菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

エレキコミック第20回発表会『NaNoNi』

エレキコミック第20回発表会『NaNoNi』 [DVD]エレキコミック第20回発表会『NaNoNi』 [DVD]
(2011/09/21)
エレキコミック

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8位なのに、20回目の単独発表会。

数々の媒体で活躍できるほどのポテンシャルを持っていながら、なかなか売れる機会に恵まれなかったお笑いコンビ、エレキコミック。96年の結成当時から現在に至るまで“バカ”の精神を貫き通している彼らのコントは、ただただ無意味で下らない笑いを瞬間的に巻き起こし、そして後には何も残さない。そんな彼らの笑いは一部から高い指示を得ており、05年以降の単独発表会(※いわゆる“単独ライブ”のこと)は全てDVD化されている。でも、一般的には、あんまり知られていない。

しかし2010年、そんなエレキコミックにチャンスが訪れた。年に一度、コントの王者を決定する「キングオブコント2010」の決勝戦に進出したのである。他の決勝進出メンバーを見ると、ジャルジャル、ロッチ、しずるなどの若手人気コント師ばかり。それは、テレビバラエティへの露出が少ない分、コントライブに力を入れているエレキコミックに有利な状況といえなくもなかった(過去の優勝者もバッファロー吾郎東京03と、ライブを中心に活動しているユニットが続いていた)。しかし、蓋を開いてみると、これがなんとダントツの最下位。あまりにも強烈な自虐ネタを手に入れて、彼らは再びメジャーの舞台から遠ざかっていったのであった。

それからおよそ一年後、「キングオブコント2011」の予選が開催される直前に、エレキコミックは通算20回目となる単独発表会を行った。ライブタイトルは『NaNoNi』。20回目の記念すべき公演のタイトルにしては、何処となく否定的でネガティブな印象を与える言葉である。せっかくの20回目なのに……って、まさかそれを言わせるためなのか?

ところで、ここで一つ謝罪させていただきたい。ここ数年、当ブログではエレキコミックに対して、些か厳しい感想を書き続けてきた。それは、かつて「爆笑オンエアバトル」に出演していた頃の彼らが持っていた、フルスロットルに振り切れたバカバカしさを取り戻してもらいたいと考えていたからだ。しかし、今にして思えば、それは当時のエレキコミックの幻影を今のエレキコミックに押し付けていただけだった。いうなれば、冷静さを失っていたのである。そのことを踏まえ、本作を鑑賞する際に気持ちをゼロにして臨んだのだが……以前よりは、今の彼らの笑いが理解できたような気がする。

かつてのエレキコミックは、とにかく破壊的な笑顔で攻め入るやついいちろうのボケと、それに困惑しながらも絶妙な言葉のチョイスで捌いていく今立進のツッコミによって成立していた。しかし、今のエレキコミックは、そこへ感情の起伏を取り入れるようになったのである。例えば、単なるバカにしか見えない学生がふとした瞬間にマジな表情を浮かべてみたり、本気で叱られたことで改心した子供が一瞬だけ冷たい目をしてみたり、そういった負の感情が表現されるようになった。その結果、コントの中にメリハリが生まれ、バカな笑いの表現方法も広がった。

そのことを意識してみると、本作のコントも実に味わい深く感じられる。修学旅行ではしゃいでいる最中に財布が無くなったことに気付いた瞬間、冷酷な目で友人を疑い始める『前略、原宿にて』。息子が学芸会で演る「桃太郎」の内容に疑問を抱いた母親が、教師にあらぬ感情を抱き始める『NaNDe』。某名作ドラマを改めて作り直すにあたり、役者を一新してまったく別の作品にする筈が……『入っちゃってる』。どのコントも、感情の起伏がバカバカしい笑いへと見事に繋がっている。また、キャラクターに深みが生じて、“単なるバカ”が“得体の知れないバカ”になっている点も興味深い。

しかし、なんといっても面白かったのは、特典映像に収録されている「やついのコンポ」である。やついの家にあるコンポは壊れていて、電源を入れた途端に切れるという厄介な代物だ。ただ、何度も何度も電源を入れていくと、そのうちCDが再生されるようになる。そこで、このコンポを使って、二人でロシアンルーレットをやってみることに……。壊れたCDコンポを使ってゲームをするという発想もさることながら、こんな下らないことを本気で楽しんでいる二人の姿が実に微笑ましい。こういった二人の側面が、もっと世間に知られる何かがあればいいのだが……勿体無い。実に、勿体無い。

ただ、本当に面白かったのは、このロシアンルーレットの罰ゲーム。その罰ゲームとは……ここでのネタバレは控えるが、彼らがダントツの最下位となった「キングオブコント2010」に関わる罰ゲームである。転んでも、タダでは起きないバカ二人。取り戻せそのラフネス、見せつけろそのタフネス。これからも彼らは、バカの最果てへと歩き続けることだろう。


・本編(82分)

「NaNoNi」「オープニング」「前略、原宿にて」「NaNDe」「クリーニング屋」「イマダチ!」「入っちゃってる」「友情ガール」「エンディング」「特典映像:やついのコンポ」