菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『磁石単独ライブ「プレミア」』

磁石 単独ライブ 「プレミア」 [DVD]磁石 単独ライブ 「プレミア」 [DVD]
(2012/01/18)
磁石

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「THE MANZAI2011」本戦サーキットにおいて、パンクブーブーに続く総合2位という好成績を残した漫才師、磁石。広島県出身佐々木優介秋田県出身永沢たかしによって、2000年に結成された。磁石というコンビ名は、二人のイニシャルが“S”と“N”であるところからきている。スラッとした体型に端正な顔立ちをしていることから、イケメンコンビと称されることも少なくない。一方で、芸人としての評価も高く、「M-1グランプリ」では八年連続で準決勝戦に進出している。但し、決勝戦に進出した経験は、一度も無い。予選審査員との相性が悪かったのか、はたまた、評価されるために必要な何かの要素が足りなかったのか。理由は分からないが、そこに彼らが今でも売れそびれている原因があるような気もする。

そんな自らの状況を打破する意味もあったのだろうか、2008年にそれまで所属していた三木プロダクション(元サワズ・カンパニー)を退社し、多くの若手芸人を抱えるホリプロコムへと移籍。単独ライブも定期的に行うようになり、2010年には初の冠番組「磁石のケータイハンター」が放送される。ゆっくりと、しかし確実に、芸人としてステップアップしていた彼ら。そんな折、「THE MANZAI2011」の開催が発表される。ここぞとばかりにエントリーし、出場、認定漫才師として選ばれて本戦サーキットに出場し、総合2位という好成績を残す……まさに、磁石が売れっ子芸人になるための最大の好機が、そこにあった。しかし結果は、浅草の舞台で漫才師としての腕を磨き抜いたナイツに圧倒的な実力を見せつけられ、無念の予選落ち。だが、彼らが「THE MANZAI2011」という、日本で最も面白い漫才師を決める大会の決勝戦に勝ち上がったという事実は、確かに残っている。この経験をきっかけに、2012年の彼らが更なる飛躍を見せることに期待したい。

『磁石単独ライブ「プレミア」』は、磁石が2011年7月に行った単独ライブを収録した作品だ。彼らが単独ライブを行うのは、2010年7月に行った『磁石漫才ライブワールドツアー日本最終公演』以来、およそ一年ぶりのこと。前回のライブで披露したネタは全て漫才だったが、今回のライブではコントも披露しており、いわゆる若手芸人の単独ライブらしいライブになっている。とはいえ、全体的に見ると、やはり漫才の比率が高い。「THE MANZAI2011」に向けて、新ネタを模索していたのかもしれない。……ちなみに、磁石が「THE MANZAI2011」決勝で披露した漫才は、前作に収録されている。もしも、彼らが最終決戦に進出していれば、本作で披露した漫才を演じていたのだろうか。

「プレミア」はコントで幕を開ける。舞台には、目隠しをされ両手を縛られた状態で座らされている、佐々木の姿。訳も分からずに、助けを呼ぶ。「佐々木:ちょっとー!?誰かーっ!?誰かいませーんっ!?」。と、そこへ、荷物を持った永沢がやってくる。様子から察するに、助けに来たわけではないようだ。縛られている佐々木と、思わせぶりな表情を見せる永沢。ライブのポスター(=本作パッケージ)を彷彿とするシチュエーションである。目が見えていないのをいいことに、様々な手法で佐々木を翻弄し続ける永沢。卒業証書を入れる筒をポンポン鳴らしたり、耳元に携帯電話と思わせて人参を当ててみたり、ヌーブラをつけた胸を触らせてみたり。散々弄んだところで、目隠しを外す。ところが、佐々木は永沢の顔に見覚えがない。果たして、永沢の正体は。佐々木の運命は。衝撃的なエンディングがそこに待っている……?

短めのオープニングコントとVTRが終わると、いよいよ彼らの二人舞台が始まる。まずは漫才だ。少年時代に永沢が憧れていたものを、佐々木と共に演じてみせる漫才コントである。永沢の先の読めないボケ、佐々木の言語センスが滲み出るツッコミ、それぞれが活き活きとしていて実に面白い。磁石というコンビのポテンシャルの高さを、改めて認識させられる漫才だ。ただ、その一つ一つのやりとりから漂ってくるセンスに対し、二本の漫才をむりやり一つにまとめたような構成には、激しく違和感を覚えた。前半が「不良ネタ」で後半が「ロボットネタ」というのは、ちょっと繋ぎに無理がある。「THE MANZAI2011」でも感じた、構成の弱さがここでも見えた。もしかしたら、それぞれの言語ポテンシャルの高さが、漫才自体の屋台骨を弱くしているのかもしれない。どちらに寄るのがいいのかな。

それを彼ら自身も意識しているのか、それともまったく関係無いのか、これ以降は、きちんと展開が練られている漫才が続く。永沢が数々の有名童話をごちゃ混ぜにしたおとぎ話を創作する読み物漫才『おとぎ話』、怪盗をやりたいという佐々木の要望に永沢がクレームを入れ続ける『怪盗』などなど。それぞれに違った魅力のある漫才が楽しめる。それらの中でも、完成度が高かったネタが『優柔不断』。永沢が優柔不断だという話から、究極の選択(「永沢:向井理か……若井おさむか、みたいな」)を始め、気になる女性とデートすることになるまでの流れが自然で、実に上手かった。全体的に、佐々木のツッコミが重視されたネタではあったが(名ツッコミ「ブスは待つ!」の別バージョンが!)、これからの展開に期待が持てる漫才だったように思う。これで永沢のセンスがもっと活かされれば……。

ところで、今回のライブでは、序盤に登場したフレーズが、後になって再びネタの中で登場するという、なかなかにニクい演出が取られている。前回の漫才ライブでもやっていたことだが、ノンストップ漫才ライブとは違い、こうして一つ一つのネタが独立しているライブだと、純粋に統一感が増して、なかなかに良い。見せかたもさりげなくて、嫌味じゃない。漫才のクオリティだけでなく、ライブ自体のクオリティも着実に上がってきている彼ら。今年あたり、そろそろドカンと爆発してもおかしくないとは思うのだが、果たして。

……ちなみに、本作に収録されているコントは、漫才師が演じているということを考慮すると、それなりに面白い。少なくとも、以前に彼らが単独ライブでやっていたコントよりも、シンプルで分かりやすくなっていた様に思う。流石にキングオブコントにかけられるレベルではないが……こっち方面の彼らにも、ちょっとだけ注目していきたい。あと、飲酒ネタは本当に危ないので、やめたほうがいいんじゃないか? と、余計なお世話も焼いてみる。


・本編(96分)

「コント:監禁」「オープニング」「漫才:少年時代の憧れ」「次回予告」「漫才:おとぎ話」「CM」「コント:マジシャン」「親に電話 前編」「漫才:怪盗」「親に電話 後編」「漫才:優柔不断」「酔ってチャレンジ 前編」「コント:恋愛セミナー」「酔ってチャレンジ 後編」「漫才:ピンチ」

・特典映像(13分)

「未公開+ハプニング」「メイキング」