菅家アーカイブ

過去のブログで書いてきたお笑いDVDレビューをまとめました。

『カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』

カンニング竹山単独ライブ 「放送禁止」 [DVD]カンニング竹山単独ライブ 「放送禁止」 [DVD]
(2009/03/25)
カンニング竹山村上大樹(拙者ムニエル)

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困った。何が困ったって、カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』が困った。もっと詳細を書くとすれば、『カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』の内容が困った。もうちょっと詳しく書くと、『カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』が面白くて困った。もうちょっと細かく書くと……あ、いいかげんクドいですか。

はっきり書こう。カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』の本編よりも、副音声の方が面白くて困っているのだ。いや、だってそうでしょ。普通、副音声というのは本編の単なる付き添いであって、本編を超えて良いわけがないのである。カレーライスを頼んでおいて、カレー自体よりも、添え付けの福神漬けの方が美味いって言うようなもんだ。もしも、それが事実だったとしても、そうそう言えることではない。少なくとも、カレー屋には褒め言葉にはならんだろう。「オヤジ、この福神漬けはカレーより美味いね!」なんて言ってみたら、途端にオヤジは顔を真っ赤にして、「ぬわんだとー!」とか言いながら、厨房の鍋を投げつけてくることが容易に想像できるってなもんだ。昭和の漫画みたいだな。

しかしこれは、はっきり言って副音声のゲストを選んだ人が悪い。だってさ、アンタッチャブル山崎とおぎやはぎ矢作だよ? 人力舎どころか、関東のお笑い界においても唯一無二の実力を持った二人を副音声に招いたら、そりゃ食っちゃうよ。もちろん、竹山さんがつまらないとは言わないよ。でもさ、テキトーでイーカゲンなトークを繰り広げれば天下一品な山崎さんと、そのテキトーなトークを押さえ込むどころか増長させて、更にテキトーな空気を爆発させる技術に長けている矢作さんが、ノンストップで副音声トークを繰り広げたら……そりゃ適わないって。負けちゃうって。

しかもさ、そのトークの内容が殆ど本編と絡んでないっていうのが、恐ろしい。それどころか「竹山さんの下の名前なんだっけ?」とか言っちゃってるし。本編を食っちゃう気マンマンじゃん。副音声としては完全に失格なんだけど、でも面白いんだよなあ。困ったよなあ。お笑いの世界って、面白ければラフ・イズ・オーケイだもんなあ。

と、ここで一周回った考え方をしてみる。今回の竹山さんの単独ライブは、タイトルの通り「放送禁止」がテーマになっている。だから、ライブの内容も<金融会社から四百万引っこ抜く方法>だの、<TENGAを作ったクリエイターのドキュメント>だの、<前田健との同性愛ロマンスショートドラマ>だの、地上波で放送するのはハッキリ言って無理だと言わざるを得ないようなものばかりだ。そんな、異常なほどに濃密なライブを観賞した後は、まるで濃厚な中華料理をこれでもかと口に押し込められたかのような、ギトギトとした疲労感に溺れてしまうことは避けられない。

その疲労感を回復するために、この山崎&矢作による無責任副音声トークという爽快デザートが収録されていたのではないか、と。この副音声に、竹山さんの視聴者に対する気遣いがあったのではないか、と。実は本編を心から楽しんだからこそ、この副音声を心から楽しむことが出来たのではないか、と。……いやー、無理あるかな(笑)

個人的な考えとしては、あまり竹山さんの良さを引き出せたライブにはなっていなかったような気がするなあ。いや、確かに面白いよ。金融会社の話も、TENGAの話も面白かった。でも、今のバラエティでの竹山さんに慣れてしまっているからなのか、どうも違和感を覚えるんだよね。昔の、まだ売り出し始めた頃の竹山さんだったら、まだ必死さにリアリティがあったと思う。でも、今の竹山さんがこういうギリギリな感じのライブをするのって、ちょっと似合わないというか、遅すぎるというか。少なくとも、金融会社で金を借りる方法を「今」のテンションで語られてもなあ……という気持ちはあった。ただ、アングラな笑いが好きな人なら、必見。これはもう、間違いない。ギリギリの笑いが好きな人、テレビでは出来ないような話が好きな人は、純粋に楽しむことが出来ると思う。

余談。マエケン脚本のショートドラマ、普通に良作でした。む。


・本編(98分)

『act.1 ためになる漫談』『act.2 リサーチ漫談』『act.3 ショートドラマ「最後の夏」』『act.4 オヤジの話』

・特典

山崎弘也矢作兼による全編副音声コメンタリー