菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『弩スピードワゴン Vol.3』

弩スピードワゴン Vol.3 [DVD]弩スピードワゴン Vol.3 [DVD]
(2008/12/17)
スピードワゴン

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NON STYLEの優勝で幕を閉じたM-1グランプリ2008。その背景には、様々な芸人たちのドラマがあった。「今年をラストチャンスのつもりで臨む」と公言していた麒麟。2005年決勝にて、屈辱の最下位を経験して以来の出場となった南海キャンディーズ。漫才師としての手腕を伸ばすため、ノンストップ漫才ライブツアーを敢行したオリエンタルラジオ……その中に、スピードワゴンの姿もあった。

敗者復活制度が設けられた2002年、そのワイルドカード枠を見事に勝ち取ったコンビ、スピードワゴンM-1グランプリで結果を残したことにより、お笑い界のスターダムに伸し上がる若手漫才師は少なからず存在するが、スピードワゴンもまた、そういうコンビだった。彼らはその勢いを利用して、更に漫才師としての手腕を鍛えていった。しかし、その結果として、スピードワゴンは漫才師としてではなく、タレントとして活動する機会が増えていくようになった。その後、ツッコミ役の井戸田安達祐実と結婚することによって、更にメディア露出は増加。彼らの漫才をテレビで観る機会は、殆ど無くなってしまった。

ところが2007年、彼らは再びM-1の舞台に立つことを決意した。その理由は、分からない。ただ、タレントとしてではなく、漫才師として再び彼らが戦いに挑もうとしていることだけは、確かだった。しかし、結果は準決勝止まり。スピードワゴンは決勝の舞台に立つことなく、2008年の元旦を迎えた。それでも、彼らは諦めなかった。自身にとってラストチャンスとなるM-1グランプリ2008に備え、彼らは彼らなりに、新しい基軸を生み出そうとしていた。

今作の本編には、そんな彼らが悩み抜いて産み落としただろうスタイルの漫才が、二本ほど収録されている。そのスタイルとは、本来はボケ役の小沢が女友達からオフィスラブについて相談されたという話を受け、本来はツッコミ役の井戸田がその女友達のオフィスラブの様子を昼ドラ的・週刊誌的に妄想するというもの。ボケ役が一方的に喋って、ツッコミ役が横から邪魔にならない程度にツッコむというスタイルは、なんとなくナイツの漫才を髣髴とさせた。正直、悪くはない。ただ、ボケ役とツッコミ役を入れ替えてしまったという点に、少なからず違和感を覚えた。

確かに、オードリーがボケ役とツッコミ役を入れ替えたことで、漫才師として異常とも言えるほどの飛躍を見せたことを考慮すると、その作戦自体の功績は否定できない。ただそれを、既にボケ役とツッコミ役の立場が確立しているスピードワゴンがやることの必要性は、果たしてあるのだろうか。こういう言い方をすべきではないだろうが、観ている人によっては、逃げているようにも感じられたのではないか。最終的に、スピードワゴン井戸田がボケ役に回るスタイルの漫才で2008年のM-1グランプリに挑んだが、再び準決勝で敗退となった。ちなみに、敗者復活戦では『ジャンケン世界大会』というネタを披露したらしい。どういうネタなのかは分からないが、正月番組で確認することが出来るだろうか。

ところで今作には、当然のことながら小沢がボケ役になっている漫才も収録されているのだが、どうも以前に比べて、小沢のボケが攻撃的になったように思う。今作ではツッコミ役の井戸田のダメなところを追求するというか、攻め立てているスタイルのボケが、妙に多かったのだ。以前からその傾向は少なからずあったが……。タレントとしてイジられまくっている井戸田の姿を見て、そういうスタイルになっていったのかもしれないが、個人的に小沢は、一歩引いたところからボソボソと笑いを取っていくスタイルの方が、似合っているというか、面白いと思う。

今年で結成十周年を迎えたスピードワゴン。果たして、そのままで良いのか。


・本編(79分)

『漫才1 早朝寝起きドッキリ』「夢の途中」『漫才2 オフィスラブ さゆり編』「オフィスガール」『漫才3 めざせ甲子園』「スピードワゴンを紹介します」『漫才4 ちょっといい話』「浅い男、井戸田潤」『漫才5 オフィスラブ まゆみ編』「自由研究」『漫才6 夏の思い出』

・特典映像(9分)

『VTR未公開集(「夢の途中編」「浅い男、井戸田潤編」「自由研究編」)』

・副音声

スピードワゴンと放送作家三名によるネタ解説・裏話