登場する」というような、三木聡的な演出ではない。それぞれのコントで掲げられていたテーマの一つ一つが、最後のコントを描くために必要な補助として浮き上がってくるのである。それはまさに、料理のフルコースだ。前菜、スープ、魚料理、肉料理はそれぞれの役目をしっかりと果たしているが、全てはメインディッシュに至るまでの道程なのである。

その果てには、グロテスクな愛がある。

ところで、かもめんたるの単独を見ていると、いつもパブリックイメージとのギャップに驚かされる。恐らく、一般的に彼らは、冷酷でアウトローなイメージを抱かれているのではないかと思われる(特にう大はそういうタイプのキャラクターを演じることが多い)。だが、こと単独ライブとなると、普段の表情からは見えてこない激しい熱情が垣間見られる。こういう側面がもっと多くの人に知られるところとなれば、彼らの単独ライブが地方でも開催されるようになってくれるのではないだろうか。地方民として、どうか頑張ってもらいたいところである。


■本編【78分】

「とある夫婦の夜」「相談」「始まりは電気シェーバー」「声。」「バージンロボット」「I 脳 YOU.」「全ての女優に幸あれ!」「ちょっと長い結びのコント」

■特典映像【16分】

ライブで放映した幕間映像を六本収録

『サンドウィッチマンライブツアー2013』+『サンドウィッチマンライブツアー2014』

サンドウィッチマンといえば、やはり『M-1グランプリ2007』における敗者復活からの優勝という快挙を成し遂げた漫才師としての印象が強い。常連組が早々に戦線を離脱し、ルーキーも明確に力不足を露呈していた当時のM-1は、何処からどう見てもマンネリ化の一途を辿っていた。そんな曇天模様の状況に希望の光を注いだのが、トータルテンボスキングコングらリベンジ組だ。彼らの骨太で力強い漫才は、それまでの停滞ムードを一気に解消し、決勝の舞台に往年の盛り上がりを取り戻してくれた。一瞬、優勝者はこの二組のどちらかで間違いない、という空気になっていたように思う。そんな流れの中、サンドウィッチマンは華麗に決勝の舞台へと舞い降りて、より煌びやかな光で舞台を自らの手中に収めてしまった。「鳶に油揚げ」の例えの様に、彼らはまったく競争とは関係無いと思われたところから、鮮やかに優勝の二文字を勝ち取ってしまったのである。

だが、個人的には、サンドウィッチマンというと『エンタの神様』のイメージが強い。『爆笑オンエアバトル』を欠かさずチェックしていた私は、『エンタの神様』に出演している未知の芸人のことを低く評価する傾向にあった。それは別に、『オンバト』のことを絶対視して崇拝していたからではない。実際に、『オンバト』に出ていなかった芸人たちのネタが、いずれも面白くなかったからだ。彼らの多くは、大して練り上げられていない一言ネタを大量生産し、その薄っぺらなパフォーマンスで観客を盛り上げ、持ち時間を淡々と消費していた。なんとおぞましい光景か。とはいえ、芸人ばかりも責められない。そういうネタを番組が求めた結果、そういうネタをやる芸人ばかりが出演するようになっていたのだ。そんな『エンタの神様』にサンドウィッチマンが初めて出演したときも、私は大いに侮っていた。ところが、蓋を開けてみると、これが淀みなく面白い。私は大いに感心したが、それでも、これまでに『エンタの神様』が流してきたネタの数々によって私の心中に生じた吹き溜まりが、彼らの面白さを素直に認めさせようとはしなかった。罪作りな話である。

2015年現在、サンドウィッチマンは東北魂を胸に抱いた漫才師として、単独ライブで全国ツアーを展開するほどの人気を維持している。東日本大震災での被災を経験し、芸人として大きすぎる責任を肩に背負った彼らにとって、今や、全ての若手漫才師たちの垂涎の的だった“M-1優勝コンビ”という称号すらも小さい。はち切れんばかりのサービス精神で老若男女を分け隔てなく笑わせている彼らこそ、今最も“エンターテインメントの神様”に近いといえるのかもしれない。

