菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『KINGKONG LIVE 2010』

KING KONG LIVE 2010 [DVD]KING KONG LIVE 2010 [DVD]
(2011/07/20)
キングコング

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最初に言い始めたのは誰なのか。彼らの何を見て、どう感じて、そういう結論に至ったのか。その発端は定かではないが、キングコングが面白くないコンビだということは、一つの常識としてネットを中心に広く伝えられている。NSC在学中にNHK上方漫才コンテスト最優秀賞を受賞、その後も数々のお笑い賞レースをことごとく制覇し続けてきた彼らは、いわばお墨付きの漫才師だ。また、その一方で、ロザン・ランディーズとともにユニット“WEST SIDE”を結成し、大阪の若い女性たちから高く支持されていた。……にも関わらず、現在の彼らは決して芳しい評価を受けているとは言い難い。

キングコングが面白くないとされている理由の一つに、人気と実力が比例していないという印象があるように思う。早々と「はねるのトびら」レギュラーの座を獲得し、更に数々のバラエティ番組にも着々と進出していった彼らは、いわゆる年功序列システム、或いは、辛酸を舐めて這い上がってきたという様なドラマ性から外れた、俗にいうところの異端児的な存在だった。そういった若手はどうしても生意気に見える、という日本人的な鬱屈とした凡庸思想が彼らの評価を不当に値下げしてしまったのではないか、と個人的には考えている。……まあ、西野がブログでビッグマウスぶりを発揮していたことも、少なからず関係しているのだろう。正直、タレントとしての彼らは、可もなく不可もなくといったところで、そこまで非難されるものでもなければ、それほど評価されるものでもないと思うが。

それでは、漫才師としての実力はどうか。先にも書いた様に、キングコングはかなり早い段階から漫才師として高く評価されていた。だが、「M-1グランプリ2001」を観た人なら分かると思うが、少なくともM-1においては、当初彼らは漫才師としてそれほど評価されていなかった。どうして、ここにズレが生じたのか。恐らく、キングコングの漫才は、技術的には既に完成されていたのだろう。ただ、その徹底して動きにこだわった視覚的な笑いが、些か軽薄だったのだろう。無論、それが彼らの芸の本質ではあったのだろうが、濃密な笑いを求めるM-1グランプリという空間では、それはあまりにも軽過ぎた。事実、当時の放送をリアルタイムで観ていた僕も、彼らの漫才にはあまりシンパシーを感じられなかった(おぎやはぎの漫才には激しく感じていたが)。

あれから十年。キングコングの漫才は、随分と進化を遂げた。ただただ軽くてソツの無さだけが印象的だった彼らの漫才は、その分かりやすさを維持しつつも、幾らかの奥行きが見られるようになった。彼らにとって初めての単独DVD『KINGKONG LIVE 2010』には、近年のキングコングの漫才が収録されている。幕間映像を要することなく、ひたすらに漫才だけで駆け抜ける約90分間のライブは、彼らが漫才にストイックであることを真摯に表している。

本作に収録されている漫才は、そのほぼ全てが新ネタだ。コンビのどちらがオシャレなのかをしりとりで競い合う『しりとりDEてんやわんや』、テレビのヒーローを二人で再現してみる『ヒーロー見参』、怖い話を始めた筈がとある有名バラエティ番組がいきなり飛び込んでくる『怖い話は難しい』など、徹底して分かりやすく、かつバカバカしい内容の漫才ばかりが披露されている。個人的に大笑いしたのは、海水浴場に行くときに浮輪が邪魔になるので顔にハメていこうという漫才を、実際に顔に浮輪をハメて演じた『ウキウキ海水浴』。小道具を駆使した反則気味な漫才だったが、あまりの下らなさに苦笑いが止まらなかった。

逆に、イマイチに感じられたのは、『僕らの機種変更』という漫才。その内容は、梶原が携帯電話の機種変更をやろうと思っているのだが、やりかたが分からないので、西野に教えてもらう……というもの。バカのふりをした梶原が「どうすんねん?」「どうしたらええねん?」とどんどん西野を追い込んでいく様が面白いネタだったのだが、どうしてもブラックマヨネーズの漫才を思い出してならなかった。以前、似たようなネタを披露している二人を「笑神降臨」で見た記憶があるが(あれは住民票の貰い方だったか)、こういうスタイルが彼らにとって一つのパターンとして存在しているということなんだろうか。それにしては、梶原の追い込みは吉田ほどに理論的ではないし、西野のテンパり具合も小杉ほどに冷静ではない。全体的に感情が走り過ぎていて、こちらに伝わってこないのである。ライブで観れば、もうちょっと印象も変わるのかもしれないが……。

恐らく、キングコングに対して少なからず好感を抱いている人間ならば、何も考えることなく大笑い出来ることだろう本作。だが、一歩引いてみると、これが妙に閉鎖的な印象を受ける。東スポで記事にされたという“西野、路上土下座事件”をネタにするというライブ感溢れるイジりが行われていることも関係しているのだろうが、それよりももっと根深い何かがそこにあるような気がしてならない。

そして思い出したのが、ラーメンズである。いわゆるお笑いファンをターゲットとしていないラーメンズの単独公演を訪れるのは、多かれ少なかれ、彼らのことを理解している“ラーオタ”と呼ばれているファンだ。しかし、ラーメンズのコントは決して彼らのみが理解できるものではない。彼らのことをまったく知らない人間でも楽しめる、分かりやすさと下らなさで構築された笑いが、そこにはある。これと同じ空気を、キングコングライブにも感じられた。無論、彼らは大衆を相手にするタイプの漫才師なので、もっと多くの人たちを対象として捉えているのだろうが……コンビ同士でイチャイチャするくだりが少なくなかったのも、その原因かもしれない(ラーメンズもたまにそういうことをやる)。

コンビ結成10年目を迎え、中堅漫才師としての趣が強くなってきたキングコング。その漫才は相変わらず技術的に優れているが、まだまだ年齢に見合っていないような印象もある。彼らが何処へ向かおうとしているのか、僕にはさっぱり見当がつかない。ただ、漠然とではあるが、彼らは中年になった時にこそ、その本当の面白さを発揮するのではないかと思っている。ライブのアンコールで披露されている『たのしい運動会』は、今の彼らがやっても対して面白くない。でも、彼らが中年になって、体型が崩れて、今よりも高そうなスーツを着るようになった時に、このネタをやればメチャクチャ面白いんじゃないかという気がしている。この予測が的中するかどうかは分からないが、少なくともその日まで、僕は待ってみたいと思う。まあ、期待してみようよ。


・本編(88分)

「しりとりDEてんやわんや」「ヒーロー見参」「怖い話は難しい」「居酒屋へようこそ!」「ウキウキ海水浴」「かけ算リメンバー」「僕らの機種変更」「たのしい運動会」

・特典映像(101分)

「ツアーメイキング映像」「北海道公演、打ち上げ」