菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『バイきんぐ単独ライブ「Jack」』

バイきんぐ単独ライブ「Jack」[DVD]バイきんぐ単独ライブ「Jack」[DVD]

(2014/09/24)

バイきんぐ

商品詳細を見る

キングオブコント2012』王者・バイきんぐが、2014年6月に東京・北沢タウンホールにて開催した単独ライブの模様を収録。バラエティの最前線に立っているとはいえないにしても、優勝から間もなく三年の月日が過ぎようとしている今も、定期的にテレビで顔を見せているバイきんぐ。その目線は、間違いなくメジャーの方へと向いている。それなのに、どうしてこれほどまでに攻めた姿勢のコントを作ることが出来るのか。『King』でキングオブコント優勝以前のコントを総ざらいし、『エース』で新たなる一歩を踏み出した彼らは、本作『Jack』でとんでもない領域へと辿り着いてしまった。観ている分には面白いけれど、本当にその方向で大丈夫なのか。いや、それで良いというのなら、何も文句はないのが。

かねてより、バイきんぐのコントは「天然の西村に翻弄されながらもツッコミを入れる小峠」という組み合わせを取ることが多かった。『キングオブコント2012』決勝戦で彼らが演じていたコント『卒業生』を思い出してもらいたい。『卒業生』は、西村演じる卒業生が、かつて自身が通っていた自動車教習所の教官(小峠)と思い出を共有しようとするコントだった。一般的に自動車教習所は深く思い出に残るような場所ではない。「免許を取得する」という唯一無二の必需的な目標があるからだ。しかし、このコントで西村が演じている卒業生は、自動車教習所での日々を青春の1ページとして胸に刻んでいる。本当に、心の底から、そう思っている。そのため、西村と小峠の認識のズレが笑いになっている一方で、そのやりとりに、ほのかな共感を覚える。西村の様に、常識的とはいえない独自の考え方をしている人間は実際に存在するし、小峠の様に、そういった人たちに巻き込まれてしまう可能性は誰にでもあるためである。

しかし、本作での西村は、もはや天然で片付けられるレベルではない。はっきり言ってクレイジーだ。それも、ただのクレイジーではない。リアルなクレイジーだ。ハデなメイクでキャラクター化された人間ではなく、何処にでもいそうなクレイジーだ。だからこそ、余計に恐ろしい。遅れてやってきたピザ屋のデリバリーが明らかに交通事故を起こした後で……『ピザ屋』、免許の試験に落ちて本気で落ち込んでいる姿に『卒業生』の前日譚を思わせる『運転免許』、バイト面接の合否が連絡されていないと店にやって来た男が目にしたものは……『レストラン』などのコントもなかなかクレイジーだったが、とりわけ面白かった(恐ろしかった)のは『アパート』と『殺人現場』。

『アパート』は、文字通りアパートの一室が舞台のコントだ。部屋でくつろいでいる小峠の元に、何の前触れもなく西村がやってくる。親しげに話しかけてくる西村だったが、二人には面識がない。実は、西村はかつて小峠が住んでいる部屋の住人で、偶然近くを通りかかったので立ち寄ってみたのだという……。一人暮らしをしていた人間なら、この設定のヤバさが分かるのではないだろうか。自分のスペースだと思って住んでいる部屋に、かつてその部屋に住んでいた人間がやってきて、親しげに話しかけてくるなんて、こんな気持ちの悪いことはない。それなのに、同じ部屋に住んでいたため、隣人や大家の話でちょっとだけ距離が縮まってしまうところが、また恐ろしい。部屋に置き去りにした私物を発見して「まだ殆どオレんチすね!」と言ってのけるところなんか、背筋がゾクゾクする。でも、笑える。

『殺人現場』は更にヤバい。ある女性モデルが自宅で殺害された。容疑者は元恋人で彼女のストーカーになってしまった男だ。二人の刑事が殺害現場を訪れ、捜査を開始する。ところが、そのうちの一人が事件とは別のところを気にし始める。その、別のところとは……「ここ……いい部屋ッスね……」。ただでさえ殺人事件現場という非日常的なシチュエーションであるにも関わらず、ここまでリアルにクレイジーな設定をよくぞ思い付いた!と感心せざるを得ない。いや、これはクレイジーというよりも……「このサイコ野郎がァ!!!」。

特典映像には、ライブの幕間映像に使われた「はじめてのキャンプ」完全版を収録。『エース』ではピクニックに出かけていた二人が、今回は川原で日帰りキャンプを楽しんでいる。とはいえ、単なるオフショット映像ではなく、随所に笑いどころが設けられていて、改めて二人のポテンシャルの高さについて考えさせられる内容となっている。なにせ、キャンプへの移動は小峠が所有するアメ車の中で風俗トーク、現地では常にもっこりパンツ状態、いい年こいてシャボン玉ではしゃぎまくるのだから、そりゃ笑わないわけにはいかない。『ウッチャンナンチャンの気分は上々』を意識したようなテロップにも注目して、是非ご覧下さい。


■本編【55分】

「卒業式」「ピザ屋」「運転免許」「アパート」「クラブ」「バンジー」「レストラン」「コレを…」「コンビニ」「殺人現場」

■特典映像【24分】

「幕間映像「はじめてのキャンプ」完全版」「エンドトーク&「Jack」テレビCMの裏側」「「Jack」テレビCM」