菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『COWCOW CONTE LIVE 5』

COWCOW CONTE LIVE 5 [DVD]COWCOW CONTE LIVE 5 [DVD]
(2012/08/22)
COWCOW

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あたりまえ体操』でブレイクしたお笑いコンビ・COWCOWが2012年5月に東京・大阪で開催した単独ライブの模様を収録。『あたりまえ体操』は勿論のこと、漫才・コント・ピンネタなど、様々なスタイルの笑いを楽しむことが出来る作品になっている。特典映像には、ライブの幕間で使用されたブリッジ映像と、過去の『あたりまえ体操』を寄せ集めた『あたりまえ体操大全集』などが収められている。これさえあれば、2012年のCOWCOWを余すことなく楽しめるといっても過言ではないだろう。

……ただ、個人的には物足りなかった。というのも、過去のライブに比べて明らかにショートネタが多かったからだ。『アイアインメイシン』『あたりまえ体操』などの鉄板ネタは仕方が無いにしても、超有名なキャラクターによく似ているキャラクターたちが次から次へと登場する『トルネードそっくりショー』(どうでもいいけど、あれは版権的にセーフなんだろうか?)や、日常で実際にやってしまいがちな言動を目撃した瞬間に「言うけどー!!!」と絶叫するお化けが主役のショートコント『お化けのユウケド』の様に、単独ライブならではのオリジナルネタまでショートにする必要は無かったんじゃないか。以前のライブは、ショートネタや漫才に加えて、きちんと設定を練り込んだコントも演じていたのに、どうして今回はショートネタに偏ってしまったんだろうか。作る時間が無かったのか、『あたりまえ体操』のヒットを受けてショートネタにシフトチェンジしたのかは分からないが、なんとも残念である。……念のために言っておくけれど、私はショートネタが嫌いなわけではない。ただ、ショートネタばっかりだと、どうも満足感が得られないのである。分かりやすく例えると、美味しいおかずだけじゃ腹が膨れないぞ、米かパンを持ってこい!ということだ。

続いて、ピンネタについて。例年、COWCOWの単独ライブでは山田のピンネタが披露することになっているんだけれど、今回はR-1で優勝した多田のピンネタも収録されている。勿論、R-1決勝で披露された例のアレだ。ギャグそのものはいうまでもなく面白いんだけれども、画があまりにも地味過ぎたのが気になった。せっかくのライブで素の多田がギャグをやるだけって……うーん。BOXでギャグのお題を引くというギャンブル的な要素も、単独ライブという全てが準備されている場ではあまり効果的ではないように思えた。それなら、過去の単独ライブでやっていた『研究室』(※山田が顕微鏡で多田扮する未知の生命体を観察し、その行動……もといギャグを記録するコント)をやれば良かったんじゃないか、と。とはいえ、優勝した直後のライブなので、観客の期待に応える意味で披露したという側面もあるんだろうけれど。一方、いつもならバツグンの安定感を見せている山田のピンネタも、今回はそれほど……。「ウィリアム・テル」をテーマにしたスケッチブックネタを『ウィリアム・テル序曲』に合わせて展開するというやり方には意欲を感じたけれど、肝心のネタそのものにあんまり驚きを感じられなかったなあ。ただ、これにもまた、これまでのピンネタがあまりにもハイクオリティ過ぎたため、観る側としてのハードルが極端に上がっていたことも否めない。この辺の判断が難しいところ。

ついでなので、あたりまえ体操の話もしておこう。知らない人がいるかもしれないので念のために説明しておくと、『あたりまえ体操』は子ども向け番組のお兄さん風に扮したCOWCOWの二人が音楽に合わせて“あたりまえ”なことを体操で表現するネタである。その内容は、例えば「右足を出して左足出すと……歩ける」「両足の膝を一緒に曲げると……座れる」などのようなもの。説明する必要のないことをあえて真面目に解説する無意味さと、それを体操で表現するという無意味さが合わさることによって生じる不条理さが、なんとも味わい深い笑いを生み出している。一方で、ネタのフォーマットが、いわゆる「あるあるネタ」のそれに似ている点も興味深い。ある意味、『あたりまえ体操』は、日常で起こり得る出来事を観客に想起させる「あるあるネタ」の究極系といえるのかもしれない。

ただ、この素晴らしき『あたりまえ体操』も、世に知られるようになるにつれ、少しずつネタの方向性を変えていく。先にも書いた様に、『あたりまえ体操』はあくまでも“あたりまえ”なことを表現することにより笑いへと昇華されるネタだ。しかし、大衆ウケを強く意識するようになったのか、『あたりまえ体操』は分かりやすい内容へと変わっていく。はっきりいってしまうと、“電車”“サラリーマン”“男と女”など、特定のシチュエーションに限定するようになったのである。それはそれで面白い。面白いのけれど……それはどうも、元来の面白さからかけ離れて、むしろ「あるあるネタ」に似ている。大衆ウケを意識すると、分かりやすくて面白いパターンに流れてしまうのは仕方が無いことといえるのかもしれないけれど、なんだかとっても勿体無い。

……振り返ってみると、どうも批判ばっかりの文章になってしまったけれども、本作は決してつまらない作品ではないCOWCOWだからこそ生み出すことの出来る、アットホームで老若男女に受け入れられる笑いは唯一無二で、どれもこれも安心して観ることが出来る(今回はちょっと死ぬネタが多かった気もするけれど)。クオリティは常に及第点を超えていて、安定感のある笑いをきちんと提供してくれている。だからこそ、今回の例年と比べて明らかな作り込みの甘さは気になって仕方が無かった。……そして、来たる7月24日、新作『COWCOW CONTE LIVE 6がリリースされるという。状況は果たして改善されているのか、それとも本作と同様にショートネタラッシュになっているのか。とりあえず、期待している。


■本編(89分)

「放課後」「アイアンメイシン」「トルネードそっくりショー」「お化けのユウケド」「フリップは天下の回り物」「漫才」「多田ピンネタ「50音BOX」」「輿志ピンネタ「ウィリアム・テル」」「多田ピンネタ「お題BOX」」「トルネードそっくりショー2」「みんなであたりまえ体操」「漫才2」「紙芝居」

■特典映像(27分)

「ブリッジ映像」「あたりまえ体操1」「あたりまえ体操2」「あたりまえ体操大全集」「お客様スライドショー」