菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『アンタッチャブル山崎のゆる~い関係』

アンタッチャブル山崎のゆる~い関係 [DVD]アンタッチャブル山崎のゆる~い関係 [DVD]
(2013/12/18)
山崎弘也(アンタッチャブル)

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気が付けば12月である。

まだクリスマスというビッグイベントが控えているとはいえ、そろそろ各家庭でも年末を意識し始めているのではないかと思われる。今年も色々なことがあったよなあ……と、この一年を振り返り始めている人も少なくないはずだ。かく言う私はというと、この文章を書きながら、ナントカ細胞やナントカ作曲家やナントカ号泣会見などのことを思い出し、面白そうな話題が多すぎて爆笑問題が漫才作りに困っているのではないか、などと余計な心配をしている。彼らがどうやってもろもろの事件を笑いに変えてくれるのか、今から正月特番が楽しみだなあ……と、呑気に構えている場合ではない。この一年を振り返る上で、私にはどうしても考えなくてはならないことがあった。いや、厳密にいうと、なかった。それがなかったという事実が、私にとって非常に大きな問題なのである。

今から20年前の1994年。ある漫才師が産声を上げた。テキトーなことを喋り続けるボケと、そんなボケにしっかりと食らいつくツッコミ。二人はめきめきと腕を上げ、若手芸人の登竜門『爆笑オンエアバトル』の常連となる。ハイテンションなしゃべくりで観客を笑わせていく様から、番組では“笑いの絨毯爆撃”と紹介されたこともあった。そして、結成10年目を迎えた2004年に、彼らは漫才師日本一を決定する『M-1グランプリ』のチャンピオンに君臨する。その漫才師の名は、アンタッチャブル山崎弘也柴田英嗣によって結成された、関東随一の実力派だ。しかし、2010年に柴田が突然の休業状態となり、山崎はピンでの活動を強いられることとなる。その後、しばらくして柴田は芸能活動に復帰するが、コンビで活動している姿はまだ何処にも披露されていない。一説によれば、事務所の社長が復帰への道筋を立てていたが、その最中に急逝してしまったため、復活の糸口がつかめないままになっているのだという。

だからこそ、今年だった。アンタッチャブル結成20周年にして、『M-1グランプリ』優勝から10年目という記念すべき年である2014年に、彼らは復活しなくてはならなかった。ところが、何の音沙汰もないまま、2014年はゆっくりと終わろうとしている。いや、もしかしたら、この12月中に、彼らの復活に関する情報を得ることは出来るかもしれない……と、微かな期待を抱くのは、きっと愚かなことなのだろう。だが、それならば、果たして、いつ? この状況に加えて、芸人仲間たちが彼らについて殆ど触れていない(触れるとしても、芸能活動を復帰した柴田の方にのみ)ことが、なんとも不穏な空気を漂わせている。本当に復活するのか。それとも……。

 

アンタッチャブル山崎のゆる~い関係』では、ザキヤマことアンタッチャブル山崎弘也アンジャッシュおぎやはぎ東京03ドランクドラゴン北陽、ゆってぃなどの人力舎芸人に関する様々な思い出話を展開している。聞き役は東京03飯塚悟志。古くから人力舎のことを知っている二人だからこそ引き出されるエピソードの数々は、どれも当時の若かりし時代をストレートに感じさせてくれる。普段は無責任なキャラクターで自由奔放にボケまくっているザキヤマだが、ここでは「アンジャッシュの出世は早かった」「おぎやはぎはバカ爆に外車で来ていた!」「東京03とライブをやった印象がない。どちらかといえばアルファルファとプラスドライバーのイメージ」など、芸人仲間との思い出・思い入れを、かなり率直に話している。あまりにもちゃんと喋っているので、その姿に違和感を覚えるほどだ。特に、ザキヤマと飯塚が北陽について話している姿などは、かなり貴重だったように思う。「北陽はよく分からないなあ……未だによく分からない」。彼らの当時のネタ映像も収録されていて、なんとも至れり尽くせりだ。

