菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

混沌ナンセンス『セプテンバー・ホール 〜9月の散らかった穴〜』

このDVDが発売されるという話を知ったときは、とにかく驚いた。まず、作・演出が細川徹である。あの、細川徹である。大人計画の一員であり、「シティボーイズミックス」「男子はだまってなさいよ!」等の作・演出を担当している、あの細川徹である。更に、その作・演出を支えているのが、アイディア提供の大竹まこと・五月女ケイコ・シンコ(スチャダラパー)・三木聡である。もはや、紹介する必要もないくらいに豪華なメンバーだ。そして、そんなメンバーに支えられて舞台に立っているのが、“O.N.アベックホームラン”こと大堀こういちと温水洋一である。……もう、背筋がゾクゾクッとくるくらい、凄い名前が揃っている。いやがうえにも期待せざるを得ないメンバーだ。ただ、あんまり期待しすぎると、その内容で愕然としてしまうこともある。でも、期待は止まらない。どうなる? どんな内容になる? そうこうしているうちに、発売日がやってきた。他に購入者がいなかったのか、ネットで予約していたDVDは発売日に到着した。早速、再生。
ライブのオープニング。黄色の背景に、三つの穴。その穴の一つから、温水が首だけ出している。その隣の穴からは、大堀が顔を出している。大堀はどうして自分がこんな状況になっているのか、分からない。温水は、どうも詳しく語ろうとせず、大堀はどんどん不安になっていく。と、そこで急にフランス的な音楽が流れ始める。奥から演出の細川扮する料理人が現れる。手には、なんだかよく分からない白い物体。その白い物体を温水の口に入れる細川。すぐにお腹がいっぱいになり、もう食べられないという顔をする温水。すると、その残りを全て大堀に食べさせる細川。ウンザリした顔になる大堀に、「実は僕はお腹が空いてるんですよ……」と語り始める温水。
「……凄いぞ! 何か知らないけど、凄いぞ!」というのが、最初の感想だった。「シティボーイズミックス」や「男子はだまってなさいよ!」を初めて見たときと同じような、妙な衝撃を覚えた。安定感を感じさせつつも、とんでもなく不安定であるような一面も見せている、大堀こういちの演技。様々なキャラクターを演じて見せるも、金太郎飴の様にどれを取っても同じな温水洋一の演技。この二つの演技を上手く融合し、なんだか混沌とした世界を作り上げる、細川徹の演出。そうだ、これは混沌だ。舞台の上に、我々が生活している世界とは違う、似て非なる別の混沌とした世界が生まれているのだ。お見合い相手の女性が、何故か肩からネジを生やしたオッサンという『お見合い』。タレントの温水洋一が、様々な民家に泊めてもらう番組ロケを描いた『田舎に十泊』。子供が作った、巨大なタイムカプセルに父親が詰め込まれる『タイムカプセル』。これら全てのコントが、まったくもって混沌なのだ
テレビなどで見られるコントを楽しんでいる人が、彼らの舞台を見ると、恐らく拒否反応を起こしてしまうだろう。人によっては、この舞台を“幼稚”に感じてしまうかもしれない。事実、そう思えても仕方ないような場面も幾つかあった。でも、その幼稚さに徹底的にこだわったとき、そこにはとてつもない混沌が生まれる。そんなことを、至極感じさせられたライブだった。やっぱりこの三人は凄いよ、うん。

・本編(83分)
「ちょっと食べる」「お見合い」「田舎に十泊」「笑いながら死ぬ」「タイムカプセル」「熱と温泉」「二人の節子さん」「セプテンバー・ホール」
・特典
「8月と9月の散らかる前の穴」(80分)
「11月の散らかった穴で座談会」

「8月と9月の散らかる前の穴」は、ライブドキュメンタリー。公演直前にカットされた演目『地獄キャンプ』をさりげなく収録。個人的には面白かったと思う。「11月の散らかった穴で座談会」は細川徹・大堀こういち・温水洋一による副音声。ライブに関係あること・関係ないことを、ダダ喋り。