菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『オリエンタルラジオ漫才ツアー「我」』

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(2010/06/23)
オリエンタルラジオ

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オリエンタルラジオが漫才に力を入れているということを、どれだけの人が知っているのだろうか。恐らく、多くの人たちにとって、彼らは未だに『武勇伝』のコンビである。それだけ『武勇伝』というネタが優れていたということなのだろうが、しかし『武勇伝』を主に演じていた頃の彼らしか知らない人間が、今でも彼らに対して間違ったイメージを持ち続けているのだと思うと、なにやら歯痒い。だから、そういう人たちには、是非ともこの作品を観てもらいたい。これを観れば、少なくともオリエンタルラジオが十把一絡げの一言ネタ芸人ではないことが分かる筈だ。

オリエンタルラジオ漫才ツアー「我」』は、オリエンタルラジオが2009年4月から11月にかけて月に一度のペースで行っていた漫才ライブを収録した作品である。当時の彼らの目標は、とにかく「M-1グランプリ2009で結果を残す」ということ。この作品には、その唯一の目標に向かってただがむしゃらに漫才を演じてみせる二人の姿が映し出されている。ただ、彼らがかつてリリースした『才』(2008年4月に全国五都市で行われた漫才ライブを収録した作品。約80分間ノンストップ漫才が披露されている)の頃と比べて、だいぶ漫才が落ち着いてきたように思う。ただ発想を漫才にぶつけるのではなく、きちんと漫才を演じてみせようという意識を持つようになってきたようだ。

その傾向は、内容にも強く見られた。先にも書いたように、『才』で披露されているオリラジの漫才には、例えば「ことわざに新しい一文を加える」「犯罪者ばかりの戦隊ヒーローを考える」「もしもあの有名人のブログが炎上したら?」などの様に、中田の発想を中心にしたネタが多く見られた。しかし、今回の『我』において、彼らの漫才は非常にオーソドックスな作りを見せていた。オープニングでは「御存知、僕たちです」の一言でツカミを成功させ、それから自己紹介漫才へと展開。ツッコミの藤森に関する森羅万象をイジリ倒したかと思えば、さりげなく韓流スターや演歌歌手に毒を吐く。様々なスタイルの、しかし過去に数々の漫才師が演じてきたシチュエーションをマジメに演じる彼らのネタは、まさに漫才アイデンティティの再構築作業だった。

そうして迎えた、M-1グランプリ2009。その決勝の舞台に、オリエンタルラジオの姿はなかった。結果は、準決勝敗退。予選で彼らが演じていたネタは、今作に収録されている『合コン』だったという。確かに、このネタは今作で演じられたネタの中でも、爆発的にウケを取っていたネタだった。それが通用しなかったのは、素直に彼らの力量が足りなかったということなのだろう。しかし、オリエンタルラジオの漫才は、まだまだ途上である。発想重視の『才』、オーソドックス重視の『我』を経験した彼らは、既に次なる策を練っている筈だ。新たなる漫才世界に向けて、これからも彼らは突き進んでいくに違いない。

なお、今作の特典映像には、M-1グランプリ2009準決勝で散ったオリエンタルラジオが、新たなる漫才への道を切り開くために、M-1グランプリ2005覇者であるブラックマヨネーズと真剣に漫才について語り合う飲み会の様子が収録されている。自身の漫才に対する思いをぶつけるオリエンタルラジオと、それを真正面から受け止めるブラックマヨネーズは、とにかく熱い。漫才バカなら必見。


・本編(42分)

2009年11月14日にルミネtheよしもとで行われたライブを収録

・特典映像(67分)

2005年M-1グランプリ王者ブラックマヨネーズを相手に2010年の新たなる答えを求め決行した“絶対にテレビで話すことができない漫才の話”を完全収録

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