菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『しずるベストコント』

しずるベストコント [DVD]しずるベストコント [DVD]

(2015/01/28)

しずる

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『しずるベストコント』を観る。

しずるといえば、ゼロ年代末に巻き起こった“ショートネタブーム”の最中に注目を集めたお笑いコンビだ。『爆笑レッドカーペット』で人気を博し、同番組の出演者が集められたスタジオコント番組『爆笑レッドシアター』にレギュラーとして出演、数々のキャラクターコントを生み出している。当時の彼らは、後輩のはんにゃ・フルーツポンチと並び称されることが多かった。称賛されるときも、批判されるときも、なんとなくセットにされていたように記憶している。ただ、コント師として、しずるは明らかに頭一つ抜きん出ていた。独創的な設定と、しっかりと練り上げられた構成が、彼らの魅力を最大限に引き出していたからだ。事実、彼らは『キングオブコント』の決勝戦に何度も進出し、2010年には優勝にあと一歩というところまで上り詰めている。

『しずるベストコント』は、そんな二人のベストコントライブ(2014年11月2日・ルミネtheよしもと)の模様を収めたDVDと、現時点における最新の単独ライブ『日常と爆弾なんてさして変わりはしない』(2014年6月・俳優座、7月・5upよしもと)の模様を収めたDVDを一組にパッケージした作品だ。単独ライブの映像とベストライブの映像を一緒にまとめた作品といえば、2013年にラブレターズがリリースした『ラブレターズ単独ライブ LOVE LETTERZ MADE 「YOU SPIN ME ROUND」&ベストネタセレクション』が印象的だが、歴史の長さと認知度の高さが故か、ボリュームの点では圧倒的にこちらの方が上回っている。しかし、単独ライブ映像よりも、ベストライブ映像の方をメインにしているところに、些かの寂しさを感じなくも……。

ベストライブの模様を収めたDISC1では、しずるの代表的なコントが30本も披露されている。驚くべきボリュームだ。彼らの名を世に知らしめた『青春コント』(本作には視力検査バージョンを収録)は勿論のこと、『キングオブコント』決勝戦のステージで演じられた『冥土の土産』『卓球』『シナリオ』『パンティー』『能力者』『びっくり先生』もしっかりと収録。『爆笑レッドシアター』で観た記憶のあるネタもチラホラ。上司に説教されている最中にいきなり語り始める『語り』、長い共同生活を経てきた二人にはもはや言葉なんて最小限で十分『ルームシェア』、教師に対する気持ちを抑えきれない不良女子高生の葛藤を描いた『清美と川口先生』が入っているのは嬉しかった。2時間に30本のネタを詰め込んでいるためか、少し粗めに感じられる場面も何度か見られたが(正直、『Tシャツ』での池田の演技は、もうちょっと抑え目にしてもらいたかった)、これだけのネタをソフト化したことの意義を考えると、大した問題ではないだろう。

個人的に気に入ったのは、知らない間に拉致されていた村上の前に現れた奇妙な男の正体とは?『籠城』と、銃で撃たれても死なない男に隠された謎をなかなか暴けない『ストレンジャー』。前者のコントはとにかく池田の演技が秀逸。『能力者』もそうだったが、池田はコントに登場するマンガ的なキャラクターを演じるのが非常に上手い。ウッチャンがメインキャストを務める『LIFE! ~人生に捧げるコント~』にレギュラー出演しているのも、その演技力を買われてのことだろう。後者のコントはただただ観客を煙に巻くだけのナンセンスコント。今流行りの『ラッスンゴレライ』をコントで演じると、こういう内容になるのではないだろうか。シチュエーションの緊張感が、そのバカバカしさを更に強調してくれる。……あと、『将棋部』のコントは、あまり恵まれない思春期を過ごしていた私には、ちょっと来るモノがあった。あんな女子が身近にいれば、どんなに充実した日々を過ごせていたか……(いねーよ)。

最新単独ライブの模様を収めたDISC2には、コントを8本収録。正直、ベストコントを30本観た後だと、全体的にちょっと笑いが弱めに感じられる。幕間映像が少しも入っていないのも、ちょっと寂しい。とはいえ、何度も舞台でかけられてきたであろうベストネタとは違い、角が取れていないネタならではのクセの強さが刺激的でもある。とりわけ、ライブハウス【スポンジ】で自らを“ただの水”と称する男にグイグイ詰め寄られる『ただの水』、試着室の中で“過去なる陰”と“未来なる光”が対峙するメッセージ性のえげつないコント『シチャクシツ』、様々な偶然が二人を結びつけようとする……と思いきや!『出逢うべく二人』などは、良くも悪くもしずるの濃いい部分が前面に表れていたように思う。『シチャクシツ』の世界観は本当にどうかしていた! 一方、シンプルにバカバカしさを押し出したネタもあり、とりわけ『警察署屋上』の下らなさは必見だろう。音が変わるところがサイコーなんだよなあ……。

とりわけ印象に残っているのは、最後に演じられたコント『ファミリー』。“ベルセッティファミリー”から大金を奪おうと目論んでいる“ミスターコヨーテ”の前に現れたのは、彼のことを「ダディ」と呼んでつきまとう謎の少女。幼いながらも、ベルセッティの元へ侵入する手助けをしてあげようと言ってのける彼女の正体とは? 古き良き時代の海外ドラマを彷彿とさせるウィットに富んだやりとりが、とにかく楽しい。王道過ぎるが故に今ではあまりお目にかからないという意味では、王道の青春ドラマをパロディした『青春コント』に通じるところがあるかもしれない。展開はかなりハチャメチャだが、その整合性の危うさが、また懐かしさをより強調している。日本語訳を意識したと思われる喋りも魅力的だが、村上の弱点である滑舌の悪さが少し世界観の構築を邪魔しているように感じられた。ちょっとクールな喋り方のキャラクターだから、いつもより余計に聞き取り辛いんだよなあ……。とはいえ、かなり満足感の残るコントだった。この路線、続けてほしい。

特典映像には、NSCの卒業公演で演じられている『組体操』を収録。どうせ記録映像だろうと高を括っていたが、画質がなかなか良かったので驚いた。そのレベルの映像が残せているのなら、他の芸人たちの卒業公演の映像も世に出せるのではないだろうか。……いつか見せてもらいたいものだ。内容は本編に収録されているバージョンの『組体操』と殆ど同じだが、ところどころで余計な台詞を加えていたり、テンポが少し悪かったりして、今よりも未熟さが感じられた。この“過去なる陰”があるから、これからの“未来なる光”があるわけか……ああっ! まだ『シチャクシツ』引っ張ってるよ!

しずるの今の集大成なる本作。今から10年後には、どんな未来が待っているのだろうなあ。


■本編【DISC1「しずるベストセレクション」・129分】

「青春コント」「消しゴム」「カラオケ」「Tシャツ」「語り」「びっくり先生」「パンティー」「ショートコント「なんなの?」」「田沼さん」「ブーブー」「将棋部」「再会」「ルームシェア」「暇」「能力者」「清美と川口先生」「組体操」「枠」「永遠にクズ」「野球部OB」「腹黒い男」「用心棒」「素人クイズ選手権」「フォークダンス」「籠城」「兄貴と子分」「ストレンジャー」「卓球」「シナリオ」「冥土の土産」

■本編【DISC2「日常と爆弾なんてさして変わりはしない」・78分】

「ただの水」「思春期」「シチャクシツ」「ノリノリ」「米国人」「警察署屋上」「出逢うべく二人」「ファミリー」

■特典映像【DISC2・1分】

「秘蔵!NSC卒業公演の「組体操」」