菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『磁石漫才ライブ ワールドツアー日本最終公演』

磁石 漫才ライブ ワールドツアー2010 日本最終公演 [DVD]磁石 漫才ライブ ワールドツアー2010 日本最終公演 [DVD]
(2011/01/19)
磁石

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漫才に用いられる時間は様々だ。漫才師の力量や披露する場所によって、大きく変化する。

とはいえ、おおよその基準はある。例えば、M-1グランプリの決勝戦で披露される漫才には、4分という制限時間が課せられている。これは、「4分を超過した漫才だと視聴者が飽きてしまう」という考えによるもの、だと聞いた。爆笑オンエアバトルにも、「ネタの時間が5分を過ぎると失格扱いになる」というルールがある。これは番組の放送時間も少なからず関係しているのだろうが……テレビの視聴に耐え得るおおよその時間は、4分から5分程度と考えてもいいだろう。ライブにおいても、この状況はさほど変わらない。

ところが稀に、漫才師たちは一時間ばかりの時間をかけて漫才を演じることがある。そこに何の意味があるのか。はっきり言うと、意味などない。何故ならば、彼らは確かに長い時間をかけて漫才を演じているが、しかし、その内容は通常の漫才とそれほど変わらないことが殆どだからだ。例外として、ライブ全体の流れを一つの作品として捉えている場合(例:2丁拳銃百式』など)や、ライブ終盤でそれまでのやり取りが集約される構成を取っている場合(例:オリエンタルラジオ『才』など)もあるが、基本的には数珠つなぎになっている。

それでも彼らが長い時間をかけて漫才を演じようとするのは、何故か。考えてみるに、彼らは長い時間をかけて漫才を演じている自らの姿を見せつけることで、その漫才に対する愛情ないし情熱を表そうとしているのではないだろうか。事実……というほど確固たる要因ではないが、そういった漫才を演じている漫才師たちは、強く漫才に固執している感がある。少なくとも、それだけの時間を要して漫才を演じたいという感情がある以上、彼らの漫才に対する並々ならぬ思いを否定することは出来ない。

ところで先日、磁石が90分間ノンストップ漫才ライブを収録したDVDをリリースした。

磁石といえば、秋田県出身の永沢と広島県出身の佐々木によって結成された、SとNでガシッ!な漫才師として知られている。その漫才師としての実力は若手の頃から評価されており、M-1グランプリにおいても敗者復活戦の常連として知られていた。……しかし、彼らが長時間の漫才ライブを行うほど漫才に対して強い情熱を抱いていたとは、まったく知らなかった。確かに、彼らが得意とする芸は漫才だ。とはいえ、普段の彼らが演じている漫才は、何処となく冷静で落ち着きのあるネタが多く、その姿から漫才に入れ込んでいるとはとても想像出来なかった。思えば、実に一方的なイメージである。

収録されているライブが行われたのは、2010年の初夏。つまり、M-1グランプリへの出場資格が失われてしまう最後の年だ。先にも書いた様に、磁石はM-1の敗者復活戦の常連として知られていた。最後の年となるこの年こそ、結果を残さなくてはならない。そんな熱い思いが、このライブには込められていたに違いない。……が、実際に再生してみて、驚いた。そこに映し出されていたのは、いつも通りの冷静な表情で“90分間の漫才”を演じている、磁石の姿だった。

通常、長時間の漫才のみが演じられるライブでは、少なからず構成を意識するものだ。それ故に、仕方なく……というと言葉が悪いが、骨休めとなる漫才を用意する必要がある。ところが、今作にはそれがない。徹底して、通常のクオリティが保たれている。まるで金太郎アメだ。何処を切っても“磁石の漫才“しかない。M-1の予選を控え、漫才に力を入れていたことを考慮した上で、非常に驚かされた。

それにしても、面白い。こうして観ると、磁石というコンビは在関東芸人の長所を多く取り込んでいるコンビだということに気付かされる。永沢のボケは、時にブラックで爆笑問題の太田を彷彿とさせるが、ナンセンスの色合いはさまぁ~ずの大竹に影響を受けているようでもある。一方、佐々木のツッコミは、くりぃむしちゅーからアンタッチャブルにかけて流れているツッコミの血脈を思わせる。いずれも遅咲きのコンビばかりなのが気になるところだが、磁石は果たして。


・本編(90分)

・特典映像(23分)

「磁石トークライブ特選 フタリシャベリ」