菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

安田ユーシ・犬飼若博『LIVE双六 緑』

安田ユーシ・犬飼若博 LIVE 双六『録』 [DVD]安田ユーシ・犬飼若博 LIVE 双六『録』 [DVD]
(2011/12/21)
犬飼若博 安田ユーシ

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安田ユーシと犬飼若博の二人によって演じられる六本のオムニバスコント舞台「LIVE双六」。本作にはその第六回公演の模様が収録されている。作・演出には、小林賢太郎・福原允則・奥原アイザックら三人の作家を迎えており、演者の二人を通して、その個性を発揮している。

恐らく、本公演がこうしてDVD化されたのは、自身の舞台公演を数多く商品化している小林賢太郎の存在が大きい。パッケージにも、小林の名前とともに本作への推薦文が掲載されている。そのことが、そのまま彼のネームバリューの大きさを表している、といっても過言ではないだろう。もはや、小林賢太郎は、コントユニット“ラーメンズ”の一員ではなく、“小林賢太郎”個人でも、堂々と売り出せる存在になってしまった。

ところで、今の小林の肩書は、“芸人”ではなく“劇作家・パフォーマー”らしい。確かに、今の小林賢太郎を芸人と呼ぶことには、少なからず抵抗がある。それは、彼がテレビやラジオなどのメディア媒体に出演していないから、というわけではなく、今の彼が表現しようとしているものがお笑いに留まらなくなってきたから、という意味合いによるところが大きい。無論、彼が演じている物、表現しようとしている事の根底には、今も変わらず笑いがあるのだが、その軸となる部分が、コントに限られなくなってしまった。ラーメンズとしての彼に衝撃を受けた身としては、些か寂しい。

本作の出演者である安田ユーシと犬飼若博は、小林賢太郎プロデュースの舞台に出演しているため、ラーメンズファンには馴染み深い名前だが、実質上はまだまだ無名の役者である。厳密にいうと、安田は役者ではなくお笑いタレントらしいのだが、現在は芝居を中心に活動しているようだ。一方の犬飼はプロの役者だが、近年は自由奔放な嫁を題材としたブログで人気を集め、2011年12月に書籍化された(ちなみに、この本の帯にも、小林賢太郎はコメントを寄せている)。

年相応の顔つきでありながらどこかあどけなさの残る安田と、冷静な大人の男という印象を与える犬飼の二人によって演じられるコントは、どれもこれも個性的で面白い。五寸釘を大量受注してしまった会社がその処分に苦悩する『KUGI 2011』、家電用品店の店員が家電クイズに挑戦する『クイズ』、バラエティ番組のプロデューサーが報道に移動してニュース番組を自己流にアレンジする『ニュースシャッフル』、修学旅行で東京にやってきた学生がふと立ち寄った服屋の店員に巻き込まれる『熊野灘から来た男』……不可思議なシチュエーションの中で行われる二人のやり取りは、たった二人であるにもかかわらず、実に奥行きのある世界を生み出していた。

それにしても、役者が演じているコントというのは、なんだか芸人によるそれとは少し違って見える気がする。「第三者が仕上げた台本を演じる」という行程の中で生じる作品との距離が、ちょっとした違和感となって舞台に反映されているのかもしれない。この不思議な魅力、侮れない。


・本編(98分)

「KUGI 2011」「クイズ」「ゲンちゃんとハチ」「ニュースシャッフル」「熊野灘から来た男」「喫煙室2011」

・特典映像(15分)

「SHINKON ~LIVE 双六「参」より~」(ゲスト:森谷ふみ)