菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『兵動大樹のおしゃべり大好き。4』

兵動大樹のおしゃべり大好き。4 [DVD]兵動大樹のおしゃべり大好き。4 [DVD]
(2010/05/19)
兵動大樹

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困った。困ったことに、今最も面白いピン芸人は、兵動大樹である。勿論、ご存知の方もいるだろうが、兵動大樹ピン芸人ではない。矢野勝也とともに“矢野・兵動”というコンビとして活動している、れっきとした漫才師だ。しかし、これは覆らない。仕方がない。なにせ、兵動大樹のトーク芸は、あまりにも完成されている。彼自身は決してピン芸人ではないが、彼の芸はもはやピン芸人の頂にあるといっても過言ではないのだ。

コンビとして活動している芸人がピンとしてもネタを行う、ということは決して珍しい例ではない。尚且つ、そのネタで他のピン芸人に引けを取らないほどの笑いや感動を巻き起こしている芸人もまた、決して少ない数ではない。例えば、千原ジュニア千原兄弟)や小林賢太郎ラーメンズ)が行っているソロライブなどは、十把一絡げのピン芸人では到達することが出来ないだろう領域に達しているといえるだろう。ただ、彼らの芸は、あくまでもコンビ芸を前提としたピン芸だ。コンビとしての活動から生み出される笑いと同レベルの笑いは、決して生み出せてはいない。

ところが、兵動大樹は違う。兵動は、矢野・兵動としての活動によって生み出される笑いをも超えた笑いを、そのトーク芸によって生み出している。当然のことながら、これは矢野・兵動が漫才師として劣っているということを意味しているわけではない。矢野・兵動として生み出している高水準の漫才をも超えた笑いを、彼は一人舞台で生み出しているということを意味しているのである。それほどまでに、彼の話術は完璧だ。

……と、ここまで持ち上げたからには、その理由について語らないわけにはいかない。元より、そのつもりである。兵動大樹という芸人の、その話術を駆使したトーク芸の凄まじさについて、僕は語る必要がある。兵動大樹は、もっと多くの人間に語られるべき芸人だからだ。

兵動大樹のトーク芸の凄さについて語るために、語らなくてはならない要素は幾つか存在している。例えば、そのトークのネタとなる出来事に遭遇する頻度の高さ、それらの出来事をよりコミカルに表現する構成能力・演出能力の高さ、それらの出来事の面白い部分をきちんと抽出する観察力……などなど。触れるべき点は多い。今回は、それら全体をおおまかに捉える意味で、兵動大樹の“技術力”について語りたいと思う。

一般的に“すべらない話”と呼ばれているエピソードトークは、ごく当たり前な人間ではめったに遭遇することのないだろう出来事をコミカルかつダイナミックに語ってみせているもの、と考えられている。事実、この兵動大樹のトークライブDVDのオープニングでも、彼は“日本一ミラクルな出来事に巻き込まれる男”として紹介されている。しかし、笑える話というのは、決して非日常的でなくてはならないわけではない。ごく当たり前な日常も、その話の取り上げ方次第では、幾らでも面白いものへと昇華されるものだ。

今作『兵動大樹のおしゃべり大好き4』に収録されているエピソードの多くは、彼が非日常とはいえない程度の日常の中で遭遇した出来事ばかりが語られている。新しそうな中華料理屋と古そうな中華料理屋のどちらを選ぶかという状況で、古そうな中華料理店を選んでしまった『中華料理屋』。行ったことのないメガネ屋でメガネを買った『メガネ』。ロケ先で頭にちょっとしたケガをしてしまった『ケガ』。どれもこれも、僕らがごく当たり前に体験するような、日常的な状況ばかりだ。

例えば、『虫』という話がある。娘の買い物をしている最中、タバコを吸いながら休憩していると、ファンの人たちに取り囲まれてしまい、ちょっとした人垣が出来上がるのだが、そんな状況下で兵動の背中に大きな蜂がとまって、混乱状態に陥ってしまう……という話だ。この決して非日常的とはいえない状況を、兵動は「自分の虫嫌いっぷり」を示したエピソードを加えた上で、「最初に自分に気付いたファンの子の微妙な佇まい」「背中に蜂がとまっていることを教えてくれたボッロボロのおっさん」「蜂の存在を知って慌てふためく自身の悲鳴」などの要素を盛り込み、加えて擬音や動き使って当時の状況を巧みに再現することで、ごく自然に大事件であるかのように演出し、すべらない話として昇華してしまう。この“なんでもない日常を笑いへと昇華する処理能力”が、兵動はズバ抜けて高い。

なお、今回の作品では、これまでにはあまり語られることがなかった、兵動大樹の実娘である愛寧をメインとしたエピソードも幾つか見られた。この我が子をメインとしたエピソードトークが、また面白い。子供という純粋かつ得体の知れない存在を、兵動が独自の視点で分析し、その行動を観察、単なる子煩悩トークとは一味も二味も違ったトークを展開している。過去三作品と比べても、非常に完成度の高い作品に仕上がっているのではないだろうか。文句無しの一品、“一家に一枚”と言わずに過去の作品含めて“一家に四枚”、是非お勧めしたい。


・本編(129分)

「ひだりとんぺい」「クイクイ」「兵動家の避難訓練」「虫」「腹痛」「中華料理屋」「メガネ」「ケガ」「マーメード!!」「ドリラちゃん」

・特典映像(55分)

「アイネ白雪姫」「大興奮!ディズニーランド旅行」

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