菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

笑魂!『髭男爵 ルネッサンス〜逆に聞こう、何がおもしろい?〜』

2006年の末。M-1グランプリの敗者復活戦にて、ある奇妙なコンビが暴れまわっていたという話が、ネット上を駆け抜けた。その映像はYouTubeニコニコ動画といった動画サイトで取り上げられ、結果、彼らは数多くの支持者を獲得するに至った。更に翌年の2007年。そのキャラクターのインパクト故に、2006年一回きりの準決勝進出だと思われていた彼らだったが、彼らは漫才師としての実力を蓄え、再びM-1グランプリ準決勝戦へと進出したのであった。彼らこそ、日本の芸能史上(おそらく)初の貴族漫才師、髭男爵である。
2006年のM-1で注目されるようになった彼らだが、その歴史は意外と古い。髭男爵が結成されたのは、1999年のこと。最初はトリオだったが、そのうち一人が脱退し、コンビになったそうだ。結成当初は普通の漫才コンビだった。その実力は、当時2002年に初めて出場したオンエアバトルで、10組中最下位という無残な結果を叩き出していたことから、察していただきたいと思う。
そんな彼らの芸風が変わったのは、2004年のこと。このままでは売れないと確信した山田ルイ53世(元:ピュアぞー/本名:山田順三)が、貴族の衣装を身に纏い、男爵キャラを演じるようになったのである。ただ当時、その相方であるひぐち君(本名:樋口真一郎)は、まだ普通のツッコミだった。貴族の山田が放つ、ブッ飛んだ発想にツッコミを入れるという、男爵キャラを客観的に見るポジションだったのである。このスタイルになってから、彼らは再びオンエアバトルに参戦している。結果は、10組中4位という上々の成績で、かつての雪辱を果たせたと言えるだろう。
しかし、髭男爵は再び行き詰る。山田のキャラクターは確かに斬新ではあったが、ボケのキャラクターと世間のギャップをネタを笑いにする芸人は他にも数多く存在していたため、すぐに見飽きられてしまい、ネタ自体を評価されるようになったのである。そして、元々それほどネタが面白いとは言えなかった髭男爵。正直、行き詰って当然だったといえるのかもしれない。オンエアバトルでは二連勝を果たした後に三連敗したことが、その当時のネタの不安定さを物語っている。彼らには、更なる革命が必要だったのだ。
やがて、彼らは革命を起こす。ツッコミ役だった樋口を召使いに仕立て上げ、貴族の世界を否定しないネタをするようになったのだ。更に、芸風も世界観を潰さないようにするため、ツッコミのある漫才ではなく、貴族っぽさを短くアピールできるショートコントになった。時は2005年、秋。M-1グランプリの準決勝に彼らが残る、一年前のことである。
今回のDVDでは、その時期に作られただろうショートコント……もとい、ショートコンツェルンネタが詰め込まれている。そのネタは、基本的にスベっている。そこそこ面白いネタもあるが、スベっているような空気にしている。俗に言う“スベり芸”である。恐らく、事務所の先輩であるダンディ坂野にレクチャーしてもらったのだろう。それなりな“スベり芸”を展開させており、今後の彼らに期待せざるを得ない内容だったと思う。幕間映像も、髭男爵ならではの貴族臭さ満載の内容になっており、良い了見を持っていると感心した。
ただ、残念だったのが漫才ネタ。てっきり、M-1グランプリ2007で披露していた漫才を披露しているものだと思っていたのだけれど、今作で披露されていた漫才は、まだまだ未完成の漫才で、非常に残念な出来だった。やはり、ひぐち君は喋り過ぎないほうが良い。

・本編(33分)
「ショートコンツェルン un」「髭男爵 50の質問」「ショートコンツェルン deux」「髭男爵 50の質問」「中世ヨーロッパ お漫才」「髭男爵 50の質問」「貴族の憂鬱」「髭男爵 50の質問」「ショートコンツェルン trois」「髭男爵 50の質問」
・特典(19分)
「華麗なる血族」「まだ貴族と知らされる前の男爵様」

特典映像には、謎多き山田氏の私生活に迫る『華麗なる血族』(特別出演:ロリィタ族。・どーよテル)と、まだ男爵キャラクターを確立する前に披露していた髭男爵の漫才を収録。タイトルが『まだ貴族と知らされる前の男爵様』ってのが良い。「あ、あのネタって男爵キャラの前からやってたのかー」ってなネタをやっとりました。