菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

陣内智則・考『NETA JIN』

陣内智則 NETA JIN [DVD]

陣内智則 NETA JIN [DVD]

 無いものを在るように演じるのがパントマイムなら、在るものを無いように演じるのは逆パントマイムだ……と、吹越満が自身のライブで言っていたことを、なんとなく思い出した日。僕は、陣内智則のライブDVDを振り返って
みることにした。大した理由じゃない。単に、このブログでこのDVDの感想を書いていなかった。だから書く。それだけだ。
 それにしても、陣内智則という芸人ほど論じにくい芸人はいないのではないだろうか。大阪府出身のライター恥我さわぐ氏が、陣内智則についてのコラムを僕のお笑い観を支えている名著『お笑い解体新書 vol.1』に寄せているが、その内容は陣内の芸風についてのモノではなく、陣内という芸人の過去について書き綴られたものでしかなかったことからも、陣内智則という芸人の語りづらさが伺えるのではないだろうか。
 そんな陣内の芸を一言で説明するならば、“一人漫才”という言葉が適しているのではないかと思われる。陣内がコントを演じる設定の多くは、一般人のちょっとしたイベントだ。彼女にフラれたことをきっかけに『オウム』を飼う、通信販売で『水晶玉』を買う、『彼女の部屋』で彼女のプレイしているテレビゲームをやる……それら“非日常”と呼ぶほどではない日常のイベントが、陣内のコントの基礎となっている。そこに、ちょっとした笑いのエッセンスを加える。オウムは自分勝手に話を始め、水晶玉は下らない予言を繰り返し、彼女のテレビゲームのキャラクターは傍若無人な態度を取り続ける。これらの笑いの作り方は漫才のそれと同様だ。思えば、陣内のコントの設定は、漫才のそれに似ている。いや、それだけではない。『羊が一匹…』『視力検査』などに見られる、同じ設定を何度も使いまわす手法も、漫才で頻繁に使用される手法と同じものだ。
 では、漫才師としての陣内智則は優秀だったのだろうか。『お笑い解体新書 vol.1』にて、恥我さわぐ氏は陣内智則がかつて結成していたコンビ“リミテッド”について、次のように書き綴っている。

当初は、西口圭とリミテッドというコンビを組んでいたのだが、全く人気が無く「リミテッドを見ると不幸になる」と、ネタ中は誰一人として舞台を直視してくれなかったという伝説は有名。

 この文章から、陣内智則が漫才師としてはそれほど優秀ではなかったことを、窺い知ることが出来る。では、そんな陣内智則が、どうしてピン芸人として高く評価されるに至ったのか。その理由は、恐らく事実上の相方である原田専門家の存在が大きい。
 原田専門家とは、陣内智則がコントに使用する映像・音声を手がけている映像作家であり、陣内のNSCでの同期でもある人物だ。原田が作り出す映像は、陣内の白黒なコント世界をカラフルにしている。もしも、陣内が単体でコントをやったとしても、それほど面白いものにはならないだろう(本作には『悩み相談』という陣内が身一つで演じているコントがあるが、“いつもと違う陣内”としての面白み以上のモノは得られなかったように思う)。
 先に陣内の芸を一言で書いたように、陣内の芸の本質を一言で書くなら、それは“反則”だ。ただでさえ分かりやすい陣内世界に蔓延るボケたちは、原田専門家によって、更に分かりやすいものへと昇華され、客へと映像として提出されていく。
 元来、分かりやすいボケは、漫才師の高い技術やコント師の高度な脚本によって笑いへと変えられていくものだ。しかし、陣内はそういったハードルを全て飛び越え、視覚的に分かりやすい映像を使用するという“反則”によって、独自の「一人ツッコミコント」を形成することに成功したのだ。
 ……ただ、今回のDVDにおける最大の見所は、コントとコントの間に観られる、陣内智則ののほほんとした天然リアクション芸である。あの和み要素満載な人間性の前には、どんな理屈も通用しない。あな恐ろしや、陣内智則

・本編(101分)
「オープニング」「飛行機」「オウム」「はじめての○○PART 1」「羊が一匹…」「おもひで」「はじめての○○PART 2」「水晶玉」「ゲームセンター」「物売り屋さん」「はじめての○○PART 3」「彼女の部屋」「悩み相談」「はじめての○○PART 4」「視力検査」「卒業式」「エンディング」
・特典映像(13分)
「ネタ供養」