菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

エレキコミック第17回発表会『了解。今むかってる。』

エレキコミック第17回発表会『了解。今むかってる。』 [DVD]エレキコミック第17回発表会『了解。今むかってる。』 [DVD]
(2009/06/17)
エレキコミック

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エレキコミックがテレビタレントになることなく、ライブ活動を中心に笑いを追求し続ける芸人なると、誰が予想していただろうか。絵に描いたようなバカキャラコントに、そのコントと同様のノリで繰り広げられるバカなノリのフリートーク。彼らには、テレビタレントとして大成できる要素が決して無かったわけではないのに。

そんな彼らは以前、とあるインタビューで「シティボーイズに影響を受けた」という旨のコメントを残していた。思えば、シティボーイズのコントと同様に、エレキコミックのコントもまた“後には何も残らない、残さない”。徹底してナンセンスな世界を構築し続けるシティボーイズのスタイルをエレキコミックなりに昇華した結果が、彼らの芸風であるバカコントだったと言えるのかもしれない。そのことを考えると、彼らがテレビタレントになることなく、ライブ中心の活動に特化するようになったのも、納得できなくもない。

エレキコミック第17回公演『了解。今むかってる。』もまた、彼らならではのバカバカしさに満ち溢れたライブだった。

太宰治の傑作小説にケータイ文化を取り入れた表題作『了解。今むかってる。』を始めとして、革命家として名高いチェ・ゲバラを模倣したキャラクターがバイト先で革命を起こそうとする『チェ・バイト』、ファッション用語のとてつもないややこしさをバカな笑いへと昇華した『Y&M』、一昔前の漫画によく見られる展開をべたに演じてみせた『MI・TSU・RU』など、サブカルチャー的な要素をふんだんにパロッた笑いの世界は、もはやエレキコミックの専売特許と呼べるほどの独創性を得ていた。

ただ、それ故に、彼らの元来のスタイルであるシンプルでバカバカしいだけのコント世界が、以前に比べて大人しくなってしまった感も否めなかった。やついが特定の職業の人間に扮したシチュエーションコント“やっつんシリーズ”の最新作『電タン』も、学生服を着た二人が不条理で無意味な時間を過ごす“やっつんだっつん”シリーズの最新作『やっつんだっつん ~面接の達人~』も、以前に比べて軽快さが失われており、どこか不満の残る出来だったのである。

その原因は、恐らくネタのバランスにあるのだろう。エレキコミックのコント観は、パロディコントとしては確かに上達しているのである。が、それによって、元来の純粋にバカバカしいだけのコントを作るための能力が衰えているのだ。サブカルな笑いに偏れば、シンプルさが失われる。シンプルな笑いに偏れば、サブカル感が失われる。恐らく、そういうことだろう。

どちらに傾倒することが、彼らにとっての正解になるのかどうかは分からない。彼らはどちらかというとサブカルチャー寄りな芸人なので、このままサブカルチャーの海に潜ってしまうのも悪くないだろうし、あえて今からシンプルな笑いに逆戻りし、再び大衆相手に一戦交えるのも、決して悪いことではない。或いは、その両方のバランスを上手く取り続けて、今後も活動を続けるという手もある。お笑い芸人としての生き方なんて、幾らでも選べるのだ。

それにしても、サブカルチャーを狙った笑いを作っていくのであれば、そろそろ今立進をクローズアップしたコントを作っても良いのではないか、と思う。今、サブカル方面で話題になっている「草食男子」というのは、ゲームオタクで引きこもり体質の今立に当てはまっている気がするのだが……次の公演で期待してみるか。


・本編(総収録時間:82分)

『了解。今むかってる。』「オープニング」『チェ・バイト』『京風』『電タン』『Y&M』『やっつんだっつん ~面接の達人~』『MI・TSU・RU』「エンディング」

・特典映像

「おもしろい寺(前半)」「おもしろい寺(後半)」「寝起きツッコミ100連発」