菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『松本ハウス復活第一弾ネタライブ「JINRUIの誕生」』

松本ハウス復活第一弾ネタライブ「JINRUIの誕生」 [DVD]松本ハウス復活第一弾ネタライブ「JINRUIの誕生」 [DVD]
(2010/09/01)
JINRUI

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一度解散してしまったお笑いコンビが再結成するという例は非常に少ない。何年も前に活躍していたロックバンドがあっさりと再結成してしまう例も珍しくない昨今だが、ことお笑いコンビに関してはそういった話を殆ど聞いたことがない。

これは恐らく、ミュージシャンに比べてお笑い芸人は圧倒的に潰しが利く仕事であるためだろう。例えば、後にコンビを再結成する世界のナベアツこと渡辺鐘は、コンビ解散後に放送作家として荒稼ぎしていた。スープレックスを解散した劇団ひとりあばれヌンチャクを解散した桜塚やっくん、号泣を解散した島田秀平など、コンビ解散後にピン芸人として成功した例も少なくない。そう考えると、この作品が如何に珍妙で希少な作品だということが実によく分かる。

今作は、かつて爆笑問題ネプチューン海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)らとともに『ボキャブラ天国』で高い人気を誇っていたコンビ、“松本ハウス”改め“JINRUI”の復活単独ライブを収録したものだ。十年前に解散したコンビが再結成を果たすことだけでも珍しいが、その復活ライブの映像がこうしてDVDとして残る例も非常に珍しい。ひょっとしたら、お笑いDVD史上初めての出来事なのかもしれない。当時、それだけ彼らが高く評価されていた、ということなのだろう。

とはいえ、実際に本編を観てみると、やはり十年という月日の長さを実感してしまう。かつて彼らが『ボキャブラ天国』のステージで見せていたような勢いや迫力は、完全に削げ落ちていた。観客の笑い声も少なく、その独特の世界観に引き込む程の手腕すらも失われていたように思う。特にシンカ(松本キック)のツッコミは酷かった。ボケをまったく笑いに変えられていない。

……だが、それはあくまでも十年という月日の長さを表しているに過ぎない。今後、彼らは舞台に立つごとに、自然と見せる力を呼び覚ましていくことだろう。つまり、今作で見るべきは、彼らの今後の成長に期待できるかどうかという点。そして、その意味では、今作は非常に有意義な作品だったといえるだろう。秀才とバカのやりとりが極端化していく『受験戦争』、みつを先生と弟子の名言的で狂気的な時間を描いた『みつを先生』、かつて下男だった男がマッサージ師として妖しく蠢く『下男・菊蔵』などのコントが放つ狂気は、今のお笑い界では観ることの出来ないタイプの狂気だった。

爆笑レッドカーペット』などの若手芸人が出演するネタ番組が次々に終了し、お笑いブームも終焉を迎えたと囁かれている今日。人々が若手のライトな笑いに食傷気味になっている今こそ、強烈な個性を発揮する彼らの様な笑いが求められる。十年という月日を経て、彼らはまさに彼らが求められている時代に蘇生……もとい、誕生したのである。


・本編(約83分)

「オープニングトーク」「キャラが選べる派遣村」「受験戦争」「漫才「交通事故」」「即興コーナー」「みつを先生」「下男・菊蔵」「漫才「デモデモ」」「エンディング」

・特典映像(約8分)

JINRUIのおまけ」「初単独ライブを終えて」