(全然上手いこと言えてないぞ)

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『シソンヌライブ [trois]』

シソンヌライブ [trois] [DVD]シソンヌライブ [trois] [DVD]

(2015/03/31)

シソンヌ

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『シソンヌライブ[trois]』を観る。

シソンヌは長谷川忍とじろうによって2005年に結成された。二人が出会ったのはNSC吉本総合芸能学院)東京校で、同期にはエド・はるみ、チョコレートプラネット、向井慧(パンサー)などがいる。特にチョコレートプラネットとは親しく、不定期にコントユニット“チョコンヌ”としても活動している。2014年に『キングオブコント2014』の決勝戦に進出。その洗練されたコントが高く評価され、七代目王者に君臨する。本作には、そんなシソンヌが2015年1月に赤坂RED/THEATERで開催した、【シソンヌライブ】の模様が収録されている。作・演出は大河原次郎(じろう)が担当。また、監修として、バナナマン東京03などの実力派コント師の舞台に参加している、放送作家のオークラを迎えている。

今でもはっきりと覚えている。『キングオブコント2014』決勝戦の一番手、シソンヌが披露したコント『ラーメン屋』。「博打に負けた男が自分への戒めとして臭いラーメンを食べに行く」という泥臭い設定を、彼らは作品として完成された状態で演じていた。演技には微塵も無駄が無く、それでいて笑いどころは多い。当時、私は『爆笑オンエアバトル』『オンバト+』で活躍していたラバーガールのことを応援していたのだが、彼らの演技を観終わった直後に「ここが優勝だ」と確信を抱いた。それだけの説得力があるコントだった。続く二本目のコント『タクシー』も素晴らしかった。あえてツッコミという説明役を排除し、「男にふられた女の悲しみを全力でフォローするタクシー運転手」というシチュエーションそのものの可笑しみを最大限に引き出していた。ここまで完璧なステージをこなしていたにも関わらず、後に、『ラーメン屋』のオチと『タクシー』のオチが繋がっていると聞いたときには、心底驚いたものだ。これだけのコントを生み出しておきながら、まだ仕掛けを施す余裕があったのか、と。

そんな大会の熱気冷めやらぬ状態で迎えた本作のリリース。言わずもがな、とてつもなく高いハードルを設けた上での鑑賞だったが、見事、というよりも、案の定、期待を裏切らない作品に仕上がっていた。美しい映像と耳心地の良い音楽、そして誰に憚ることなくはっきり断言できる、至極のコントの数々……。とはいえ、そこに優勝直後の気張った印象は残らない。いや、そもそも自らの状況を大きく左右するかもしれない賞レースで仕掛けを施していた二人に、大会をきっかけに変化するという事態は起こり得ないのだろう。

本編を再生してみて、まず目を見張ったのは『息子の目覚まし時計』だ。若くして亡くなってしまった息子の部屋を、生前のまま保っている夫婦を描いたコントなのだが、とにかく「家族を亡くしてしまった人」の空気が再現されていることに驚かされた。特に、じろう演じる母親の、まだ現実を受け止めきれていないが故に、心がボンヤリと宙に浮かんでいるかのような、危うい精神性が恐ろしいほどにリアルだ。そのリアリティがあるからこそ、「生前の息子が設定して今も鳴り続けている目覚まし時計の騒音」というコントの核が存分に生きる。どうにかして目覚まし時計を止めようとする夫と、鳴り止まない目覚まし時計の音に息子の存在を感じている妻。あまりにも悲しすぎる。でも、だからこそ、笑わずにはいられない。“ブラックユーモア”の一言では片付けられない凄味があるコントだった。

これ以降のコントも魅力的だ。テレビそのものを製作している男とテレビ番組を制作している男の認識のズレが明確になっていく『せいさくしゃ』、学校の先生にビンタされることを恐れていた生徒が現在の教育現場の実情を知って極端に態度を改める『先生の本性』、某映画のシステムを便所に取り入れた『ナイト便所』などなど……それぞれまったく違った方向性から切り込んでいるが、しっかりとシソンヌの空気になっている。やがてライブも終盤に差し掛かり、『母と息子』が始まる。オープニングコント『空港』とのつながりを感じさせる『空港2』を除くと、これが本編最後のコントになる。

