菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『エレキコミック第22回発表会「と、或る人が云っていた。」』

エレキコミック第22回発表会『と、或る人が云っていた。』 [DVD]エレキコミック第22回発表会『と、或る人が云っていた。』 [DVD]
(2013/10/16)
エレキコミック

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バカコントのパイオニア、エレキコミックが2013年4月に東京(10日~14日)・名古屋(26日)・大阪(27日)の三か所を巡った単独ライブ「第22回発表会「と、或る人が云っていた。」」より、下北沢・本多劇場で行われた東京公演の模様を収録。

徹底的にバカバカしさを追求したコントに定評があるエレキコミック。個人的には、『爆笑オンエアバトル』で披露していたコントのイメージが強く、やついが経営するハチャメチャなハンバーガーショップに客の今立が翻弄される『やっつんバーガー』、銭湯にやってきた客のやついが暴れまくる『銭湯』、大学の新入生歓迎コンパで盛り上がれない今立を場馴れしたやついが引っ張り出す『新歓コンパ』(大傑作!)などは、今でも印象に残っている。だが、ある時期から、彼らは純粋なバカコントを控えるようになってしまった。より具体的にいうと、人間のコンプレックスに重点を置くようになり、コントの後味に苦みが残るようになったのである。彼ら自身が年を重ねたことで、「いつまでもバカなコントをやっていて大丈夫なのか?」という迷いが生じたのかもしれない。

しかし、本作において、エレキコミックは往年のバカバカしさを見事に取り戻している。……実をいうと、前作「第21回発表会『有様』」(2012年7月開催)の段階で、その傾向を予感させてはいたのだが、本作ではそれがはっきりと形になって表れていた。例えば、結婚相手を探しに結婚相談所へとやって来た今立が様々なブスばかりを薦められる『結婚相談所』、負けが決まった試合で思い出作りにバッターへと立たされたのは全身をケガしていて一人でバットも振れない選手だった!『ケガ山君』、今立が自身の結婚を発表する会見で記者たちから卑猥でろくでもない質問ばかりを投げかけられる『囲み』など、どのコントもシンプルにバカバカしく、清々しい程に何も残していない。本作の鑑賞後、思わず感動した私は「これだよ、これ!」と喜びの声をあげていた。きっとご近所には変人と思われたことだろう。

その中でも、特にバカバカしい方向へ振り切れていたコントが『携帯ショップやっつん』だ。外出中にケータイの調子が悪くなった今立が、修理のために飛び込んだ携帯ショップでとんでもない目にあってしまう……という、彼らお得意のシチュエーションコントである。「個人情報保護法、何するものぞ!」と高らかに宣言したり、今立のケータイを「パンクと同じ要領で故障箇所を見つける」という理由で水没させたり、「スティーブ・ジョブズは青森で生きている」と都市伝説を語り始めたりと、何処を切ってもドイヒーな笑いで満ち溢れている。聞いたところによると、彼らは「キングオブコント2013」準決勝において、この『携帯ショップやっつん』を披露したという。賞レースであることを逆手に取ったアドリブ全開のコントになっていたらしいのだが……公式DVDで観られるだろうか?

個人的にオススメするのは『親子』というコント。中学一年生になった息子の進(今立)に、父親(やつい)が「どうしても伝えておかなくてはならない事実」として、「お前には何も才能もない!」と宣告する……という内容になっている。先に書いた、エレキコミックが新機軸として挑戦していた、“人間のコンプレックスに重点を置いた”ネタの流れを汲んだコントである。「才能のない人間が生きるための方法」がオブラートに一切包まれることなく提示されていて、そのストレートさが笑える一方、そこに才能のない自らを重ねてしまって、ちょっとだけ複雑な気持ちにもさせられる。それは、いわば「シンプルなバカバカしさ」と「心をえぐる批評性」が共存しているようで、これまでのエレキコミックのコントをよりディープにしたような面白さが感じられた。この隙間を上手く掘り進めていけば、エレキコミックは新たなる境地に辿り着けるのかもしれない。

特典映像には、ライブの幕間で流された『ワニのうんこ』を収録。文字通り、ワニのうんこをあることに用いた映像が収められている。ヒントは、板垣恵介のデビュー作『メイキャッパー』に掲載されている、ある美容法である。……ワニのうんこを相手に奮闘する二人の姿がなんともしょうもない、バカの極致ともいうべき映像となっている。いやー、完全にエレキコミックが帰ってきたなあ。めでたいめでたい。


■本編(約67分)

「オープニング」「と、或る人が云っていた。」「結婚相談所」「ケガ山君」「親子」「囲み」「携帯ショップやっつん」「ジャパニーズドリーム」「エンディング」

■特典映像(約7分)

「ワニのうんこ」