菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

第12回東京03単独公演『燥ぐ、驕る、暴く。』

第12回東京03単独ライブ「燥ぐ、驕る、暴く。」 [DVD]第12回東京03単独ライブ「燥ぐ、驕る、暴く。」 [DVD]
(2011/11/16)
東京03

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第十二回東京03単独公演『燥ぐ、驕る、暴く。』がDVD化された。

パッケージを見ると、スーツ姿の三人が写し出されている。公演のパンフレットか、或いはポスターで目にした写真と同じものだ。自然に、今年7月に行われた岡山公演のことを思い出す。駅から歩いて十数分のところにある“さん太ホール”で行われた、あの日の公演のことを。

(以下、ネタばれを含みます)

 

開演の時刻になると、ホール内にピアノの演奏が鳴り響き始める。大竹マネージャーによる前奏曲だ。このピアノ演奏とともに、出演者の名前が舞台背景のモニターに映し出されていく。過去の単独公演DVDで観た構成と、まったく同じ流れだ。てっきり大竹マネージャーの演奏はDVDにのみ収録されているものだと勝手に思い込んでいたのだが、まさか実際の舞台でも流されるとは思ってもみなかった。曲目は『燥ぐピアノ』。指が踊っている様子が目に浮かぶ軽快な演奏に、なんだか気持ちも盛り上がってくる。

やがて曲はフェードアウト。一本目のコントが始まった。

舞台に灯りが点ると、そこにはソファーに座っている三人の姿。実をいうと、僕が東京03の姿を生で目にするのは、これが初めてではなかった。以前、彼らが香川へ営業にやって来るという話を聞きつけ見に行ったことがあるからだ。だが、営業で鉄板ネタを披露している彼らと、単独公演の舞台で新ネタを披露する彼らは、まるで表情が違っていた。考えてもみれば、当然のことだ。芸人にとってプライベートな空間といっても過言ではない単独公演とはいえ、目の前にいるのは、これまでの自分たちの活動を多かれ少なかれ目にしてきている観客たち。少しでも手を抜けば、すぐさまそのことがバレてしまう。ましてや、ネタは練りに練ってきた新ネタ。営業の時に見せていた朗らかな表情など、本番中に見せる筈は無いのである。

話を舞台に戻そう。ソファーに座っている三人は、神妙な面持ちで机の上にある携帯電話を見つめている。ただごとではない緊張感。と、そこで電話が鳴った。三人の真ん中に座っている飯塚が出る。「はい、もしもし。……東京ショートムービーフェスタの?」。どうやら三人は東京ショートムービーフェスタに、自作の映画を出品したらしい。相手の言うことに相槌を打ち続け、そっと携帯電話を机上に戻す。そのまま俯いてしまった飯塚に、「どうだった?」と角田がたずねると、笑顔を見せながら「本戦出場だって!」。パッと緊張が解ける。準備してあった発泡酒を手にして、角田の音頭で乾杯。これから先のことを想像して、思わず話に花が咲く。中でも、一際盛り上がっている角田。「俺たち三人だったら、いけるって!」「最強の俺たちに、かんぱーい!」と、改めて乾杯の音頭を取ろうとすると、飯塚がそれを制止する。「お前、一番なんもしてないよな?」。そして主張する。監督や脚本を手掛けた自分たちを差し置いて、「一番喜ばないで!」と。

通常、お笑い芸人の単独ライブにおいて、一本目のネタはシンプルで短めの内容で終わるものだ。何故ならば、一本目のネタは前座の役割を担っているからである。これからライブの本編が始まろうというのに、前座が出しゃばってはいけない。ところが今回、東京03は一本目に複雑なシチュエーションのコントを持ってきた。映画作りにおいて重大な役割を担った二人の“喜ばれたくない”気持ちも分かるし、映画にそれなりに貢献した角田の“喜びたい”気持ちも分かる。どちらが悪いということはない。それなのに生じてしまう、小さな反発。結果として角田は我慢を強いられ、二人ほどは喜ばないように努めようとする。……東京03が得意とする“人間の機微”を描いたコント『本戦出場』は、その複雑さをシンプルに描いた秀作だった。こんな凄いコントで幕を開けるなんて、今回のライブはどうなってしまうんだろう……と、本当に心の底から思ったものである。

『本戦出場』が終わると同時に、ライブの主題歌が流れ始める。曲目は『PASSION A GO I LOVE YOU』。これまでと同様に、東京03とオークラによって制作された楽曲だ。先程まで三人がいた舞台に巨大な白地の幕が下りてきて、そこに赤塚不二夫調に描かれた東京03が燥ぐ姿が、音楽に合わせて楽しげに映し出されている。それにしても、今回もかなりの名曲だ。「相手を落として燥ぎたい 自虐を自慢し驕りたい」という歌詞がとても笑えるが、一方で心に沁みる。身に覚えがあるからだ。

