菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『かわしまんざいたむらいぶ』(麒麟)

かわしまんざいたむらいぶ [DVD]かわしまんざいたむらいぶ [DVD]
(2009/02/25)
麒麟

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これまでの単独ライブにおいて麒麟は、いわゆる吉本興業的なライブ構成を取り続けてきた。簡単に説明すると、「漫才→コント及び企画数本→漫才」という構成である。しかし今作において麒麟は、幕間映像を挟んではいるものの、自身の持ち芸である漫才ネタを立て続けに五本披露している。いずれも新作だ。タイトルの『かわしまんざいたむらいぶ』で分かるように、今作は“漫才ライブ”なのである。しかも、その五本の漫才の中に、捨てネタは一本も存在しない。完全にガチンコ状態の漫才だ。

最近、似たような雰囲気のライブを観た記憶がある。M-1グランプリ2008を制したNON STYLEの単独ライブ『NON STYLE LIVE 2008 in 6大都市 ~ダメ男vsダテ男~』だ。あのライブもまた、ガチンコの漫才ばかりが披露された単独ライブだった。あのライブで感じた熱意を、今作からも感じた。思えば昨年、麒麟は「今回をラストチャンスにする」と公言していた。そんな彼らの本気が、今作には滲み出ている。

NON STYLEがそうであったように、麒麟は今作で自身の新しいスタイルの開拓を試みている。その傾向が顕著に表れているのが、三本目に収録されている漫才。タイトルは無い。チャプターには、シンプルに「麒麟漫才 参」と表記されている。この漫才では、互いの主張を相手に一歩も譲らせない“議論”がテーマになっている。田村が妙な主張をし、それを川島が否定すると、今度は田村が川島の主張を否定する……という流れで構成されていることから、いわゆるしゃべくり漫才の形式を取っていると言えるだろう。最近の麒麟は、このスタイルの漫才をテレビで披露していることが多いようだ。

これ以外の漫才も、なかなか秀逸だ。田村の上手くない怖い話を川島が改善する漫才、田村の話に川島がテレビ的なテロップやアレンジで演出する漫才、田村の発言を川島が逐一解説していく漫才……こうして並べてみると、以前に比べて麒麟の漫才はしゃべくり重視になってきた気がする。ブラックマヨネーズの優勝以後、M-1グランプリがしゃべくりスタイルの漫才を評価するようになってきたということを受けての改変なのだろう。

そう考えると、彼らがM-1グランプリ2008決勝の舞台に立っていなかったという結果は、なにやら切ない。これが単純に面白くなかったというのであれば仕方ないが、僕が見るかぎりでは、今作に収録されている漫才は、決して当時の決勝戦で披露された漫才と遜色ないものだったと思う。準決勝の空気も少なからず関係しているのだろうが……なにやら、不憫なものを感じずにはいられない。とはいえ、今作で彼らが新しいスタイルを開拓したことは、決して無駄ではない。今回のライブは、彼らの漫才を以前よりも面白い段階へとステップアップしたことだろう。

そうなると気になるのは、今年のM-1グランプリにおける麒麟の動向だ。昨年、確かに「今年をラストチャンスにする」と公言していた麒麟。そこでは結果を出すことは出来なかったが、このスタイルであれば、もしかしたら今年は決勝の舞台に立つことが出来るかもしれない。そういう意味で、今年の麒麟には恥を忍びつつM-1グランプリに参加してもらいたいのだけれど……どうだろう。

余談。今作は本編のみではなく、幕間映像もなかなかに下らなくて面白かった(元々、麒麟の幕間映像は毎回クオリティが高い)。中でも強烈だったのが、某情熱大陸を明らかに模倣した「T-ART 漬けもの界の風雲児 川島明京」。このところ芸人ライブの幕間映像で見かけることの多い某情熱大陸のパロディだが、その中でも今回の映像は完成度が高かった。ナレーションの間とか、T-ARTを紹介するタイミングが元ネタを上手く模倣している。研究したんだなあ。


・本編(89分)

麒麟漫才 壱』「没タイトル」『麒麟漫才 弐』「CRホームレス中学生」『麒麟漫才 参』「T-ART 漬けもの界の風雲児 川島明京」「KIRIN GORIN 2008 Part.1」『麒麟漫才 四』「KIRIN GORIN 2008 Part.2」『麒麟漫才 五』

・DVD特典(27分)

「没KIRIN GORIN 2008」

「ふれあい満載 ふたりのビッグツアー」

副音声:麒麟&天津の仲良し副音声