続けて、当時はマンブルゴッチというコンビで活動していたゆってぃも加わり、人力舎ライブ【バカ爆走】にまつわる伝説トークへ。バカ爆とはどのようなライブだったのか、最初はちょっと恐いイメージのあったアンジャッシュ児嶋が如何に落ちぶれていったのか(貴重なピン時代のコント映像付!)、そんな児嶋のことをザキヤマは如何にイジり倒してきたか……。やがて話はザキヤマ自身へ。当時のアンタッチャブルのネタ帳には二言くらいしか書かれていなかった、というおぎやはぎの証言を受けて、トークが始まる。

飯塚「二言ぐらいしか書いてなかったのに、10分のステージが大爆笑だったという……逆に二言なんなんですか?(笑)」

山崎・ゆってぃ(笑)

山崎「いや、まあ、あんまり確かに、書くタイプではなかったよね、二人とも。……ウチの相方もね」

ここでザキヤマが「相方」という言い回しを使っていたことが、妙に引っ掛かった。私の記憶が正しければ、かつてザキヤマは柴田のことを「柴田さん」と呼んでいた筈だ。それを「相方」と、なんとなく余所余所しいというか、何処か突き放しているような。……柴田の名前を口に出来ないほどに、二人の関係はギクシャクしているということなんだろうか。ザキヤマが久しぶりに口にしただろうアンタッチャブルの話。喜ぶべき場面なのだろうが、それがただただ過去として語られていることが、とても寂しかった。トークの前に流された、96年に撮影されたというアンタッチャブルの漫才。今の様にハイテンションではなく、ただただ引きのボケを見せる山崎と、荒々しいツッコミを飛ばす柴田。この頃の様には、もう戻れないのだろうか……。

と、ここまでが、本編ディスク1に収録されている内容である。

本編ディスク2には、2013年8月に銀座・博品館劇場にて開催された【人力舎お笑いLIVE「バカ爆☆豪華版」】で演じられたネタが収められている。アンジャッシュおぎやはぎ東京03ドランクドラゴンなどの実力者のネタはもちろん(キングオブコメディの名作『出張』が観られるとは思わなかった!)、『キングオブコント2014』ファイナリストのラバーガールや巨匠、『THE MANZAI 2014』ファイナリストのエレファントジョンなど、若きエース(というほど若くもないが)によるネタもがっちり収録。ネタの合間には、のんたなか(現・ぴーかぶー)による楽屋レポートもあって、非常に充実した内容になっている。その一方で、ピテカントロプスワルステルダムスパナペンチなど、惜しくも解散してしまったコンビの貴重なネタを収めた記録映像としての価値もある。2013年の人力舎を知る上で、本作は完璧に近い作品といえるだろう。

でも、完璧ではない。何故ならば、2013年のアンタッチャブルが収録されていないからだ。アンジャッシュがいて、おぎやはぎがいて、ドランクドラゴンがいて、東京03がいて、それなのに、どうしてアンタッチャブルがいないのか。特典映像でこっそり復活しているマンブルゴッチでは満足できない。私が求めているのは、思い出の中のアンタッチャブルではなく、今のアンタッチャブルなのである。山崎の暴走を縦横無尽にツッコミ続ける柴田の掛け合いを観たいのだ。こっちはとっくに客席に着いている。あとは舞台に上がってくるだけじゃないか。何をそんなに待たせる必要があるんだ。こちとら、アンタッチャブルの件は本当にアンタッチャブルらしいですよ、なんて下らない冗談で茶化されるのはもうゴメンなのである。

名作ウエスタン映画『シェーン』のエンディングの様に「カムバーク!」と叫び続けるから、本当にとっとと帰ってきておくれ。人力舎の漫才トップが不在だと、【ネタの人力舎】がなんか締まらないんだよ。


■ディスク1:本編【100分】

ザキヤマ人力舎芸人たちのゆる~い関係」「人力舎ライブ「バカ爆」伝説トーク」

■ディスク2:本編【120分】

「バカ爆☆豪華版 ネタセレクション」

■ディスク2:特典映像【27分】

古坂大魔王(ゲスト)」「真夏のコジ祭り スペシャルネタコーナー」