『母と息子』は認知症を患っている母親と暮らしている息子のある日の日常風景を描いたコントだ。予測不能の行動を取りながらも自らのボケに対して自覚的な母親と、以前から冗談交じりの言動を繰り広げていた母親が本当にボケているのかどうか疑心暗鬼になっている息子のやりとりは、一見すると喜劇の様にコミカルだ。壁に「ぼけてる」と書いた習字を貼り、自らを「ハイマー」と名乗り、無くなったリモコンを「同じところに隠している」とのたまう母親は、とても明るくて、楽しくて、笑わずにはいられない。でも、だからこそ、あまりにも悲しすぎる。軽快に放り込まれる「そうか! 忘れるのはお母さんの方か!」という台詞の厳しさよ……。

このライブそのものに対する分析は、ポップカルチャーを取り上げているブログ「青春ゾンビ」さんの解説が秀逸なので、そちらをご参考ください。

特典映像には、過去のシソンヌライブで披露されたコントより厳選されたネタを一本ずつと、本作のメイキングが収録されている。厳選コントは『立てこもり』と『ラーメン屋』。『ラーメン屋』は『キングオブコント2014』決勝戦で披露されたネタの完全版だ。より細かいディティールが表現されているので、気になる人は是非。というか、これだけ高画質な映像が残されているのであれば、このライブそのものをソフト化してもいいのではないだろうか。もとい、観たい。ライブのメイキングは、芸人のそれとは思えないほどに真面目な内容だ。ライブ構成・衣装・DVDジャケットの打ち合わせ、構成を詰めるためにホテルに缶詰め、通し稽古などの様子を、笑いを殆ど省いた状態で映し出している。それぞれ非常に短いが、ライブが完成に至るまでの様子を丁寧に撮影していて、お笑いを志す人間にはたまらない映像といえるのではないだろうか。衣装香盤表……そんなものもあるのか……。

演じられているコントも素晴らしかったが、過去のシソンヌライブから厳選コントを収録したり、ライブに至るまでの行程を真面目に追ったドキュメンタリーを見せてくれたりと、しっかりと痒い所に手が届く作品に仕上がっていた本作。なんだか、彼らのコントに対して真摯に向き合っている姿勢を、制作側も真剣に受け止めているように感じさせられた。きっと作られるであろう次回作も、楽しみにしております。


■本編【97分】

「空港」「息子の目覚まし時計」「せいさくしゃ」「先生の本性」「じじいの杖」「ナイト便所」「リューヤの思い」「野祭」「母と息子」「空港2」

■特典映像【37分】

「シソンヌライブ[une]厳選コント」「シソンヌライブ[deux]厳選コント」「シソンヌライブ[trois]メイキング」

『エレキコミック 第23回発表会「Right Right Right Right」』

トゥインクル・コーポレーション所属のお笑いコンビ、エレキコミックが2014年5月21日から6月1日にかけて、東京・大阪・名古屋で開催した単独発表会より、東京公演(銀座・博品館劇場)の模様を収録。

私がエレキコミックのコントを初めて目にしたのは、2002年3月に放送された『爆笑オンエアバトル』第四回チャンピオン大会でのことだった。彼らが演じていたのは『お母さんに逢いたい』というバラエティ番組のコント。やついいちろうが司会を務めている番組に今立進が母親を探してもらうのだが、まったく見つからない……もとい、見つけようとしてくれない……という、なんともバカバカしいネタだった。なかなか面白かったように記憶しているのだが、結果は10組中9位という散々なもの。その後、エレキは二度のチャンピオン大会進出を経験しているが、いずれも厳しい評価を下されている。独特の緊張感が漂っているチャンピオン大会のステージにおいて、エレキコミックのコントはあまりにも軽過ぎたのかもしれない。だが、どこまでもバカバカしく軽快なコントこそ、彼らの本質だ。それは今でも変わらない。

