菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『21世紀大ナイツ展』

ナイツ単独ライブ「21世紀大ナイツ展」 [DVD]ナイツ単独ライブ「21世紀大ナイツ展」 [DVD]
(2009/02/25)
ナイツ

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 人には歴史がある。

 そんな当たり前のことを、僕らはときどき忘れがちだ。

 身の回りに生きている人、通り過ぎていく人、まったく関係ない人。全ての人たちには歴史があって、僕たちはその歴史の渦の中を生きている。

 でも、それを意識しながら生きていくことは、とても難しい。何故なら僕たちは、自分たちの歴史を構築することで忙しいし、そもそもそんな歴史を知らなかったとしても、それほど生活に支障は無いからだ。

 だからこそ、その歴史を知ったとき、僕らはなんとも言えない迫力を感じるのだろう。

 今作は、ナイツの単独ライブを映像化した作品であると同時に、これまでにナイツが培ってきた漫才師としての歴史を振り返った、いわば一つの歴史ドキュメンタリー作品だ。

 ナイツはライブ本編において、過去に自らが作り上げてきた漫才のスタイルを観客に提示していき、如何にして「ヤホー漫才」というスタイルを生み出すに至ったのかを、身を持って語っている。

 それは、現在の「ヤホー漫才」というスタイルが完成形であるという自覚と、ここから大きく変化する必要は無いという確かな自信の証明でもある。

 間も無く結成十年目を迎えるナイツ。そのスタイルで、演芸場の星となるか? ……もう既になっているって? これは失礼。

 それにしても、紆余曲折を感じさせられる歴史である。

 そもそも結成当時から、塙が交通事故によって足を痛めたために、立った状態を維持しなくてはならない漫才が出来ず、コントを選ぶしかなかったという突然の波乱万丈には、驚かされたというか、思わず噴き出してしまった。

 本編のオープニングでは、当時のコント『タクシー』が披露されている。確かな話術が培われている今だからこそ、それなりに観られるものになってはいるが、デビュー当時の彼らが同じネタを披露しているのを観たら、これとはまったく違う印象を受けることだろう。

 ライブが進むにつれ、ナイツの漫才スタイルは「時事ネタ」「漫才コント」「野球漫才」へと変化していく。

「時事ネタ」「漫才コント」と称して披露された漫才は、かつて『爆笑オンエアバトル』でも披露し、なんとかオンエアにこぎつけたネタだった。

 今観ても、なかなか面白い。話術の向上も関係しているのだろうが、それよりも、当時の彼らがちゃんと漫才師としてネタを作るということに、真剣に向き合っていたということなのだろう。

 非常によく出来た漫才だった。

 もしも今、彼らが通常のネタ番組で当時の漫才を披露したとしても、きっと違和感無く観ることが出来るだろう。

 最近まで披露していたという「野球漫才」には、現在の「ヤホー漫才」を感じさせられる展開が見られ、非常に興味深かった。おそらく、このスタイルを掘り下げて、彼らは現在の「ヤホー漫才」を発掘したのだろう。

 その歴史は、「ヤホー漫才」が決して偶発的に生まれたものではないことを意味している。

 それは、生まれるべくして生まれたのだ。

 人には歴史がある。

 芸人にも歴史がある。

 僕たちがテレビを観ながら、「面白い」だとか「つまらない」だとか言っている人たちにも、確かな歴史がある。僕たちはその表面の部分だけを見て、ああだこうだと文句をつけている。

 それを否定するわけではない。視聴者は、いつだって無責任なものだし、無責任であるべきだ。

 だけども、彼らの歴史についてちょっと考えてみるのも、悪いことではない筈だ。

 今作で、その歴史に一つの区切りをつけたナイツ。

 そこから更に、どのような歴史が刻まれるのかは、誰にも分からない。

 でも、その歴史がこれまでよりも面白いものになることは、間違いないだろう。

 たぶん。


・本編(55分)

『古代 コント文明の崩壊(2000年)』

『開会宣言 ~ オープニング』

『中世 時事ネタ漫才の誕生(2002年~2003年)』

『近世 漫才コント改革(2004年~2005年)』

『近代 動乱の野球漫才期(2006年)』

『ナイツ大陸』

『現代 ヤホー漫才の確立(2007年~現在)』

 「スポーツの祭典」

 「アニメの巨匠」

 「80年代のスター」

・特典映像(28分)

「CMN Cable Manzai Network」「ナイツ一問一答」「撮り下し長編最新ネタ『アメリカ』」