菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『This is かまいたち』

This is かまいたち [DVD]This is かまいたち [DVD]
(2010/05/26)
かまいたち

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平仮名で書かれている“かまいたち”の文字を見ていると、なんとなく90年代を代表するサウンドノベルゲーム「かまいたちの夜」を彷彿とする。ただ、おそらく彼らの名前はそこに端を発したものではないらしい。そもそも、かつて彼らの名前は平仮名ではなく漢字で“鎌鼬”と書いていた。ところが、この名前では覚えてもらいにくいと考慮した末に、現在の平仮名表記になったそうだ。個人的には、平仮名表記であろうと漢字表記であろうと、さほど変わりはしない気がする(むしろ漢字表記の方が、彼らのイメージに近かったように思う)。まあ、そういった細かい点も配慮しなくてはならない厳しさが、芸人の世界にはあるということなのだろう。

かまいたち”は、大阪NSC26期生の濱家隆一山内健司によって、2004年に結成された。同期には藤崎マーケット天竺鼠ビタミンSなどがいる。テレビに出演し始めた頃の彼らは、山内のアジア系外国人めいた顔つきを利用して、謎の韓国人「チャン・ドン・ゴン・ゲン」というキャラクターを中心としたコントを売り出していたが、その後は漫才を中心にネタを磨いている。M-1グランプリには結成当初から出場しており、2005年以降は全て準決勝進出を果たしている。現在は少年少女、ヒカリゴケらとともに『1ばんスクラム!!』にレギュラー出演中だ。そんな彼らが、初めての単独映像作品をリリースした。タイトルは『This is かまいたち』。マイケル・ジャクソンのあの映画から着想を得たような、あまりにも安直なタイトルが安っぽくて実にいい。収録されているのは、十本のコントだという。……漫才は収録されていないらしい。個人的に、かまいたちは漫才師だというイメージが強いのだが。舞台ではコントを中心に活動している、ということなのだろうか。

しかし、今作に収録されているコントを見てみると、なんだかちょっと物足りなさを感じた。もう少し濃い口の笑いが欲しくなる味とでもいうのだろうか。透明になる薬を手に入れた学生が、クラスメートの女子の前ではしゃぎ回る『透明人間』。濱家の思わぬ経歴が紹介されていく『来賓紹介』。陰惨な殺人現場に残された被害者の奇妙な遺体をめぐる『殺人現場』。それぞれ実に面白かったのだが、「かまいたちならではの笑い」を明確に提示したコントは披露されていなかった。独創性というほどでもないし、王道というほどでもない。まさに中途半端。では、これらのコントをかまいたち以外の芸人が演じたとしても同質の笑いが得られるのかというと、それはそれで疑問を感じる。そこに「かまいたちならではの笑い」は感じられなかったが、しかし「かまいたちじゃなければ生み出せない空気」は確かに存在していた様に思えたからだ。

例えば『宝くじ』というコントがある。内容を書き出してみよう。<何もすることが無く、退屈な二人。そこで濱家が、お互いにお金を出し合って購入した宝くじを確認しよう、と山内に提案する。くじ券を二つに分けて、それぞれ確認する二人。と、そこで山内が10万円当たっていることに気付く。喜ぶ二人。ところが山内は、「宝くじを二つに分けたじゃないか」と言って、賞金を分け合おうとしない。うなだれる濱家。ところが、再び宝くじを確認してみると、濱家が1000万円当てていることが発覚。喜ぶ濱家と、驚愕する山内。気付けば山内は、その場にあった果物ナイフで濱家のことを刺し殺していた。しかし次の瞬間、時間が逆流して宝くじを確認する前の状態に戻っている。驚く山内を尻目に、濱家は再び宝くじを確認することを提案するのだが……。>多少の違いはあれど、タイムスリップして過去をやり直すことが出来るという設定は、金に目がくらんだ山内がその後も何度も濱家を刺し殺してしまうというパターンも含め、コントでは頻繁に用いられるオーソドックスなものだ。ところがこのコントも、やはりかまいたちならではの独特の雰囲気に包まれている。

その理由は恐らく、かまいたちのボケ役・山内の演者としての独特の佇まいにある。山内の演技は、純粋にボケ役を演じているときでも、ボケ役を演じていないときでも、常に妖しい。気が狂っているとまではいかないが、まるでこの世の住民ではないかのような、そんな危険な怪しさを彼は身に纏っているのだ。それ故に、上記のコント『宝くじ』で山内が演じている人物も、単なる“金に汚い男”とは違った“金に異常に執着心のある狂気的な男”へと変貌を遂げる。……と、そう考えてみると、彼らが“かまいたち”という妖怪の名前をコンビ名としていることは、実に正しいといえるだろう。そういえば濱家は、ねずみ男に似ている気がする(ド失礼)。

なお、今作の本編には十本のコントとは別に、山内が様々な罰ゲームを受けてリアクションを取る「山内罰相撲」と、濱家が手ごねハンバーグの作りかたを材料の仕入れからレクチャーする「濱家クッキング」が収録されている。どちらも爆笑とまではいかないが、じんわりと笑える映像作品となっているので、是非、堪能してもらいたい(というか、コント十本の収録時間より、この映像二本の収録時間の方が長いという……うーん)。


・本編(142分)

■厳選コント全10本

「ショップ」「透明人間」「~ありまして」「怖い話」「来賓紹介」「山之内先輩」「殺人現場」「宝くじ」「CDショップ」「ゲーム」

■山内ロケ企画「山内罰相撲」

■濱家ロケ企画「濱家クッキング」

・特典映像(19分)

■「山内罰相撲 禁じ手」