菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

エレキコミック第19回発表会『中2のアプリ』

エレキコミック第19回発表会『中2のアプリ』 [DVD]エレキコミック第19回発表会『中2のアプリ』 [DVD]
(2010/09/15)
エレキコミック

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やついいちろう今立進によるコントユニット、エレキコミック。彼らの芸風はしばしば“バカ”と評されていた。もちろん、その言葉には侮蔑的な意味など含まれない。この“バカ”には、関西でいうところの“アホ”と同様、愛着と親しみの念が込められている。そして、確かに彼らのコントは、“バカ”と呼ぶに相応しい内容だった。

近年、意図的にバカバカしい空気を漂わせるハイセンスなコントが増えているが、エレキコミックのコントはシンプルかつ自然にバカを体現していた。ある時はカラオケボックスの機械に人間が入り込んで演奏を声で表現し、またある時は一人で三国志の名シーンを演じきり、またまたある時はおっぱいを触るための作戦を真剣に画策する。老若男女が「バカだなあ」とつぶやきながら笑ってしまう迫力とエネルギーに満ちた世界。それが、エレキコミックのコントだった。

ところが、ある時期から、エレキコミックは単なる“バカ”を止めてしまった。いや、厳密にいうと、“バカ”の要素を薄めてしまったのである。シチュエーションやキャラクターの背景を複雑にしたことと、コントにサブカル的な味付けを加え始めたことが、その主な原因だろう。ただただバカな笑いを追求するのではなく、もっと肉厚で濃密な笑いを演じたいという欲求が、彼らの中で芽生えたのかもしれない。

当初、この試みは成功していた、と思う。エレキコミック本来の持ち味であるバカさは非常に頑丈で、ちょっと内容が複雑になろうと、サブカル要素を加えられようと、決してぶれることはなかった。だが、そのバランスは少しずつ崩れ始める。複雑になった設定は“バカ”を“狂気”へと変貌させ、サブカル的要素は弱まる“バカ”に対比して強調されるようになり、あざとさとなった。片桐仁ラーメンズ)とのコントユニット「エレ片」が好調だったのに対して、エレキコミック単体としてのコントは目に見えて煮詰まっていった。

そんな折に行われた第19回発表会『中2のアプリ』において、エレキコミックはコントから複雑さを取り払っている。恐らく、そうすることで“バカ”を強調するためだろう。事実、今回のライブでは、バカさがクローズアップされたコントが多数見られた。飲み会の席でウンコを漏らしてしまった先輩とそれを知った後輩のやりとりを描いた『イジラレベタ』、親戚の小学生がひたすらにお年玉をねだってくる『お年玉おじさん』、顔の面白さが話題になってしまったたこ焼き屋の切なさ漂う『哀愁たこ焼き』などなど……いずれも、かつてエレキコミックが見せていたバカさとは一味違った、紆余曲折を経たからこそ見出すことが出来ただろう、実に味わい深いバカさが滲み出たコントばかりだ。とはいえ、それらのネタからはまだまだ未熟。このスタイルなら、まだまだバカな笑いが生み出せる。それらのコントからは、そんな余白のようなものが感じられた。これからまだまだ進化を遂げるだろう彼らの新しい“バカ”に、今後も目が離せない。

……と、こういう〆で本文を終わらせる予定だったのだが、予期せぬ事態が発生してしまった。先日行われた「キングオブコント2010」決勝にて、エレキコミックはこの公演で披露したコントを引っさげて挑み、見事に敗北を期したのである。キングオブコントがライブ中心に活動する芸人を評価する傾向にあったこともあって、この結果には心底驚かされた。果たしてこの結果は、再び“バカ”を掲げ始めたエレキコミックのコントに、どのような変化をもたらすのか。期待半分不安半分の気持ちで見守っていこうと思うが……どうなるか。

なお、特典映像には、やついがボケ続けながら登山をするという苦行のような企画「ふざけ登山」が収録されている。空気の薄い現場で決して気落ちすることなく(?)、ひたすらにボケ続けるやついの姿はまさに芸人の鑑といえるだろう。笑顔で命をかけている芸人の本気をとくと見よ。


・本編(85分)

「イジラレベタ」「お年玉おじさん」「特訓ガール」「哀愁たこ焼き」「ラベンダー」「全力俳優」「やっつんだっつん」

・特典映像(19分)

「ふざけ登山」