その後のコントについては、もはや説明の必要もないだろう。何処を切っても同じ顔の金太郎アメの如く、何処を取っても名作コント揃いだ。ただ、それらのコントは、どれもこれもまったく違った表情をしている。後輩の失敗談を大袈裟の誇張して、実話以上の笑い話に捏造しようとする先輩を描いた『鬼才』。真面目なイメージの強い先輩の彼女が、そのプライベートでしか見せない表情を語ってしまう『だけのノリ』。ファミレスで久しぶりに会った友人が自分のことを覚えていないみたいなのだが、後でその友人がまったくの赤の他人であることに気付いてしまう『再会』。どれもこれも、至極の出来だ。中でも、『鬼才』のエグりっぷりは、強く記憶に残っている。バカリズムの『根本のおもしろさ』(from「勇者の冒険」)に似た、あの某すべらない話に対する批判めいた何かが……。

今回、東京03の単独公演を見ていて、ある一つの変化に気が付いた。以前の東京03は、『本戦出場』の様に人間関係の機微を描いたコントを主に演じていたが、今回のライブで演じていたコントは、非常にコント的だった。……と書くと、なにやら曖昧模糊としている。いわば、よりフィクション性が強まっている、とでもいうのだろうか。

『家族会議』というコントがある。上司との不倫、そして子どもを孕んだことを理由に会社を辞めようとする娘について、当人と父親と息子の三人で家族会議を行うというネタだ。仕事を辞めた後のことを聞かれて「キャバクラでもなんでも、夜の仕事でもするわよ!」と叫ぶ娘に対し、父親は怒りを見せる。「バカを言うな!それなりの額を稼ぐにはな、自分を指名してくれる常連客を作る必要があるんだぞ!」……まるで、『笑う犬の生活』を観ているかのような、コント的展開だ。この後、父と娘はキャバクラについて、話を盛り上げていく。聞いたところによると、このコントは角田がキャバクラについて熱く語りたいという気持ちをぶつけた結果、生まれたのだという。こういうネタも作ることが出来るのかと、思わず感心する一本だ。

そして迎えた最後のコントは、ロングコント『何かありそうな日』。久しぶりに三人で集まった男たちが、昔話に花を咲かせていくうちに、どうやら角田がいないところで残りの二人がちょこちょこ会っていたことが発覚する。「友情片道切符ですかぁ!」と絶叫し、ソファベッドでうつ伏せになる角田。ところが、その角田が二人にある話を切り出すことで、事態は急速に展開していく……。東京03単独の最後を飾るコントは、毎回、放送作家のオークラが手掛けることになっている。この『何かありそうな日』も、オークラによるものだ。正直、オークラの作家としての手腕は決して悪くはないと思う。思うのだが、どうも従来の東京03のコントと比べると、違和感を拭えない。ネタに仕込まれた細かいギャグや仕掛けは相変わらず秀逸なのに、キャラクターが当人たちと合致していないというか。ただ、それでも今回のネタは、以前に比べるとだいぶ改善されるようになった気もする。今後、更に東京03らしいコントが作られることに期待したいが、果たしてどうなるか。頑張れ、オークラ。

最後のコントが終わり、エンディング曲『今日は良かった』が流れ始める。舞台には再び大きな幕が下ろされ、そこにスタッフロールが流れていく。全てのコントが終わったという感慨深さを覚えているというのもあるのだろうが、やはり、どこか人の心に突き刺さる歌詞に思わず目頭が熱くなってしまった。「今日は良かった 普通で良かった いい事なんか何一つなくて 何もなくて良かった」というフレーズが、なんともたまらない……。

ライブはこれで終了。だが、DVDはまだ終わらない。

今回のDVDには、追加公演で行われたユニットコントも収録されている。ゲストとして出演しているのは、浜野謙太(SAKEROCK)と矢作兼おぎやはぎ)。東京03の公演で披露されるユニットコントということで、全体的に東京03寄りの内容になっているのかと思っていたのだが、その内容は完全に“東京ヌード”そのもの。東京ヌードというのは、以前におぎやはぎドランクドラゴン、そして東京03の前身であるアルファルファの三組で結成されたユニットで、ナンセンスなコントを主に演じていた(東京ヌードのコントは『おぎやはぎ BEST LIVE 「JACK POT」』に再演されたものが収録されている。今でも復活を待ち続けているのだが……)。詳細はここでは書かないが、どちらも秀逸の下らなさである。タワーレコードでは、このユニットコントの別バージョンを収録したDVDを、初回限定でセット販売している。気になる人は、そっちに手を出してみよう。

今、現在、最も目にしておくべきコント師と断言しよう。今の東京03を見逃す理由は、ない。


・本編(113分)

「本戦出場」「鬼才」「シャイ」「だけのノリ」「再会」「家族会議」「何かありそうな日」

・特典映像(36分)

追加公演より「名探偵フレッド(浜野謙太ver)」「地獄のピクニック(矢作兼&浜野謙太ver)」「千秋楽 舞台挨拶」