菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『ヒカリゴケ ケツエン』

ヒカリゴケ ケツエン [DVD]ヒカリゴケ ケツエン [DVD]
(2009/06/24)
ヒカリゴケ

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漫才の相方を選ぶというのは、なかなか容易なことではない。例えば、同じ学校の同じクラスで気の合う仲間とコンビを結成したとしても、そのコンビが売れるとは限らないし、長続きするとも限らない。仲の良さはコンビネーションに直結するかもしれないが、面白さには直結しないのである。逆に、私生活では合わないだろう人間とコンビを結成して、大当たりするということもある。もちろん、逆も然り。正解も不正解も曖昧なお笑い界において、相方選びというのは実に難しいことなのだ。

そんな漫才の相方に、身内を選ぶというのはどういう心境なのだろうか。そのコンビで正解かもしれない。でも、不正解かもしれない。面白い漫才が作れるかもしれないけれど、そのコンビが売れるとは限らない。そんな漫才の相方に、身内を選択する……どうもコンビ別れし辛いようなイメージがあるのだが、どうなのだろうか。僕には姉妹が二人いるのだが、そのどちらかと漫才コンビを結成し、数年間活動を続けてみるが、芽が出る気配も無いし売れる気配も感じないので、コンビを解消するとなったとき、僕は姉妹にコンビ解消を迫れるのだろうか。……ちょっとだけ想像してみたけれど、よく分からない。

ヒカリゴケは、叔父さんと甥っ子によって結成された漫才コンビだ。叔父と甥の関係にあるとはいえ、二人の年の差は四年しか違わない。というのも、甥っ子である国沢の母親は、弟である片山と二十歳も年が離れているためだ。その関係性について彼らは、よく漫才の冒頭でサザエさんに出てくるカツオとタラちゃんの関係」と説明している。分かりやすい前例があって良かったなあ、などと理由無く安心してしまうのは僕だけなのだろうか。また余談だが、彼らが所属している松竹芸能には、いとこ同士によって結成されたなすなかにしというコンビも存在している。本当に余談だな。

その関係性は、彼らの漫才においても頻繁に取り上げられる。例えば、国沢がやりたいということを片山にお願いすると、「甥っ子が頭下げてんのに断れる叔父さんが何処におる?」と言って、そのお願いを受け入れたりする。ただ、そうやってあえてネタに取り入れている点を除けば、ヒカリゴケが叔父と甥の関係にあるということは、それほどネタのメリットとなっていないように思う。いや、むしろデメリットになってしまっていると言えるのかもしれない。

というのも、ヒカリゴケの漫才は基本的に「モテない片山が気持ち悪いことを言って、国沢にツッコまれる」スタイルなのだが、この漫才において二人の関係は『国沢>片山』なのである。が、叔父と甥という血縁上の上下関係は、『片山>国沢』だ。そして彼らは、常に漫才の冒頭で叔父と甥の関係について説明している。その結果、序盤と本筋とで二人の上下関係がズレてしまっているのだ。これが例えば中川家のように、情けない兄としっかりした弟という印象を与えれば良いのだが、現在の彼らはそのギャップを武器に出来ていない。その為に、ヒカリゴケの漫才は、その叔父と甥という関係性を殆ど活かせていないどころか、むしろネタの妨げにしてしまっているのである。

とはいえ、叔父と甥という関係があるからこそ、僕たちはヒカリゴケというコンビを記憶出来ていると言えなくもない。一言でコンビの関係を説明できるということは、間違いなく他のコンビの何倍も有利だ。知名度を上げるための武器はある。あとは、ネタを磨くだけだ。デメリットをメリットに変えられるまで、その漫才の精度を上げ続けてもらいたいものである。


・本編(31分)

『コンパ』『腹話術』『散歩』『中卒ラップ』『腎臓移植』『スーパーモデル』『ジャンケン』

・特典映像(12分)

「いっせいの絵日記」