菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

ベンビー&こきざみインディアン 『なんまいにく。』

ベンビー&こきざみインディアン 『なんまいにく。』 [DVD]ベンビー&こきざみインディアン 『なんまいにく。』 [DVD]

(2012/12/26)

ベンビー、こきざみインディアン 他

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かつて、キャン×キャンスリムクラブが在籍していた沖縄の芸能事務所“オリジン・コーポレーション”に所属しているピン芸人「ベンビー」と漫才師「こきざみインディアン」のパフォーマンスを収録したバラエティ作品。三人によるフリートークを中心に、ライブでのネタ映像やDVD収録用の企画ロケ映像が収められている。沖縄のお笑いのことはよく分からないのだが、本作のパッケージ裏に“沖縄最強のお笑いを詰め込んだ”とあるので、どうやら彼らが沖縄のお笑いにおける筆頭であるらしい。……どうせ本土の人間は誰も知らないだろうからって、テキトー書いているわけじゃないだろうな? こっちはそういうのにすぐ騙されるぞ。

とりあえず再生してみると、すぐさま三人のフリートークが開始。どうやら沖縄そばのお店“ちゅるげーそば”の一角で撮影されているらしい。撮影用に貸し切りにしているわけではなく、営業中のお店の中で収録するというユルさに、沖縄……というよりも、ローカル特有の奔放さを感じさせられる。と、そこでいきなり、耳に馴染みの無い謎の言葉が飛び込んできた。

ベンビー「景色が非常にいいということで来たんですけども、台風が近付いているという(笑)」

こきざみインディアン・さーねー「外にハイビスカスが見えるとっても上等な席があるんですけども、中で撮っているというね」

こきざみインディアン・もーりー「なかなか仏壇をバックにっていうのはないですよ! しかもウヤファーフジに相当コーレーグース……(笑)」

「オープニングトーク」より

「ウヤファーフジ」? 「コーレーグース」? なんだそれは。何語なんだ。いや、沖縄芸人のDVDなんだから、そりゃ沖縄の方言なんだろうけれど、それにしてもどういう意味だ? ……よくよく画面を見ると、ちゃんとテロップで翻訳が掲載されている。どうやら、ウヤファーフジとは「ご先祖様」のことで、コーレーグースは「沖縄のトウガラシ」のことらしい。それにしても、何の前触れもなく唐突に飛び出してきたものだから、ついつい驚いてしまった……って、なんだかドライバーの危険察知訓練みたいなことを言ってしまったけれど。

本作には、こういった不意に飛び出してくる方言が少なからず見受けられる。これも沖縄ならではの味つけといえるのかもしれないが、従来の日本語とはまったく違った言葉を自然に使っている様子を見ていると、妙に距離を置かれている気持ちになってくる。極端な話、沖縄の人間以外は観なくてもいいですと言っているかのようにすら思える。とはいえ、恐らくは「分かる人にだけ分かればいい」という斜に構えた態度を取っているわけではなく、ごくごく自然に方言を口にしているだけなんだろう。ここで抜粋したシーンにしてもフリートークなんだから、そこは自然体で話すのは当たり前じゃないかといえなくもない……が、

もーりー「How old are you? 何歳ですか?」

さーねー「Oh…twenty sixth」

もーりー「おお、twenty、26! (自分を指差して)twenty eight!」

さーねー「ワーヤーカータッチビーカーシージャルヤンテ! タッチビーカー……」

もーりー「……いつ来た? 沖縄に」

こきざみインディアン『留学生』より

方言が分からないと伝わらないネタはちょっと勘弁してほしい。ネタ中だからなのか、テロップによる翻訳もないし。とりあえず、意味が分からないながらも文字起こししてみたけれど、この文章が正しいのかどうかもよく分からない。ちなみに、こきざみインディアンはこれ以外のネタでも、ちょっと方言がキツ過ぎて分かりにくくなっていることが多い。あえての作戦なんだろうか。世界観のバカバカしさを売りにしている漫才師だけに、この分かりづらさはなかなかに致命的だ。

追記。Twitterで沖縄在住のフォロワーさんにお話を伺ったところ、これは「ワーヤカーターチビカーシージャールヤンテ」と言っているのだそうだ。……ほぼ書き起こした内容で正解だったのか! 意味は「ワー(我、私)ヤカー(よりも)ターチ(二つ)ビカー(ばかり、ほど)シージャー(先輩、年上)ルヤンテ(ですね、だね)」とのこと。……分かるわけがない! 分かるわけがない!

話を戻す。これらの方言による排他的な雰囲気に加えて、ところどころに見られる企画そのものの古臭さがより本作のローカル性を高めている。ベンビーの「ルート5 100桁暗記できるもん!」はまだ言葉遊び的な要素があるから良いにしても、こきざみインディアンの「ロマンティックが止まらない」はどうなんだ。あえて古いヒット曲をモチーフにすることによる、いわゆるひとつのパロディだったんだろうけど、「町の人たちにロマンティックな話を伺う」というローカル臭さ全開の内容が、それを冗談ではなく本意気でやっているように思わせるから恐ろしい。……ていうか、芸人のDVDで一般の人がメインの企画ロケって、そもそも根本的にどうなんだ?

でも、これらのローカル感溢れる内容も全て、沖縄なんだからなんくるないさーウェーブによって包み込まれることにより、なんだか納得してしまうから不思議だ。いや、むしろ、それこそが本作の稀少性を高めているともいえるのではないか。全国流通仕様に整った沖縄像なんかとは比べ物にならない、ここには堂々たるオキナワンラプソディが詰まっている。沖縄県民の気持ちになって鑑賞すれば、いつでもどこでもそこはもう沖縄になる……んじゃないかと思うんだけどなあ(※なれませんでした)

ちなみに、ベンビーのネタだけど、

「あ、木村さん。シマウマ入ってますけど、いいシマウマ。今二種類出してるんですけど、「シマウマの黒い部分だけ炒め」、そしてもう一個が「黒そうで黒くない少し黒いシマウマ」。どうします?あ、「黒い部分だけ炒め」いきましょうね。はい、有難う御座います。(厨房に向かって)アイ!ババンナギ!クロ!ひとつ!うん、肉切り分けといて!宜しくよ!はい、えー……はい?白い部分ですか?シマウマの!?あれ、全部毒ですよ!?食べたら三日は動けなくなりますよ!」

ベンビー『アフリカントマト』より

……私はけっこう好きです。


■本編(約100分)

「オープニングトーク」「ベンビーコント『アフリカントマト』」「こきざみインディアン漫才『留学生』」「こきざみインディアンのロマンティックが止まらない」「トーク2」「ベンビーコント『初詣』」「こきざみインディアン「トイレと子供」「ヘイ!マツザカ」」「エンドトーク」「エンディング」