菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

だってアウトドア派なんだもの『林家彦いち喋り倒し 野田知佑 夢枕獏とユーコンを下る』

林家彦いち、という落語家がいる。いるという話は聞いていた。聞いていたが、どういう落語家なのかは知らなかった。まあ、木久扇師匠の弟子ということは聞いていたので、うーん……たぶん、ちょっと大変な人なのかなあ、というイメージがあった。なにせ、落語家としては唯一「爆笑オンエアバトル」でオンエアされた経験を持つ落語家である。なんだか大変そうだ。ただ、『師匠噺』での木久扇師匠についての話や著書『いただき人生訓』での語り口は良さそうだったので、興味はあった。
……そんな折、今年の七月に彦いち師の落語DVD-BOX『彦いち噺』が発売された。興味はあったので、ギリギリまで購入を考えたのだけれども、なにせDVD-BOXは基本的に高額だ。まだ演目を観たことのない落語家のDVD-BOXを買うほどの勇気も懐の余裕も無かった僕は、それを見送ったのだが……やはり気になる。気になるなァ。気になるよォ。毎夜毎夜、彦いち師のことを思う夜が続いた。これだけ悶えることになるのなら、多少無理してでも買えば良かった……と思っていたところで、このDVDが発売されることを知った。値段は普通の演芸DVDよりちょっと高めの4,700円(税抜)だが、十分に手が出る値段である。いわゆる落語のDVDとはちょっと違う内容だということも手伝って、よし、試しにこれを買ってみよう……と、いうわけで買ったわけですよ、ハイ。
林家彦いち喋り倒し 野田知佑 夢枕獏ユーコンを下る』(しかし長いタイトルだ!)は、文字通り、林家彦いち師匠がカヌーイスト・作家の野田知佑氏と作家の夢枕獏氏とともにカナダにあるユーコン川を下っていく様子を、彦いち師が当時の写真とともに語る……というライブの様子を収録したDVDである。舞台の巨大なバックモニターに当時の写真が映し出され、その前で私服の彦いち師がその写真を撮った頃の話をするという形式になっており、木村祐一の“写実”みたいなのを期待していた僕は当初、ちょっと残念に思った。しかし、彦いち師の語りを聞いて、その期待はどうでも良くなった。なんだろうなあ……落語家のトークライブというのは、これまで観たことがないんだけれども、やはり間の持たせかたが上手い。客が笑い終わるまで、じっくりと待つ。これが、いわゆる普通の芸人なら、客が笑っているところで、更に笑いを継続させるために面白いことを話すんだろうけれども、そこで待つ。この間の使い方が、なんとも落語家的だなァ、とシミジミと思った。しかし一方で、「この話は入れる必要が無かったんじゃないかなあ?」と思える話もチラホラ。ちょっと詰めが甘いのかもしれない。まあ、そういうところも嫌いじゃないけどネ。
話の内容は、その大自然について語ることもあるが、それ以上に同行者である夢枕獏の言動をイジることが主である。いや、夢枕氏の言動がなかなかに凄まじいのだ。まず、カナダに行くのに財布を忘れるというファインプレーをかまし、カヌーに乗っている間も酒を飲み続け、現地のポールが「Back!」と言っているのを、自分のことを呼んでいると思い「なに?」と聞いたという……なんともいえないボケボケマシーンさを発揮していたようだ(彦いち師がちょこちょこ付け足しているのかもしれないけど)。一方、その現地カヌーイストのポールもなかなかの外国人的了見を発揮していた。
つまり、まぁー……面白かった。面白かったけれども、やはり気になるのは値段。税抜で4,700円というのは、やはり高い。これが3,800円だったら、もうちょっと堪能できたんじゃないかと思う。まあ、落語家さんのDVDはあんまり売れなさそうだからなあ……仕方ないのかもしれないネ。少なくとも、不満ではなかったしネ。特典映像によると彦いち師、シルクロード編もやってみたいらしい。実現するかどうかは分からないけど、次回の『喋り倒し』にちょっと期待しとこう。

・演者
林家彦いち
・特典
特別対談:「林家彦いち×夢枕獏」「林家彦いち×野田知佑」
・収録時間:約86分

それにしても、今年のコロムビアミュージックエンタテイメント発のDVDには外れが無い。チョップリンの単独ライブ『中年』に、吹越満のソロアクト、そしてこの彦いち師の喋り倒し……これらのドンジリにシティボーイズミックスライブ『モーゴの人々』が控えていないのが、残念でならない。いつ出すつもりなんだろうなあ。