例えば、本作のオープニングで演じられているコント『ダイオウイカ』。今立が“ダイオウイカ丼”を売りにしている定食屋に入ると、身体がダイオウイカの足に巻きつけられている店主のやついが登場する。この時点で既にバカバカしい。やついはご飯を盛った丼を今立に渡し、自分がダイオウイカの気をそらしているうちに足に食らいつくように提案する。ところが、今立が足に噛みつくたびにやついの身体を締め付けてしまうので、なかなか上手く食べられない。そこで、やついが取った決断とは……。シンプルかつ下らない設定でも、しっかりと笑い飛ばすことの出来るレベルのコントに昇華してしまう。エレキコミックらしさが光ったコントだ。

この後も、彼らならではのバカバカしいコントが続く。ドラマや映画でよく目にするワンシーンと似通った状況に遭遇したタクシードライバーが、更にドラマチックな展開を要求する『ドラマチックタクシー』。「ブスだから」という理由で野球部の応援を控えるように言われたチアガールが、著作権を侵害しない楽曲を駆使して、強硬の姿勢を見せる『チア』(ちなみに、『キングオブコント2014』準決勝において、エレキコミックはこのネタを披露したらしい。著作権を侵害していないのに公式DVDには未収録というところに、某著作権協会によるよからぬ陰謀を感じなくもない。)。今立が訪れた“恐怖居酒屋”は、幽霊や化け物の類が出るわけではない、とんでもない不潔さを売りにしていた!『恐怖居酒屋』。どのコントも、清々しいほどに何も残さない。何も残らない。

とりわけ、学校帰りのやついが腹痛に耐え切れず、草葉の陰に隠れてこっそり大便を放出していると、友人の今立が近寄ってくるという恐怖体験を描いたコント『帰り道』は傑作だ。以前から、エレキは「やっつんだっつん」という二人の学生をメインにしたコントを得意としていて、そのいずれもが非常に素晴らしい出来映え(やついほど、バカでハイテンションな学生が似合う芸人は他にいないのではないだろうか)なのだが、この『帰り道』はそこから更に一歩踏み出している印象を受けた。どうにも辛抱できなくて、とうとう草葉の陰での放出を余儀なくされてしまった理不尽な感じ、誰かに見つかってしまうのではないかという恐怖感、見つかってしまったときの絶望感、その全てがこの『帰り道』ではニュアンスとして再現されている。また、この危機的状況を脱する展開が、突き抜けていてサイコーに下らない。

これらバカバカしいコントがある一方で、エレ片で主に演じられている「やついのダークサイド」が垣間見られるコントもあるから、たまらない。まったく自分に対してリスペクトの気持ちを見せようとしない後輩に対して先輩ラッパーがやきもきする『説教』と、神社にやってきた少年が鳥居によじ登っている中年の男と遭遇する『おじさんと少年』がそれだ。特に『おじさんと少年』は、音楽業界に精通しているやついならではの目線が反映されていて、非常に面白かった。とりあえず、このコントを観た人は、これからハマショーを冷静に見ることが出来ないのではないだろうか。マネーとか歌っている場合じゃないよ、ホント。

特典映像は、入社以来エレキコミックを担当してきた事務所のマネージャー・上田航氏の小心を受けて、彼がこっそり開設していたTwitterアカウントでのツイートを片手に二人がお祝いのインタビューをする『上田航係長インタビュー(完全版)』を収録。なんとなくの思い付きでツイートしたとしか思えない言葉の数々をエレキコミックの二人に丁寧に引っ張り出されている様が非常に面白いが、同時に凄く心臓がドキドキするのは何故だろう……。


■本編【59分】

「ダイオウイカ」「オープニング」「帰り道」「ドラマチックタクシー」「チア」「説教」「恐怖居酒屋」「おじさんと少年」「エンディング」「エピローグ」

■特典映像【17分】

「上田航係長インタビュー(完全版)」