菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

プレイバック『ラ ハッスル きのこショー』

2003年12月。なんとなく薄ら寒かったその日、まだまだ学生真っ只中だった僕は、レンタルビデオに出かけた。入学前に入会した店に入り、いつもと同じようにお笑いビデオのコーナーを覗いた。と、その時だ。ある一本のビデオテープが、僕の目に留まった。当時の僕といえば、ラーメンズバナナマンさまぁ〜ず等のコントビデオをほぼ毎日と言えるくらいに鑑賞していて、とにかくスポンジに水を滲み込ませるように、自らの脳味噌にお笑いの情報を詰め込んでいた頃で、そろそろ新しい笑いは無いものかと、そう考えていたところだった。そんな僕の目に留まったビデオこそ、シティボーイズミックスpresents『ラ ハッスル きのこショー』。僕はここで、初めてシティボーイズのコントに遭遇したのだった。実は、当時の僕は、シティボーイズの存在だけは知っていた。当時、頻繁に出向いていたDVDショップで、彼らのDVD-BOXを見かけたことがあったからだ。その度に、シティボーイズがどういうコントをやっているユニットなのか、妙に気になっていた。そんな折での、レンタルビデオでの発見。これは好機と、その日の僕はそそくさとそれをレンタルし、ちゃっちゃか家に帰り、すぐさまビデオを再生させたのだった。
再生してすぐに、僕は度肝を抜いた。五人の男たちが、貴婦人の様な衣装を身に纏って、大声で笑っている。そして、そのままコントが始まるのかと思ったら、何も無しに暗転。思わず僕は「なんじゃこりゃ……」とつぶやいた。それまでの僕が観てきたお笑いとは、明らかに色の違った世界がそこにあった。その後も、コントは着々と進行する。大竹まこと演じる老人を介護する人たちも老人、というコント。上官が部下に算数を教えるコント。登場する全員が怒り口調なのに、実はみんな仲良しなコント……説明するのは難しい。けれども、間違いなく面白い。そんな、よく分からないコントばかり、ずらずらら。そういえば、中村有志いとうせいこうがコントをするということも、このライブで初めて知った。
このライブで披露されているコントの中でも、特にインパクトが強かったのが流れ作業の現場を設定にしたコント。五人が演じるキャラクターが、それぞれ妙に個性的だったのが面白かった。特に斉木しげる演じる“ハードボイルドに憧れる男”が、たまらなく好きだった。とにかくハードボイルドを気取るのだけども、その考えかたというか、その台詞回しがたまらなくオカシイのだ。ハードボイルドな男はたまに気のきいた言葉を言うということで、「ポニーテールにした女の年は、分かりにくいぜ」と言ってみたり、何の脈絡もなく「ニューヨークは何時かな?」と言ってみたり、『新宿妻』という小説を原稿用紙三枚で書いてみたり……極めつけに、やたら笑う不法入国労働者のマーさん(中村有志の演技が秀逸!)に対して「男は黙って笑え」……この後の、大竹まことの「笑えないよ!」というツッコミ付きで、実に笑えた。
気付けば、あっという間にビデオは終了。とにかく笑ったり、妙に寂しい雰囲気を堪能したりしているうちに終わってしまったような気がする。徹底的にナンセンスな世界観と、ほど良い温度で展開する人々の会話が混合する、不思議な心地よさ。この世界にズッポリはまってしまった僕は、すぐにDVD-BOXの購入を決意したのであった。チャンチャン。

・収録内容(タイトルは僕が勝手に付けてます)
「貴婦人、笑う」「老人狂騒曲」「屋上の菅原さん」「算数の授業」「仲良きことは美しきこと哉」「労働者たち」「夢の自動車、タケオ」「マッシュルームエンジェルズ」「教授、お疲れ様です」「電柱男たち」「英語の授業」
・収録時間:97分