菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ナイスなやつら ~未来はイイトコロ~』全ネタレビュー

キングコング西野亮廣・NON STYLE石田明 「ナイスなやつら ~未来はイイトコロ~」 [DVD]キングコング西野亮廣・NON STYLE石田明 「ナイスなやつら ~未来はイイトコロ~」 [DVD]
(2012/06/20)
西野亮廣石田明

商品詳細を見る

事前に書いておくが、私はキングコング並びにNON STYLEのアンチではない。この二組が過去にリリースしたDVDの多くは好意的にレビューしてきた(つもりだ)し、アンチになるほど彼らに対して深い興味を抱いてもいない。また、他の人たちが叩いているから一緒になって叩いてやろうというチキン野郎でもないし、過去に一方的に好意を抱いて一方的に嫌悪感を抱いた疑似ストーカー野郎でもない。私はあくまでも、純然たるお笑い愛好家に過ぎない。……と、いうことを踏まえた上で、以下のレビューに目を通していただけると有難い。というのも、今回のレビューはここ最近で最も辛辣であるからだ。ただ、それは個人的な思いがあってのことではなく、あくまでも私のコント観を反映したものであるということだけ、理解していただきたく存じ上げる。

(ネタバレは控えめにしているが、多少含んでいるのでご注意)

 

『お金アラウンド』(作・西野)

「本を万引きして捕まった男に対して、万引きGメンが口止め料を要求する。実は、万引きGメンの正体は泥棒だったのだ。ところが、その様子を見て、大声で笑い始める万引き犯。果たして、彼の正体は?」ネタのフォーマットがジャルジャルのコント『変装』そのものだったので、お互いの正体がどんどん明かされていくという畳み掛けの展開にさほどのめり込めず。二人が演じるマンガ的なキャラクターはそれなりに楽しめたが、それも「西野が演じている」「石田が演じている」ということを前提とした面白さで、コント自体の純粋な笑いではない。オチは上手い。

『ロックンロール ベイビー』(作・石田)

「言い間違いばかりしてしまう夫は、ミュージシャンを志して東京に出てきたドアホ。アルバイトもせずに路上で歌ってばかりの彼に、先が見えない妻は文句を口にし続ける。やがて二人は口論となり、妻は家を飛び出して実家の父親を呼び出す……」二部構成のコントで、前半は夫婦パート、後半は義理の親子パートとなっている。石田演じるロックンロールな夫は、キャラクターが立っているだけに単なるダメなドアホ止まりで終わっているのが残念。中途半端なムチャクチャさが、何処か生々しくて笑いにくい空気を生み出していたように思う。普段の漫才では抑圧されている石田の悪意が剥き出しになっているのだろうか。前半におけるなんでもない言葉が後半の伏線になっている構成は上手いが、最終的にアンジャッシュのコントと大して変わらない展開になってしまったのはどうだろう。別に彼らの専売特許というわけではないが、それにしても……。

『憧れのスペースシャトル(作・石田)

スペースシャトルに乗りたくて、宇宙飛行士を目指していた男の前に神様が現れる。神様はいつまで経ってもスペースシャトルに憧れている男を更生させるため、一度だけスペースシャトルに乗せてあげようと未来へとタイムスリップさせる……」 前半の、ダメな男がスペースシャトルに憧れるくだりが、たまらなく好きだ。設定はなかなか独創的だし、その世界観を崩さない程度のボケも良い塩梅。ただ後半、男がスペースシャトルに乗るまでのくだりで、一気に興醒め。ボケを狙って作り込み過ぎていて、コント本来の面白さを完全に損なっていた。かなり絶妙な設定だと思っただけに、実に残念。

『ミニスカートが舞う夜』(作・西野)

「ある日の夜。胸の痛みを訴えて、ある男が医者の元にやってくる。あまりに激しい咳をするので、もしかしたらろっ骨に損傷が起きているかもしれないからと、レントゲンを撮影しようとする。その最中、医者の恋人が病院にやってきて……」 西野と石田がそれぞれ一人二役をこなしているコント。早着替えや場所移動の凄味をあからさまに見せつけている場面も幾つか見られるが、それ以上にコメディとしての完成度に驚かされた。ちょっとした勘違いによって思わぬ展開になっていくストーリーは、一人二役というコンセプトも含めてバナナマンのコントを彷彿とさせるが、きちんと二人の持ち味が反映されており、ちゃんと独自のネタになっている。下手にストーリー性を感じさせないコントの方が、彼らの本質が反映されやすいのかもしれない。文句無しに面白かった。

アカメガシワの爆弾』(作・西野)

「戦時中のとある村。小学生のケンちゃんとヨッちゃんは、学校の先生が「もうすぐ戦争は終わる」と言っていたのではしゃいでいた。戦争が終わったら、未来が来る。未来ってどんな感じになっているんだろう? 二人は未来の人たちに向けて手紙を書く」 やりたいことは分かる。分かるし、ちょっとグッともくるんだけれど……あまりにも底が浅い。いわゆる反戦をテーマにした作品は過去に幾つも作られていて、その中にはコメディ要素を多分に含んでいるものも数多い。それら既存の作品を経た今の時代に、この程度のコントを作るのはどうなんだろうか。幾らなんでも純粋過ぎやしないか。いや、彼らの世界が純粋過ぎるからこそ、前半の小学生たちのやりとりを楽しめるのかもしれないが。それにしたって、ここまでメッセージをド直球にしなくても。あと、子どもたちの手紙を読んだ二人の反応が、ちょっと極端過ぎ。そのせいで、こちらがうるっとくる前に冷めてしまった。

総評

全体的に、コント自体に仕掛けられたロジックが笑いへと繋がるネタが多く、そこに彼らの笑いに対する堅実な態度が見えた。ただ、先のコントレビューで書いた様に、そういったネタの多くは既に他の芸人が高い純度で開拓しているスタイルで、それを改めて彼らが掘り返す必要があったのか。答えは否である。堅実に笑いを取ろうとする態度は決して悪いことではないが、それではドン詰まりだ。第一、ユニットとしてやっている意味が無い。元来、ユニットコントというものは、それ自体が既に特別なのだ。違うコンビの片割れ同士がぶつかって生じる化学反応、それだけで十分に特別なのだ。その特別さを抑えた堅実なコントなんて、これっぽっちも望んでいない。日頃、エンターテインメントに徹した漫才を披露している二人が、ユニットコントという特別な組み合わせで、どんな世界を見せてくれるのか。客はそれに期待しているのである。無論、容易なことではないだろうが。次回作、あるのであれば“期待したい”。


・本編(113分)

・特典映像(37分)

「メイキング映像」