菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バカリズムライブ「勇者の冒険」』

バカリズム ライブ 「勇者の冒険」 [DVD]バカリズム ライブ 「勇者の冒険」 [DVD]
(2009/06/24)
バカリズム

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“勇者”と聞いて思い出すのは、エニックスから発売されていたドラゴンクエスト4コマまんが劇場」のことだ。いつからだったかは忘れてしまったのだが、僕はこのドラクエ4コマシリーズが大好きだった。いや、特に固執していたわけではなかったので、大好きというほどのものではなかったのかもしれない。でも、確か十巻くらい集めた記憶があるので、そこそこ好きだったことは間違いない。番外編とかガンガン編も数冊買ってたし。

当時、ドラクエ4コマシリーズに参加していた漫画家で、特に印象に残っているのが新山たかし。漫画ネタはそれほど面白くなかったのだけれど、彼が描いているキャラクターが良い感じにエロくて、やたらと読み込んでいた記憶が強く残っている。オリジナル作品でもある『半熟忍法帳』も、全巻ガッチリ購入した。純粋に漫画ネタで印象に残っているのは、すずや那智牧野博幸。すずやはその殆どのネタを夕陽のシーンでオチにしてしまうという強引さが、牧野はドラクエの世界観を自分なりに昇華しているセンスの良さが印象的だった。

この他、印象に残っている漫画家の名前を挙げていくと、栗本和博猫乃都越後屋サイバン、タイジャンホクト、石田和明梶原あや等がそう。柴田亜美衛藤ヒロユキ夜麻みゆきも印象的だったけど、この辺の人たちはオリジナル作品の印象が強い。特に夜麻作品は、物凄く読んだ。『レヴァリアース』『幻想大陸』『刻の大地』……どれも、良い思い出の詰まった作品だ。

それにしても不思議なのは、どうして当時の僕はドラクエ4コマシリーズを収集していたのだろう。というのも、当時の僕は原作であるテレビゲームとしてのドラクエを一度もプレイしたことがなかったのである。プレイしたことがない(パロディ元を知らない)のに、どうしてドラクエ4コマを購入するだけではなく、収集まで始めてしまったのか。さっぱりおぼえていないが、恐らく立ち読みして面白かったんだろうな。というか、それ以外に理由が思い浮かばないのだけど。

それはそうとして、バカリズムライブ『勇者の冒険』を観た。『生命の神秘』『科学の進歩』に続く“○○の○○”シリーズ三部作、最後の公演ということだそうな。まさか三部作としてまとめていたとは思わなかった。いや、普通に考えて、単なる後付けなんだろうけど。でも、ひょっとしたら、最初から三部作にするつもりだったのかもしれない。どっちもありうる。こういう掴めない感じが、僕にとってもバカリズムのイメージだ。

バカリズムのライブを、一本のライブ公演として評価するのは、とても難しい。何故なら、ライブで披露されているコントには、これといった共通テーマが存在していないからだ。しかも、バカリズムのコントは、常に違った手法を用いている。まさに掴みどころがない

例えば、『中年とボタン』というコントがある。身体のとある部分にボタンが出来てしまった中年男性の悲喜こもごもを描いたコントだ。自分の身体にメカ的な機能が装備されるというのは、なかなか夢に満ちたシチュエーションなんだけれど、バカリズムはそれをあくまでも現実的に演じる。ボタンを押したら、何が起こるのか。もしかしたら、とんでもないことになるのではないか。押さないようにしなければ。でも、うっかり押してしまいそうな場所にボタンがある。押さないように意識して生活しなくちゃ……。非現実的なシチュエーションと、徹底的に現実的な視点。両者が重なることによって生じるギャップが、コントの主軸となっている。

その一方で、『アメリカン官能小説』の様なコントもある。これは、過去のライブでも披露されてきた“官能小説シリーズ”の一作で、官能小説のストーリーにおけるエロティックな単語を、特定の法則性がある言葉と置き換えて、朗読するというもの。本来来るべき言葉とはまるで違った言葉が登場するという不具合ぶりが、笑いの主軸になっている。

そしてまた一方で、『根本のおもしろさ』というコントもある。これは、とある面白い友人に関するエピソードを説明しようとするのだが、どうもその面白さを相手に上手く伝えられずに、ひたすらやきもきし続ける男の姿を描いたコントだ。他愛のない話の面白さをこだわる人間というのは確かに実在するが、このコントではその部分が強く誇張されていて、より偏執的なものとなることで、笑いになっている。

これら三つのコントは、それぞれまったく違った手法と、笑いの方程式によって成立している。どれ一つとして、同様の笑いではない。それなのに、どれも確かに“バカリズムのコント”として存在しているのだ。それはなんだか、鍋料理に似ている気がする。どんな材料を入れたとしても、それが鍋によって煮込まれてしまえば、それは鍋料理となってしまう。言うなれば、バカリズムのライブは、バカリズムという鍋に放り込まれた、多種多様の具材の美味さを堪能できるライブと言えるのかもしれない。言うまでもなく、とても面白いライブだった。ただ、『科学の進歩』における『あの坂をのぼれば』『にゅーす』に値するコントが無かったのが、ちょっと残念。個人的に、この二本があったから前作を高く評価したようなところがあったもので……。

しかし、この時期に『ポウ』っていうのも、なんだか凄いタイミングだな。もしや、それすらもバカリズムは意図して……いるわけないか。


・本編(65分)

『プロローグ「勇者の証」』「オープニングテーマ」『中年とボタン』『ポウ』『アメリカン官能小説』『YOIDEWANAIKA!』『青年とスピーカー』『根本のおもしろさ』『岩壁DEクライマックス』「エンディングテーマ」

※オープニングテーマ・エンディングテーマは秀逸の出来。過去最高。

・特典映像(20分)

「日本数字話」「勇者ポエム」

※「日本数字話」は舞台ネタではなく紙芝居映像を再編集したものを収録。