菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『モンティ・パイソン ライブ アット・ザ・ハリウッド・ボウル』

モンティ・パイソン ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウルモンティ・パイソン ライブ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル
(2008/06/25)
グレアム・チャップマン ?ジョン・クリーズ ?エリック・アイドル ?テリー・ジョーンズ ?マイケル・ペイリン ?テリー・ギリアム

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 ニコニコ動画とかでモンティ・パイソンの映像を観るたびに、イギリス人はシニカルな笑いが得意だなあ……と思うことがあるんだけれど、別にそういうわけじゃないんだよね。ただ単に、そのネタを大衆が受け入れられるかどうかの違いなんだよね。イギリス人は受け入れられるけど、日本人は受け入れられない。それだけの話。

 例えば、イギリス皇室をテーマにしたコントがあるんだけれど、これと似たようなことを、日本の皇室に置き換えてやってみても、たぶん笑いにはならない。思想の押し付けというか、プロパガンダ的なものだと思ってしまうから。そういう意味では、イギリスのコメディの方が、日本のコメディよりも笑いの幅は広いと言えるのかもしれない。メシは不味いがコメディは潤った国、イギリス。羨ましいような、羨ましくないような。

 ただ、だからといって、モンティ・パイソンが希有なコメディユニットであったことは、言うまでもないことだけど。彼らの場合、そこがイギリスであろうと、日本であろうと、正統に評価されていたんじゃないかな。だって、彼らの笑いの根底にあるのは“ナンセンス”だから。社会批評も毒舌も飛び越えた、どうしようもないくらいに無意味さ。それがしっかりと根っこの役割を果たしているから、モンティ・パイソンは面白い!

 ハリウッドの野外ステージ“ハリウッド・ボウル”で行われたライブの模様を収録した今作は、モンティ・パイソンのナンセンスさを知るには十二分過ぎるものだった。

 メンバー四人による下ネタの大合唱に始まる今作。その内容の酷さに頭を抱えたくなるが、続けざまに披露される一人レスリングで、完全に頭を抱える。なんだ、これは。なんなんだ、これは。考えている暇なんか、微塵もない。ミケランジェロは「最後の晩餐」に二十八人の使徒を描くし、男たちは真剣にバカ歩きの開発に取り組んでいるし、チョコレート会社はカエル入りのチョコレートを意味無く発売するし……どこまで行っても意味が無い笑いが、次から次へと押し寄せてくる。これはもう、ナンセンスすら越えて、カオスなシュールに突入している気がするな。

 日本でも、彼らレベルのクオリティを保ったコントを、観れないことはない。バナナマンおぎやはぎの『epoch conte square』とか、ザ・プラン9とか、シティボーイズとか。でも、ここまでドライにナンセンスを極めているコントは、他に無いんじゃないだろうか。奇しくも来年、結成四十周年を迎えるモンティ・パイソン。彼らの笑いは、今の潔癖な時代にこそ必要なものなのかもしれない、なんつったりなんかしちゃったりなんかしたもんだったりして。


・本編(約80分)

『シット・オン・マイ・フェイス』『アラブ人の歌』『ブルース』『ゲイの裁判官』『ウィゾ・チョコレート株式会社』『アホウドリ』『貧乏は幸せ』『討論教室』『旅行代理店』『イタズラの形式』『赤ずきんちゃん』『ランバージャック・ソング』

・特典映像:予告編集