菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『イッセー尾形 寄席山藤亭』下

イッセー尾形 寄席山藤亭 [DVD]

イッセー尾形 寄席山藤亭 [DVD]

  • DVDエッセイ
    • イッセー尾形のDVDといえば、最近『イッセー尾形 一人芝居 蔵出し2005〜2006』が発売中止になった。なんでも、DVDのジャケットが別のアーティストのジャケットを明らかに模倣したものだったので、その対応としての発売中止なのだそうだ。僕は発売中止前に、このDVDを手に入れたのだが、なかなかの秀作揃いだったように思う。ユーザーとしては、さっさとジャケットを差し替えて再発売してもらいたいものなのだけれど……うーん、そうはいかないのだろう。以前に読んだ『イッセー尾形の人生コーチング』によると、“イッセー尾形・ら”という組織は「トラブルが人を育てる」という方針によって成り立っているらしい。今回のトラブルで、この組織は更に成長した……のだろうか。
  • 『電器屋』
    • 「三つ子の魂百まで」という言葉があるように、幼い頃の性格は年齢を重ねても変わらないものである。ただ、これは若い頃の人間に限った話ではない。ある特定の仕事を長年続けていた人間は、その後に別の仕事を始めたとき、その頃の仕事のクセが抜けないものである。この傾向をコントにする芸人は少なくない。例えば、元駅員がコンビニのアルバイトを始めようとするも、その癖が抜けきれないでいるインパルスの『コンビニ』(from『球根』)などが、それに当たる。この『電器屋』は、工場で三十年間働いていた男が、電器屋に派遣されたのは良いけれど、どうも工場に勤めていた頃のクセが直らず、壊れてくれたほうが電器屋にとっては有り難い電化製品を、次から次へと修理してしまう。その姿は笑えるが、なんだか以前の仕事を捨てきれずにいるようで、悲哀を感じさせる。
  • 『ピザ屋』
    • 普段は静かなオフィスに、如何にも傍若無人な若者がやってくる。皆が仕事をしている中で、大きな声をあげて「ピザ屋ですけどー!」と、ピザを注文した人物を呼び続けている。しかし、注文した人物は不在だ。若者は叫び続ける。静かにしてもらいたい社員らは、アレコレ若者に静かにするように言うのだが、若者の屁理屈な対応にまるで言い返せない。一見すると、若者が悪いようにも見えるが、実は若者は割と真っ当なことを言っており、むしろそれに対応している人たちのほうが、ズレたことを言っている。常識人に見えるほうが非常識なことを言い、非常識に見えるほうが常識的なことを言っているのだ。そこまで気付いた瞬間、僕はこのピザ屋に、ビジュアルバム(松本人志)の『システムキッチン』に登場する不動産屋の姿を見た気がした。ちなみにこのピザ屋、イッセーのお気に入りらしく、今作を含めて三枚のDVDに登場している。
  • 『チェロ』
    • イッセー尾形の作品は、基本的に人物を描くものである。しかし、この『チェロ』は、チェロで奏でるメロディをギャグに利用した、イッセーには珍しいコント的な作品だ。退屈がっている子供にチェロを弾きながら物語るという設定が、自由な発想のストーリーを展開させている。最近の若手漫才師は、その分かりやすさから昔話をコミカルにアレンジしてネタに取り入れるという手法が取られることが多いが、この作品はまさにイッセー流昔話漫才。ちなみに、『一人芝居 葉月ホール2006』には、この作品から派生した『知子お姉さん』という作品が収録されている。合わせて、どうぞ。
  • 『脳コントロール』
    • ピン芸人というのは、基本的にボケ役かツッコミ役に徹するものである。特にツッコミ役に徹するものが多く、代表的なところを上げると、陣内智則ユリオカ超特Qスマイリーキクチなど。この作品におけるイッセー尾形は、間違いなくツッコミ役である。では、ボケは何なのか。先の若手芸人たちは、自らで準備した設定だとか、世間のズレた事象をボケとして存在している。しかし、この作品には、そういったボケは存在しない。この作品におけるボケは、イッセーの身体そのものだ。イッセーの言葉に対し、身体が融通の利かない対応をする。イッセー作品の中でも、斬新でナンセンスな作品である。
    • 久しぶりにこの作品を見たけれど、改めてその斬新な設定に驚かされた。非常にSF的な設定なのに、そのバカバカしさゆえに、まったく難解さを感じさせられない。とにかく、客は「脳が口を通じて身体に指令を出す」という基本設定だけを理解していれば、この作品を理解できるのだ。今の若手芸人でいうと、THE GEESEのコントに近いかもしれない。とにかく、設定の素晴らしさが光っている作品だ。