菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

象さんよりも麒麟さんが好きです『キリリン!』

キリリン! [DVD]

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M-1グランプリ2003ではブービーとなってしまった麒麟だったが、2004年大会では見事に蘇った。この大会で麒麟は、後にチャンピオンとなるチュートリアルブラックマヨネーズを敗者復活戦で見事に破り、更に決勝戦でそれまでの麒麟のスタイルを崩した漫才を審査員と客に見せつけ、見事3位という結果を残した。その翌年、2005年の8月に行われた単独ライブ『キリリン!』。かつて、ブービーという結果を残してしまった2003年大会の後に行われた『キリン!キリン!キリン!』とは、殆ど真逆の状態での単独ライブとなったが……この二つの公演には、明らかに違いが見られた。
その最大の違いは、以前よりも川島が「客ウケ」を意識しないボケをやるようになったということだ。客の反応を恐れないようになった、と言うべきかもしれない。『キリン!キリン!キリン!』での川島は、どこか綺麗にまとめようとしてしまう、保守的になってしまうようなところがあった。しかし、この『キリリン!』での川島は、以前ほどに防備を固めることなく、自らの笑いを客へとぶつけていた。川島演じる球児が、試合の四日後に主審の田村に抗議する『抗議』。サラリーマン田村が川島が働く執事喫茶へと入店してしまう『コーヒーの美味しい喫茶店』。二人のアドリブ芸を堪能できる『蜘蛛の糸』……いずれのコントでも田村はキャラクターを徹底的にバカバカしく演じ、内容も前作のクオリティを格段に上げたものになっており、非常に満足できる出来だった。その中でも、特に面白いと思ったコントがNEETという作品。
NEET』は、家で何もせずにブラブラしているだけの二人を描いたコントである。二人には金が無い。職も無い。川島は仕事の面接に行こうとするけど、二分で諦めるほどの無気力っぷり。一方の田村も、ひたすら「モテたいなー」と言い続けるだけ。腹が減ったので、輪ゴムを食べようとするけれど、食べられない。仕方ないから水を飲む。水を飲んだら、眠るだけ……。このコントは、基本的に二人の雑談のみで成立している。ボケらしいボケもあるけれど、基本的に素のままで喋っている。副音声で川島が「お互いがお互いを笑わせようとしている」「お客さんもよう笑ってるなあ」と言うくらい、客を意識していない内容になっている。しかし、客を意識していないということが、面白さに物凄い拍車をかけていた。このコントでは、川島のオブラートに包まれていない独自の発想も、田村の天然っぷりも、純度高めに吐き出されている。
今現在、麒麟は相変わらず「客に見せるための漫才」を作り続けている。2004年大会で見せた輝きも、いいかげん薄れてしまっている。今こそ、この『NEET』の様に純度の高いボケボケ漫才を見せるべきなのだ。川島がボケたいようにボケるスタイル。これが成立すれば、彼らがM-1覇者となる姿を見ることも、夢ではない……と思うのだけれども、どうだろう……。あ、田村さんはいつもと同じでした。この人は、変わらないのが良い。

・本編(145分/ネタのみ記載)
『漫才:ひとりごとはやめられない!!』『コント:抗議』『コーヒーの美味しい喫茶店』『コント:蜘蛛の糸』『コント:NEET』『漫才:通販でもうけまShow』
・特典
『麒麟のプロフィール』
『連想イラスト集』
『麒麟+αの副音声解説』