菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『トータルテンボスコントライブ ブロッコリー畑のお調子モンキー』

トータルテンボス コントライブ ブロッコリー畑のお調子モンキー [DVD]トータルテンボス コントライブ ブロッコリー畑のお調子モンキー [DVD]
(2011/01/12)
トータルテンボス

商品詳細を見る

日本一の漫才を決定する“M-1グランプリ”への出場権利を失った漫才師たちの中には、飛躍的な成長を遂げた者も少なくない。M-1への出場権利を失うことで、M-1で結果を残したい、残さなくてはならないというプレッシャーから解放されるためだろう。だからなのだろうか、彼らの漫才は自由でのびのびとしているように感じられることが多い。

しかし、その一方で、M-1への出場権利を失ったことにより、緊張の糸が切れてしまったかの様に、以前の様な鋭いネタを演じられなくなってしまった漫才師もいる。あと一歩というところで、敗者復活戦を勝ち上がってきたサンドウィッチマンに優勝をかっさらわれてしまったトータルテンボスも、そんな状況下にある漫才師の一組だ。

トータルテンボスといえば、独特の言い回しと言葉のセンスが印象的な漫才師だ。何処か古典的な言葉を用いる二人のやりとりは、時に双方向的に笑いを生み出していた。中でも、M-1グランプリ2007決勝の舞台で披露していた『ホテルのフロントマン』をテーマとした漫才は、彼らの持ち味を存分に発揮したネタだったといえるだろう。個人的に、特に印象に残っているのは、以下のくだり。

大村「まずは大浴場の場所なんですが、ボイラー室を右手に見まして、突き当りが大浴場です。そして宴会場の場所なんですが」

藤田「はいはいはい」

大村「ボイラー室の前の階段を下っていただきまして、突き当りが宴会場となっております。最後に、売店の場所なんですが」

藤田「はい」

大村「ボイラー室を左手に……」

藤田「フロントから話してくんねえかなあ! (大村を睨みながら首を前後に振り)オレ~、ボイラ~室知らねえし~、マジで~、ボイラ~室ゥ~」

大村「申し訳ございません。当ホテル、何処に行くにも、ボイラー室からの行き方しか分からないようになっておりまして……」

どういう場所なのか具体的にはあまり知らないけれど、なんとなく聞き覚えのある“ボイラー室”という絶妙な言葉選びがたまらない。

ところが、M-1への出場権利を失って以後、彼らはこういった“言葉を扱った笑い”をあまり演じなくなってしまった。その替わり、彼らが演じるようになったのは、藤田をひたすらにイジり倒す漫才だった。これはこれで面白くないわけではない。実際、観客は笑っている。だが、その漫才は以前に比べて、明らかに起爆性に欠けていた。

そもそも藤田は、イジり倒せるほどの特徴的な個性を持っていないのではないだろうか。体臭や口臭がキツいとイジられている姿を何度も見たが、それだって観客には伝わらないことだ。ボケがツッコミをイジるスタイルの漫才といえば、初めにNON STYLEの“イキり漫才”が浮かんでくるが、彼らはきちんと言動で井上のイキりぶりが分かるように演出していた。しかし、トータルテンボスにはそれがない。だから、いまいち伝わらない。ただただ、じゃれ合っているだけの様にすら見える。……とはいえ、そんな彼らの漫才を良しとする声もあるので、もしかしたら僕が彼らの現在の漫才の楽しみ方を理解していないだけなのかもしれない。もうしばらく時間を置いて、再び彼らの現在の漫才を観たときに、まったく印象が変わってしまうということも十二分にあり得る。だが、現時点において、僕は現在の彼らを評価できない。

M-1への出場権利を失ったトータルテンボスは、現在コントに力を入れているようだ。キングオブコントに三年連続で出場しており、いずれの大会でも準決勝戦に進出している。その関係からか、今年の初頭に初めてのコントライブDVDをリリースした。収録されているコントは、 “キングオブコント2010”準決勝の舞台で披露した『リフォーム』を含め、全部で八本。また、それらの幕間には、大村が藤田にドッキリを仕掛ける、お馴染みの「今日のいたずら」が収録されている。

普段は漫才コントを得意としている彼ら。だからこそ、今回のライブでは、漫才では演じられないようなスタイルのコントを演じる必要があった。そうでなければ、わざわざコントライブを行う必然性が無くなってしまうからだ。そして今回、彼らは“コントじゃなくてはならないコント”をきちんと演じられていた様に思う。小道具を効果的に用いた『新聞社』、舞台狭しと動き回った『怪盗』、二人の心が入れ替わる『チェンジ!』など、いずれもコントでなくては表現が難しかったのではないだろうか。

それでも、面白さで言うならば、肝心のコントよりも「今日のいたずら」の方が圧倒的に面白い。とはいえ、別にコントのクオリティが低いわけではない。それなりに笑わせてもらった。ただ、如何せん、「今日のいたずら」のクオリティが高すぎる。しかも、その手法が一辺倒ではないために、何度観ても飽きない。中でも「スイカ割り」は、普通のドッキリに更にドッキリを重ねるというテクニックを使うという巧妙さに、笑わずにはいられなかった。何度も引っ掛かる藤田の姿も面白いが、毎度毎度策略的に藤田を陥れる大村も客観的に見てかなり面白い。なんなんだろうか、このコンビは。

とりあえず、当面の目標としては、今作のパッケージにある“VTR「今日のいたずら」最新版をたっぷり収録」という文章を外すことだろう。コントライブがメインなのに、売り文句にVTRのことを取り上げられているようではいけない。


・本編(121分)

「新聞社」「オープニング」「子役CM」「タコ」「囚人」「ボーリング」「怪盗」「スイカ割り」「藤田が作ったコント」「ドライアイス」「WANTED」「アバター」「リフォーム」「S-1バトル殿堂入り作品「藤田のおもしろい顔の動きを撮ろう!!」」「チェンジ!」

・特典映像(24分)

トータルテンボスの地元「御殿場」を全国に紹介……?