全てを破壊せよ『犯さん哉』
- 作者: 演劇
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2008/05/21
- メディア: DVD
- 購入: 2人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
そこで、僕はベッドのすぐ脇にあった、テレビの電源スイッチを押すことにした。広島のテレビチャンネルは、香川とは違い、局が六つしかなかった。テレビ東京系列が映らなかった。テレビ東京系列が映らないということは、高校時代にアニメを愛して止まなかった僕にとって、とてつもない衝撃だった。まさか、テレビ東京が映らない地区があるなんて、知らなかった。だから、広島のテレビには少しも期待していなかった。アニメの見れないテレビなんて、意味が無いとさえ思っていた。それでも、この状況を打破するためには、テレビを点けなくてはならない。そう思った。
テレビの電源をオンにすると、NHKの番組が映し出された。どうやら、何処かの舞台演劇を放送しているようだった。四人の女性が、バカバカしくもシリアスな会話を繰り広げるその舞台は、僕の心を掴み、僕を更に夢の世界から遠ざけてしまった。ひたすらナンセンスなその舞台のタイトルは、『フローズン・ビーチ』といった。
これが、僕とケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台の出会いだった。ハイテンションで、面白くて、ちょっとアブない世界。僕は一気に、彼の舞台の虜になった……が、それからしばらくの間、僕が彼の舞台を見ることはなかった。当時の僕は、舞台演劇よりも若手芸人に興味を抱いていたからだ。
その後、僕はケラ氏の舞台を一度だけ観た。近所のDVDショップで、安値で売られていた『カメレオンズ・リップ』。笑えるものを期待していた鑑賞したのだけれど、これは、それよりもアブなさが勝っていて、どうも楽しめなかった。あの『フローズン・ビーチ』の興奮は、二度と得られることは無いのだろうか。そう思いながら、僕はケラ氏に対する興味を、一旦断ち切ることにした。
……しかし。ある日、ケラ氏は再び、僕の眼前に現れたのである。オマケに、相方に古田新太を連れて。ネットでの評判は賛否両論だったが、その両方に「くだらない」という言葉が含まれていたことが、僕の背中を押した。舞台『犯さん哉』。じっくりと、楽しませてもらうことにした。
『犯さん哉』は、古田新太演じる「アラタ」を主人公とした一代記だ。毎晩、世界が滅亡する夢ばかりを見ている中学生のアラタは、学校で不良たちにイジメられる日々を送っていた。そんなアラタにも、夢があった。小説家になることだ。しかし、出版社に持ち込んだ小説は、あっさりとゴミ箱に捨てられてしまう。ところが、それから数年後……。
こういったストーリーだけを見ると、それほどコミカルには思えないかもしれない。しかし、これが尋常じゃないほどに面白い。なんだろうなあ、この面白さ。ベタなギャグあり、ナンセンスなギャグあり、トリッキーなギャグあり……油断していると不意を突かれる展開にはニヤニヤしっぱなしだった。
ただ……この面白さ、どうやって伝えたものだろう。なにせ、視覚的な表現が多いのだ。例えば、電信柱の影からアラタを見守っている女性の胸が電飾で光るってギャグがあるんだけれど、これを言葉で表現することは難しい。説明はしてるけど。この直後、その女性の顔が何故か渡辺えり子になっているというギャグが続くのだけれど、これもやっぱり、実際に観てみないことには理解できない。
なので、僕にはもはや「この舞台は面白かったよ!」としか言えない。過激で、ナンセンスで、どうしようもないくらいにバカバカしい……そんな舞台だったとしか、言いようがないのだ。うーん。でも、下らなくって面白いのは確かなので、機会を見つけて見てください。
つまり、「理屈じゃないからっ!」。
・本編(125分) 「第一部 青春挫折編」「第二部 立身出世編」「第三部 完結編の予告編」「第五部 新人類誕生編」 ・特典(24分) 「メイキング映像」