菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『麒麟川島単独ライブ 雨降る夜』

麒麟川島単独ライブ 雨降る夜 [DVD]麒麟川島単独ライブ 雨降る夜 [DVD]
(2010/07/21)
川島 明(麒麟)

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麒麟といえばM-1だというイメージを持っている人が多いのではないかと思うけれど、僕にとっての麒麟は「爆笑オンエアバトル」に出演していた漫才師だった。M-1グランプリ2001にそれほど興味を持っていなかったためである。一応、リアルタイムで鑑賞してはいたのだが、当時の僕はあまり芸事に興味を持っていなかったので、麒麟の存在を完全に忘れてしまっていたのだ。だから、麒麟M-1グランプリの決勝戦に進出した漫才師だということは、「爆笑オンエアバトル」で漫才を観てからそこそこ経ってから知った。一応、一度彼らの存在を認識していた筈なので、正しく書くなら“思い出した”とするべきなのかもしれないが。

当時の麒麟の漫才は、とにかくファンタジー色が強かったことを覚えている。中でも印象に残っている漫才が、ファーストフード店で購入したチキンナゲットが一個多かったので、店に返しに行くというネタ。途中、何故か大勢に追いかけられてしまう川島が、チキンナゲットに乗って川を渡るという物凄い内容に、ただひたすら爆笑した記憶がある。ところが、いつの頃からか、麒麟の漫才は退屈になっていった。面白くないとは言わないが、以前ほどに発想の下らなさを活かしたネタが作られないようになってしまったのである。それでも彼らは、少しずつ自らの個性を見出す漫才を切り開いていき、きちんと立派な漫才師になっていったのだが……あの頃のファンタジー色の強い漫才を思うと、なにやら勿体無いような気持ちにもなってしまう。

今作『雨降る夜』は、麒麟のボケ役で低い声担当の川島明が2009年に数回行ったソロライブ「雨降る夜」のネタから傑作を取り揃えたベストライブ「雨降る夜~the best~」を収録した作品だ。麒麟のネタ書き担当でもある川島のソロライブとあって、漫才では見られなくなったファンタジックなボケを堪能できるライブになっているだろうと考え、そこそこに期待して鑑賞。しかし、そこで繰り広げられていた笑いは、麒麟の漫才と同様に、川島の低音ボイスを駆使したネタの数々だった。いや、どちらかというと、麒麟のコントに近いかもしれない。漫才と比較するにしては、今回のライブで披露されているネタはあまりにもヌルかった。あの随所に見られる上滑りしているような感覚は、麒麟のコントを見ている時に近かったように思う。

ただ、ならばつまらなかったのかと言われると、些か返答に困る。漫画の台詞や日常の思いがけない言葉を渋い声で語る『ええ声で言おう』を初めとして、午後のティータイムを楽しんでいるオシャレな紳士の思わぬ行動が印象的な『昼下がりの紳士』、日常のイラッとくる人たちを某番組のナレーション風に解説する『自然の王国』など、きちんと川島の声を活かしたネタがチョイスされており、そういう意味では非常に一貫性のある内容になっていたのではないかと。個人的には、CM前のナレーション収録現場にこだまする謎のフレーズの数々が繰り出される『ナレーターナレーション』が、かなり面白かった。こういう大喜利スタイルのネタが得意な模様。そういえば、幕間映像も大喜利っぽいネタが多かった様な。ライブの最後には、落語っぽいネタ『宝くじ』を披露。これもなかなか良かった。ライブの〆に相応しい、重厚感のあるネタだったと思う。とにもかくにも、オチが良かった。なので、全体的には決して悪くないライブだったと言えるだろう。

それでも、どうしても求めてしまうのは、あの頃のファンタジーな川島明のボケワールド。器用にネタがこなせるようになったことは悪いことではないのだろうが、もう少し自らの声以外の特色を見出せるライブだったらなあ、とか思ってしまうのである。まあ、これはもはや、ただ単に僕があの頃の川島を引きずり過ぎているだけなのだろう。きっと、普通の人にしてみれば、このライブは結構面白く感じられるのではないかと。

なお、今作には副音声コメンタリーが収録されている。これに参加しているのは、川島明当人と過去にソロライブを行った経験のあるインパルス板倉俊之の二名だ。コンビだがソロライブを行ったことのある二人による「ピンとして舞台に立ったことがある人間だからこそ実感できる難しさ」についての話は、かなり興味深い。コンビ芸人でピン芸にも興味を持っている方は、一度聴いてみるのもいいかもしれない。……そんな人が当ブログを読んでいるのかは分からないが。


・本編(70分)

「ええ声で言おう」「オープニング」「ああ苦情」「部首のリサイクル1」「昼下がりの紳士」「部首のリサイクル2」「自然の王国」「えかきうた1」「スコーピオン」「えかきうた2」「ナレーターナレーション」「絵しりとり1」「宝くじ」「エンディング」「ええ声で言おう」

・特典映像(31分)

「絵しりとり2」

「実録 川島明雨降る夜を書く(出演:麒麟川島、天津向、ネゴシックスムーディ勝山)」

・音声特典

麒麟川島&インパルス板倉の副音声