菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

第9回 東京03単独ライブ『いらいら』

第9回東京03単独ライブ「いらいら」 [DVD]第9回東京03単独ライブ「いらいら」 [DVD]
(2010/02/19)
東京03

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キングオブコント2009覇者、東京03が2009年5月に行った単独ライブを収録。キングオブコントの決勝戦があったのはこの年の9月なので、今作は事実上、優勝直前に行われた単独ライブを収録していることになる。実際の大会で披露されたコントは、このライブでのネタではなく、もっと以前のネタだったのだが。

東京03のコントといえば、やたらと喧嘩腰になる展開が多く、それ故に内容が安直であると思われがちだ。実際のところ、彼らがキングオブコントで優勝を収めた当時も、ただキレているだけのコントがどうして評価されているのか理解できない、などというネット上での批判も幾つか見られた。確かに、彼らのコントは安直でストレートだ。序盤で提示された設定が大きく展開することなく、最後のオチまで引っ張られ続けることが、非常に多い。

例えば、今作で披露されているコントに『人間ドック』というものがある。このコントは、人間ドックにやってきた飯塚と角田のうち、角田が検査をぐずる場面から始まる。この状況は、オチに至る場面に突入するまで、決して動くことはない。角田はひたすら検査をぐずり続けるし、飯塚はそんな角田のことが理解できないままだ。しかし、そんな二人のやりとりは、単なる平行線を辿らない。

角田は当初、「検査で身体の悪い部分が見つかったら嫌だ!」と叫ぶ。それを受けて、飯塚は「悪い部分を見つけるために検査するんじゃん」と応える。先にも書いたが、この二人のスタンスは、オチに至るまで決して変わることはない。しかし、角田はこの自身の考えをより強固なものにするために、飯塚に対して具体的な例え話を始める。角田は、検査を受けた後で、医者に「高いですねぇ!」と言われることが恐いという。

角田「高いですねぇ!とか言われるぞ」

飯塚「何がだよ!」

角田「数値だよ!数値!」

飯塚「何の数値だよ!」

角田「「一般の成人男性は100なんですが、あなたは8,000あります」」

飯塚「だから何の数値だよ!」

角田「「8,000!」」

飯塚「いや、何が8,000なの!?」

ここからしばらく、話は角田がいうところの“100が8,000”にシフトチェンジする。飯塚は角田の自論を否定しつつも、角田が提唱する“100が8,000”の話に完全に飲み込まれていく。つまり、ここで二人の話は、冒頭とまったく同じテーマであるにもかかわらず、冒頭とはまったく違った話にすり替わってしまっているのだ。こういう見せ方が、東京03は尋常じゃなく巧い。

なお、この“100が8,000”の話は、あまりにも美しすぎる着地を決めることになる。“100が8,000”の話に飲み込まれている飯塚は、角田に対し「だったら8,000を100に戻せばいいじゃん」と提案する。それでもぐずる角田に、飯塚は次の様に続ける。

飯塚「ちゃんと治療すれば、8,000は100になるよ。ねぇ先生、ちゃんと治療すれば8,000も100に下がりますよね?」

豊本「何がですか?」

飯塚「……何がですか?」

医者を演じている豊本が「何がですか?」と言った瞬間、二人のやりとりはまったくの妄想でしかないということがはっきりと突き付けられる。この結末のキレ味たるや! その後も、角田がようやく検査を受けようとするも、結果が出るのは三週間後だと聞かされて「話変わってくるわー」と再びぐずり始めたり、一人で検査を受けようとする飯塚を角田が無理やり引き止めたり。二人の状況は変わらないものの、その状況を飽きさせない様々な変化が、このコントの中では繰り広げられているのだ。つまり、東京03のコントは、その構成が巧みなのである。

これは彼らの他のコントにも、同様に言えることだ。女性に送ったメールがなかなか返ってこずにやきもきしてしまう『返信メール』も、会社の同僚を連れて帰宅したら何故かそこには学生時代の友人がいた『友人の家』も、豊本演じる女性が飯塚演じるヤクザ風の男を注意する場面から巻き起こる事件を描いた『初デート』も、全てその構成の巧さによって成立している。勿論、三人の演技力や、一つ一つのボケの強烈さがあって成立しているのだが。

現在、東京03は第10回単独ライブ『自分、自分、自分。』を行っている。このライブは、2009年の夏に行ったベストライブ以来の全国公演で、芸人たちの間ではかなりの完成度であると早くも評判だ。個人的に、東京03の現時点でのベストな単独は、第7回単独ライブ『スモール』なのだが、それ以上の完成された笑いが、そこでは披露されているのだろうか。今から、楽しみだ。

ちなみに今作では、完成されたコントとともに、これまた完成された幕間映像が収録されているのだが、こちらはあまりにも自己主張が強すぎて、些か幕間映像としてのキャパシティを越えてしまっている感が否めなかった。幕間映像は、あくまでもコントとコントの繋ぎなので、あまり気合を入れ過ぎて作られても、ちょっと困る。ここはもう少し、調整しても良いのではないだろうか。……テーマソングの完成度は高いんだけどね、前回同様。


・本編(97分)

「キャスト紹介「ピアノソナタいらいら」」「BAR」「主題歌「あつかい知らずの悲劇」」「返信メール」「怒っていいのかな?」「人間ドック」「100が8000になった時の対処の仕方」「友人の家」「フレンド」「あの話」「メール見ろや」「初デート」「修学旅行」「エンディングテーマ「WHAT IRRITATING」」